1
#twnovel 久しぶりに帰省すると、昔ケンカ別れした友人から連絡があった。「漫画家になったんだって? どんなのか知らないけど、姪っ子がファンらしいからサインしてやってくれよ」その子が母親と共に家に来た。「僕の漫画を好きになってくれたきっかけって何?」「叔父さんの部屋に全巻揃ってたから」
2
#twnovel ケルベロスの仔犬をもらった。小さな体に小さな頭が三つ付いていて、すごく可愛い。「大抵、成長すると頭は一つになっちゃうんだよ」「そうなの?」「可愛い顔をいっぱい見せなくても、複数の口で無理矢理いっぱい食べなくても、ちゃんと大事に愛されて守られると安心できたら、そうなる」
3
#twnovel 「そんなに愛していたなら、なぜその人を仲間にしなかったんだ?」友である吸血鬼に訊くと、彼は答えた。「人と吸血鬼では寿命が違いすぎる」「それが理由?」「寿命が違うと生きる速度も感情の速度も違う。愛してると気づいたのは、その人が寿命を全うして百年ほどたった頃だったよ」
4
#twnovel 霊が視える人「半年前に近所の美容院のおばちゃんが急死したんだけど……」 視えない人「何かあったの?」 霊が視える人「近隣の霊がみんなちょっとお洒落になった……髪型が……」
5
#twnovel メイドロボの修理をしていた若手が「えっ」と声をあげた。「どうした」「中の部品が一つだけ違うメーカーのなんスよ」「お前、初めてか」親方は説明する。ときどきそういうのがいるんだ。仲良くなったロボット同士でこっそり部品を交換するらしい。指輪みたいにさ。信じられないか。ハハハ。
6
#twnovel 推理小説を書くのはもうやめると言うと、友人は「それは困る」と喚いた。僕の小説の殺人トリックはすべて友人が発想したものだ。「書いてくんなきゃ、俺、実際に試したくなる……」泣きながら言われて、渋々もう少し続けることにした。後日、友人が持ってきたネタの被害者は推理作家だった。
7
#twnovel 行き倒れの魔法使いを助けたらお礼に魔法瓶を貰った。入れたお湯がいつまでたっても熱々である。ってだだの魔法瓶や。とはいえ折角なので珈琲を入れて持ち歩いていた。ある日、事故で電車に閉じ込められた。「珈琲でも如何ですか」他の乗客達に分けても分けても珈琲は尽きなかった。
8
#twnovel 花魁の前に現れたのは狐だった。怪我して死にかけたのを、人の男に救われた。人に化けて恩返ししたいが人の美醜がわからない。美しいと評判の貴女の姿に化けてもよいか。「いいとも」花魁は言う。「私の顔と姿で、愛する男と添い遂げるといい。私には叶わぬ望みを叶えてくれたら私も嬉しい」
9
#twnovel 猫は人が知らないだろうことをいろいろ知っている。たとえば、人がやって来られるはずのない高い屋根のてっぺんで昼寝しているとき、ふいに撫でてくる柔らかな手(明らかな人の手)があること。背中に羽があればそれは天から降りてきた人だし、羽がなければこれから天へのぼる人なのだ。
10
#twnovel 子供たちが密室トリックについて議論を交わしている。『犯人』はどうやって鍵を開けて閉めたのか? それとも始めからどこかに隠れていた? そもそも本当に密室だったのか? 秘密の抜け穴や共犯者の存在の可能性は?「とにかくプレゼントの包みを開けたらどう?」クリスマスの朝のことである。
11
#twnovel 「もう犬でも猫でも何でもいいから嫁を貰え」養い親である魔法使いは口癖のように俺に言う。「もう人形でも婆でも」「石でも牛でも」「絵でも樹でも」バリエーションは豊富なのに、頑なに「男でも」とは言わないのは、言った瞬間に自分がプロポーズされると薄々気づいているからだろうか。
12
#twnovel 台所の床磨きをしていたら突然見知らぬマダムが現れた。ドレスや宝石を出して、華やかなパーティーに連れていってくれた。物凄く楽しかった。「なぜこんなことしてくれるの?」「証明するためよ」「女の子は誰でもシンデレラになれるって?」「女は誰でも魔法使いのおばあさんになれるって」
13
