クラージィ:皆が家々へ戻っていく。灯りに照らされた酒場の窓に、村人の姿がオレンジ色に映っては流れていく。 隣の男も私の肩をポンと叩いて席を立った。私はぼうっと男の背を目で追った。 #23巻盆用 #吸血鬼すぐ死ぬ
クラージィ:夜も更けた。先程の婦女が、納屋で良ければ貸すという。久々にまともに食事をして、どっと眠気が来た。何も考えられずに、私はただ礼を言った。 #23巻盆用 #吸血鬼すぐ死ぬ
クラージィ:そして彼は私の方へ料理の皿を押しやった。私は申し訳なくて断ろうと思ったが、彼は自分はもう十分だからと言った。私は十分ではなかったから、結局食べた。 #23巻盆用 #吸血鬼すぐ死ぬ
クラージィ:それにしても、と、隣に座っていた男が笑った。その話が本当なら、そんなこといちいちバカ正直に話すもんじゃないよ、だからそんなにボロボロになるんだよ。世渡りの下手な旅人もいたもんだね。 #23巻盆用 #吸血鬼すぐ死ぬ
クラージィ:村の者は、哀れみを込めて私を見、悪魔も何も、あそこはずっと誰も住んでいないから大丈夫だと言った。他の顔を見回してみても、どうやら誰も吹雪の悪魔のことを覚えていないようだった。あの男の痕跡は、雪が溶けたように消えていた。 #23巻盆用 #吸血鬼すぐ死ぬ
クラージィ:皆が顔を見合わせ、そして私の前にもう一杯ぶどう酒が置かれた。 #23巻盆用 #吸血鬼すぐ死ぬ
クラージィ:私は、元は教会の悪魔祓いであったが、この先に住んでいた吹雪の悪魔を討ちに行った時に、自らの使命に疑問を懐き、それを教会へ伝えたらクビになり、紆余曲折してまたあの館に戻ってみたのだがもう誰も住んでいなかったと話した。 #23巻盆用 #吸血鬼すぐ死ぬ
クラージィ:食べ物は美味かった。私は道も分からぬ者であるのに。 周りを囲む数人が、どうしてそんなにボロボロなのかと話しかけてきた。 #23巻盆用 #吸血鬼すぐ死ぬ
クラージィ:目の前にぶどう酒とパンと肉の入ったスープが置かれた。危うく祈る前に手を付けるところだった。ほとほと情けなくなりながら、できる限りゆっくりと噛んで食べた。 #23巻盆用 #吸血鬼すぐ死ぬ
クラージィ:私は椅子に座らされた。同じテーブルにいた数人の男が私を見たが、酒と祭りのおかげか、眼差しにあるのは嫌悪ではなく好奇心だった。 #23巻盆用 #吸血鬼すぐ死ぬ
クラージィ:彼女は私を上から下まで眺めた後に、私を酒場らしき店の外に出ているテーブルへ引っ張っていった。私はされるがままになるよりなかった。 #23巻盆用 #吸血鬼すぐ死ぬ
クラージィ:彼女は私に、あんたは誰で、そのざまはどうしたのかと尋ねた。私は答えようとしたが、あんまり腹が減ると声が出ないというのを知った。 #23巻盆用 #吸血鬼すぐ死ぬ
クラージィ:あの日の婦女だ、手首に傷を負った者だ。私は彼女をすぐ分かったが、彼女の方は私が誰だか全くわからなかったらしい。やつれきってぼろぼろで、一番無事なのは樫の杖という体であったから無理もない。 #23巻盆用 #吸血鬼すぐ死ぬ
クラージィ:村ではあちこちを明るくしていて、酒と食べ物の匂いがした。何かの祭りであるらしかった。 私が立ち尽くしていると、一人の婦女が私を見留めた。 #23巻盆用 #吸血鬼すぐ死ぬ
クラージィ:呆然としていると、村の方に、夜だのに灯りが見えた。風に乗って、何かうまそうな匂いがした。 私はまったく愚かな人間で、いつの間にかそっちへ歩きだしていた。教会を追われた男の導き手が空腹であるとは、誰か知れば後世の笑い話になるだろうか。 #23巻盆用 #吸血鬼すぐ死ぬ
クラージィ:門柱にもたれ、そのまま眠ってしまおうかと考えた。そうすれば私は何が正しきことであるかを知ることができるだろう。そんなことは許されないと思ったが、他にもう何もできないとも思った。 #23巻盆用 #吸血鬼すぐ死ぬ
クラージィ:当然だ。悪魔祓いの来た場所なのだ。ここにあの子とあの男が残っているはずが無い。 どうして私はここに来たのだろう? #23巻盆用 #吸血鬼すぐ死ぬ
クラージィ:春だった。夜でも暖かかった。 館に雪は積もっておらず、そこには誰もいなかった。 #23巻盆用 #吸血鬼すぐ死ぬ
クラージィ:とうとう、覚えのある村に来た。ひどい身なりであることは承知していたし、そもそも教会を追われた者であるから、村は避けて館へ向かった。 #23巻盆用 #吸血鬼すぐ死ぬ
クラージィ:館へ向かう道で行き倒れなかったのは幸運だった。服はもはやぼろ布で、靴は僅かな水でも染みた。常に空腹だったが、そんなことはどうでもよかった。たどり着かなくてはならないのだ。 #23巻盆用 #吸血鬼すぐ死ぬ
クラージィ:どれぐらい日が経ち、夜を越えたか分からない。旅の末、私の足はあの館へ向いた。 もう一度彼らに会ったなら、何か答えが出るかと思った。答えが出るなら、そのまま野垂れ死んでも良い。 #23巻盆用 #吸血鬼すぐ死ぬ
クラージィ:答えが出ないまま、靴ばかりすり減らした。荷物は僅かだったが、路銀の足しに僅かなものも売ってしまった。 一度親切な人に食べ物を貰い、せめてもの礼に何かと思ったが、ペンぐらいしか渡せるものが残っていなかった。インクも紙も無しにペンだけを渡した。 #23巻盆用 #吸血鬼すぐ死ぬ
クラージィ:私が追われた身と知ると、露骨に戸を閉める人もあった。気にしない人もあった。どんな悪事を働いたのか聞く人もいた。 私はどんな悪事を働いたのだろうか。あれは悪事であったのか。 #23巻盆用 #吸血鬼すぐ死ぬ
クラージィ:放浪し、村に着けば、働かせてもらう代わりに路銀や食べ物を分けて貰えることもあった。 だが教会の門をくぐることを禁じられた身であると話すと、金や物を返せと言われた。返して私は村を出た。 先に言わなかったのが愚かだった。以後は先に伝えることにした。 #23巻盆用 #吸血鬼すぐ死ぬ