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父から受け継いだ酒蔵を閉めたのは稲穂が豊かに実った秋口のことだった。アルコールが身体に合わず、商いも不得手、経営は傾いた。酒蔵の子に生まれたくなどなかったけれど、父も母も無責任に家業を放った出来損ないを気遣ってくれた。 『親子盃』より #架空小説書き出し
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財布の金がなくなった。東尋坊に到着することもなく、金が尽きたのだ。生きるべき場所にも死ぬべき場所にもふさわしくない国道沿いの無人精米所で僕は風雨を凌いでいた。 『死ぬほど死にたくて』より #架空小説書き出し
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大人なのに尿意に勝てず、居酒屋を出た道すがらで失禁してしまうほどにアルコールは恐ろしい。人を犬同然に変えてしまう力がある。犬のままにしておいてくれれば良いのに、放尿と同時に人の理性が戻るのだからタチが悪い。 『酒場放尿記』より #架空小説書き出し
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「お葬式なんだから、明るい話をしましょう」 花恵先生は朝の会とおんなじように明るく言った。 『たきくんの葬式』より #架空小説書き出し