#twnovel つい夫を殺してしまった私を助けてくれたのはホームレスの男だった。何の関わりもないのに。「なぜ優しいの」手際よく死体の始末をしながら男が答える。「旦那、浮気してたんだろ」「ええ」「あんたが作ったオニギリを毎朝公園のゴミ箱に捨ててた」「ええ」「オニギリ美味かったよ」
14
#twnovel 本好きの叔父は独り暮らしの家にこれでもかと本を積み上げていた。いったい何百、何千冊あるのか、本人も把握していない。「俺に何かあったら始末を頼むよ」「冗談でしょ」私の返答に叔父は言った。「あの山のどこかに、お前が十五のときに初めて作った同人誌が埋もれてると言っても?」
15
#twnovel 病院で知り合った老人と賭け将棋をする。元殺し屋だという老人に、僕は勝ちをためては人を殺して貰った。僕をズタボロにして病室に縫い付けた奴らを一人ずつ。あとは僕自身を殺して貰っておしまい、のつもりなのに、今日はなぜか全く勝てない。老人が笑う。「俺ァ仕事は選ぶのさ」
16
#twnovel 「子供の頃からシンデレラの物語が好きだったわ。ある意味でね」老婦人は語る。「皆が私を馬鹿にした。誰も私の夢を理解しなかった。でも私は諦めなかった。頑張って夢を叶えたのよ」「シンデレラになった?」「まさか。魔法使いのおばあさんになったのよ」彼女は女子奨学金の創設者である。
17
#twnovel 王都の広場中央には岩に刺さった剣があり、「抜いた者は王になる」と伝えられていました。その隣には小さなガラスの靴があり、「履けた者は王子様と結婚する」と伝えられていました。聡明な読者はお気づきでしょう。そうです。いま現れた少女が、みごと剣を抜き、なおかつ靴も履いたのです。
18
#twnovel 「海が綺麗だね」と教授。「わん」と犬。「空も綺麗だね」「わん」「空と海しか見えないね」「わん」「ボートにもっと食料を積んでおくべきだったね」「わん」「救助が来るといいね」「わん」「思うんだが、私が君を食べたら一生後悔するけど、逆なら良くないかね」犬は答えない。
19
#twnovel 山の遠足で迷子になって、そいつに会った。「あんた誰なの?」「さあ。神と呼ばれたり化け物と呼ばれたり」「本当は何よ」「呼ばれたものになるだけさ」「じゃあ、お兄ちゃんて呼んだらそうなるの?」「なるよ」そいつはあたしを背負って、麓まで運んでくれた。去年死んだ兄の姿で。
20
#twnovel 真夜中ふいに目が覚めた。小さい頃に買ってもらったぬいぐるみたちが棚から飛び出そうとしていた。似合わない重そうな鎧をまとい、ぴかぴか光る鋭い剣を手に。あたしはベッドを飛び出し、ぬいぐるみたちを抱きしめる。ごめんね、大丈夫。明日、あたしはちゃんと自分で戦うよ。
21
#twnovel むかし逢った人魚にまた逢いたくて、海に近い場所に喫茶店を開いた。常連になった地元の女性と結婚した。人魚とは二度と逢えなかった。その妻を早くに亡くしたあと、酒の席で義父が言った。「口止めされてたんだけど、元々あいつは養女でな」記憶喪失だったのを浜辺で拾ったんだよ。
『壁は2枚あった』 毎日物語を呟いてます。 #140字小説 #twitter小説 #ショートショート #twnovel
23
#twnovel 生まれ変わったらどうしても逢いたい相手がいた。しかし何度も生まれ変わるうちに理由を忘れてしまった。なのに逢いたい気持ちだけが募る。心の奥底から込み上げるこの感情は……。「ところで、お前は私の恋人であったのか敵であったのか」訊くと、やっと逢えた相手は何か凄い表情をした。
24
#twnovel 十年後にまた会おうと冗談交じりで約束した喫茶店は勿論もうなかったが、瓦礫の上で奴がキャンプグッズで湯を沸かしていたので笑った。それから泣けてきた。奴がまずい珈琲をすすり、「よく国境を越えられたな」と言った。「建設屋に国境はないのさ」「医者にもな」さあ、国を再興するのだ。
25
#twnovel 舟が来る。渡し守が告げる。「一人だけだ」友を押しのけて私は舟に乗る。「出して下さい」「あいよ」舟が出発する。友は岸に立って、呆然とこちらを見ている。その姿が薄れてゆく。炎上した事故車から、友が救出される。運転席の私はもう間に合わない。川を流れてゆく。静かに。