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スタン夫は今は罷らむ子泣くらむそれその妻も我を待つらむぞ (タワ之上憶良) 【解説】残業で帰りが遅くなると連絡したスタン夫だったが、タワマン高層階までエレベーターで上るのに相当時間を要したので名門私立小学校に通う子とわたしが泣いているのだなあ😭(出典:タワ万葉集) #タワマン文学大賞
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「ねぇ、秒速5メートルなんだって」 「え、なに?」 「タワマンのエレベーターのスピード。秒速5メートル」 「ふーん……。明里そういうことよく知っているよね」 明里は僕と同じタワーマンションに住む女の子だ。彼女は5階、僕は43階に住んでいる。僕たちは中学生だった。 #タワマン文学大賞 続く
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油圧ショベルに取り付けられた粉砕機が振り落ろされると鈍く、乾いた音が響いた。屋根瓦が落ち、壁が崩れる音は築50年超の我が家の断末魔のようだ。妻との初夜、子供達の誕生、そして巣立ち…余韻にひたる間も無く、無機質な瓦礫の山が積み上がる。近々、ここにタワマンが建つ。 #タワマン文学大賞
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「あなたをタワーマンションに例えるとどんなマンションですか?」面接官が聞いた。 少し顔を赤らめて女子学生が答える。 「わ、湾岸マンションです。振動を与えるとすぐ液状化しちゃうから」 面接官は自分を抑えることが出来なかった。人生とはいとも簡単に崩れるものであった。 #タワマン文学大賞
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低層階の私に何かとマウントかましてくる高層階のたかしくんママ(45)、どの銀行でローン引いてるのか興味あってこっそり謄本を上げてみたら甲区に知らない名前が…「田○信太郎…?」なんと…賃貸の分際で区分所有者の私にあんな偉そうに…黒い復讐心が湧き上がるのを私は感じた… #タワマン文学大賞
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「あのタワマンが完成する頃には私は死ぬのかな」 聖路加病院の病室の窓から、柔らかい夕陽が差し込む。痩せた結衣ちゃんの肌は透き通るような白さで、残酷なほど綺麗で、僕はかける言葉を何も持ってなかった。窓の外では、工事中のパークタワー勝どきでクレーンが静かに動いていた。#タワマン文学大賞
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我勉強頑張東大院卒、日本名門企業入社。十五年後課長昇進是最速出世中同期。結婚子産暫経、考始不動産購入。調査後我知素敵不動産呼「三田庭丘」。我信己小金持、内見予約了。部屋設備共素晴、尋値段、我自耳疑。値段高杉。他内見者超絶金持値段不感。我知己井中蛙、帰道夕陽眩。 #タワマン文学大賞
拝啓 タワマンを購入する前の私へ 30歳のとき、損保総合職の同い年の彼女と結婚し、どこに住もうか考えている頃だと思います。これから綴る私のストーリーは決して不幸なものではありませんでしたが、タワマンを買わないアナザーストーリーを思い浮かべて、今、筆を執っています。 #タワマン文学大賞
「私、先日離婚しまして。今日お伺いしたのは、こちらでお借りしている住宅ローンについて、元夫との連帯債務になっているんですが、債務者から私を抜いてほしいんです。え?出来ない?いや、あのタワマンにはもう元夫しか住んでないんです。普通に考えて私、関係ないですよね?」 #タワマン文学大賞