2
「やあ、いらっしゃい。待ってたよ」
「眠そうだって? はは、昨日まで大きな依頼が入っていてね」
「今日からは休暇の予定だし、徹夜仕事なんて珍しくもないから大丈夫だよ」
「それに忙しさで言えば、記者だって似たようなものだろ?」
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3
「かわいいよね、大きい猫」
「なんでも満月の夜になると踊りだす珍しい猫だったとか」
「結局この子は見つからなかったようだけど……最近、例の旅館付近で同じ特徴の猫の目撃情報が上がっているらしいよ」
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4
『え、しないんですの?』
『え?』
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5
中には丁寧な文字で日々のささやかな出来事が綴られている。
『今日は鉢植えの花が咲いた』『友達とお出かけ』『かわいい猫を見つけた』
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6
「……」
「温泉旅行かぁ」
「どうせ暇だし、僕も行っちゃおうかな?」
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7
原因は不明とされているが、当日当夜、現場から逃げ去る小さなふたつの影が目撃されている。
しかし、当時サーカス団に在籍していた子供は動物たちの世話係1名のみであり、事件以降行方不明。
子供はペットの黒猫を特に可愛がっていたそうだ。
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8
「あれ、お客さんが居る。こんにちは」
「僕はちょっと忘れ物取りに来ただけなのですぐに出て行きますよ。いやぁ、実は明日から幼馴染と旅行で!」
「二人っきりで温泉旅行、これはもうするしかない。ゴールイン……」
「所長はせいぜい灰色の休日出勤楽しんでくださいね。じゃ!」
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『アホらし。この時代に政略結婚なんかあるわけないやろ』
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「はい、こちら源怪異探偵事務所ーー」
「ああ、光か。うん、もちろん大丈夫だよ」
「それじゃあ、また20時に」
ガチャン! ツーツー……
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『二度とここへ来てはダメよ、なんて言われたが……俺はいつか、あの子と再会するのが夢なんですよ』
『あんな美人にまた会えるなら、猫になってもイイ……ッ!!』
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「え、ひとりで行くの? せっかくの休みなのに付き合わせたら悪いって?」
「でもほら、二人の方が怪しまれないかも……行きの列車のチケットをもう取ってある?」
「そっかー……光がしっかり者でお兄ちゃん誇らしいよ……」
「うん、じゃあまたね。気を付けてね」
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職場の奴らもそう言ってる。どうせ仕事がツラくて逃げたんだって。
でも……。
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『――結局、そうやって俺は人里に戻って来たんですけどね』
『あの時俺を逃がしてくれた女の子のことが、どーしても忘れられなくってさぁ~』
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「それから、探してるっていう同僚のカメラマンのことだけど……」
「今のところその子が旅館に滞在しているという核心的な情報は得られなかった」
「その子が自分の意志で消息を絶った、ということは無いのかな」
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「例の旅館に関する情報、そこにまとめておいたよ」
「……え、どこかわからない? あぁごめん、最近忙しくて片付けが追いつかなくてさ」
「他の依頼の資料も散らばっちゃってるけど……。お前なら構わないから、ちょっと探してみて」
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17
昼のニュースが流れている。
東と西それぞれの極道者を束ねる組織、その会長達の娘と息子が顔を合わせて食事をしたらしい。
東西の裏社会統一のための政略結婚を視野に入れたお見合いなのでは、と囁かれているが……。
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ここは都内某所 脅威の依頼解決率を誇る超有名探偵事務所――
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「例の旅館ではUMAの目撃情報が後を絶たなくてね」
「現地へ行くなら捕まえてみる? 臨時収入になるかもよ」
「はは、冗談冗談」
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黄ばんでボロボロのチラシが置いてある。迷い猫のチラシだ。
猫が迷子になったのは、どうやら10年以上昔のようだ…。
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可愛らしいデザインの日記帳だ。
どこかに落としたのか汚れが酷く、踏みつけた靴の跡がついている。
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……しかし日記は突然途切れ、代わりに違う誰かの筆跡で落書きがされているようだ。
『いなくなっちゃえ』
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探し人の残して行った物。
これはオレが持って来たものだ。
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24
50年前の新聞記事だ。
全国を興行して回っていた人気サーカス団のテントに、深夜突然大きな火の手が上がりたちまち全焼してしまったらしい。
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古いカセットテープだ。再生してみよう。
……幼い頃に神隠しに遭って山奥の不思議な旅館に迷い込んだ男性が、どこか嬉しそうに当時の体験談を語っている。
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