ぼろをまとい、杭も持たず、やつれていたが、確かにあの男であった。 ドラルクのために市へ出た時である。 #24巻盆用 #吸血鬼すぐ死ぬ
あの男はパンを買おうとしていたようだったのだが、店の主と何事かしばらく話した後、追い払われていた。あの男は、何も買えなかったにもかかわらず、店主に頭を下げてから去っていった。 #24巻盆用 #吸血鬼すぐ死ぬ
店主に軽く魅了をかけ、あの男について喋らせた。 曰く、自分は教会を追われた身であるが、パンを売ってもらうことはできるか、と尋ねてきたという。そんなことを言うのは「いかれ」だと店主は笑った。 #24巻盆用 #吸血鬼すぐ死ぬ
信じがたいが、あの男は本当に教会に真実とやらを問うたのである。 そしてその結果、ああしてぼろを着て彷徨っているのだ。 #24巻盆用 #吸血鬼すぐ死ぬ
それにしても、教会を追われたなどと、いちいち打ち明ける必要などあるまい。 私の屋敷に真っ向から来た時もそうだ。愚かである。 嘘をつけばよい。黙っておけばよい。卑劣になればよい。それが人間の性である。 #24巻盆用 #吸血鬼すぐ死ぬ
あの男は雑踏に消えた。行方は知れない。 あの男について思ったことがあったが、紙に記すためのうまい言葉が思いつかなかった。 #24巻盆用 #吸血鬼すぐ死ぬ
(またしばらくドラルクとの生活についての記述。時折ドラルクの料理についての感想とメモ。ドラウスとの手紙。) #24巻盆用 #吸血鬼すぐ死ぬ
■月■日 不愉快な夜である。 ミミズクが窓に来た。 足に紙片を結びつけたミミズクである。 #24巻盆用 #吸血鬼すぐ死ぬ
紙には下劣な字でこうあった。「親愛なるノースディン 旅の途中で君が面白がりそうなものを見つけたよ Y」 #24巻盆用 #吸血鬼すぐ死ぬ
紙は即座に破り捨てたが、ミミズクは私を見つめている。 ミミズクに罪はない。この世の全ての罪はこの手紙の差出人にある。 あの下劣な男の思惑に乗るのは虫酸が走るが、奴がわざわざ「面白がりそうなもの」などと言うものを放置するのもまずかろう。 #24巻盆用 #吸血鬼すぐ死ぬ
これを書いたらミミズクの後を追ってゆくつもりだ。 あの下劣漢を殴ってから帰ってくることとしよう。 #24巻盆用 #吸血鬼すぐ死ぬ
ノースディン:あの夜の悪魔祓いが、あの愚かな悪魔祓いが、かつての私の屋敷へと訪れていた。 #24巻盆用 #吸血鬼すぐ死ぬ
ノースディン:市場で見た時よりさらにやせ衰え、ぼろを着て杖をつくさまは、私よりよほど死の匂いがした。 #24巻盆用 #吸血鬼すぐ死ぬ
ノースディン:その男が、立っているのもやっとといった男が、吸血鬼を庇った。 #24巻盆用 #吸血鬼すぐ死ぬ
ノースディン:野犬に噛みつかれ、傷まみれになり、瀕死になって、悪魔祓いが悪魔を庇った。 #24巻盆用 #吸血鬼すぐ死ぬ
ノースディン:愚かである。逃げれば良い。見捨てれば良い。相手は悪魔だ、何の咎めもない。罰など下ろうはずもない。 #24巻盆用 #吸血鬼すぐ死ぬ
ノースディン:嘘をつかぬ。偽らぬ。この男は、神に問い、己に問い、それに殉じた。最後まで、けして卑劣でなかった。 #24巻盆用 #吸血鬼すぐ死ぬ
ノースディン:高潔だ。 これこそが、まことに善なるものだ。 #24巻盆用 #吸血鬼すぐ死ぬ
ノースディン:そのようなものが、 人間であってはならない。 #24巻盆用 #吸血鬼すぐ死ぬ