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水菓子を手に、西日が差す廊下を駆けた。 「子ども達は?暑い中帰って来てたしょう」 「…涼ませている」 「はい。どこで?」 珍しく夫は、ほんの少しだけ口の端を緩める。 「おっとう」 してやったりの際に見た、遠い父の顔を思い出してつい。夫は訝むことなく、「何か」と答えてくれた。 #アニ姫140
2
生まれ落ちた夜、赤子どもを腕に抱いて村を出た。想い女が産んだ命を死なせては、想い女が泣くと思うたから。…あれから十と四つを満たしたお前達。二度目の抱擁に、これらを庇護せねばと思う心は無い。母を護った感謝と、己の力を継いだ信頼と、末永く健やかであれとの願いを込めて。 #アニ姫140