情報収集衛星(光学5号機、6号機)の分解能は0.3mとされている。また、より高性能な7号機も2020年に運用開始している。ではなぜ、「だいち3号」が必要なのか。
公開された情報ではないが、「だいち3号」はおそらく情報収集衛星の準同型機と思われる。2015年から運用されている現用の光学情報収集衛星と「だいち3号」は、どちらも三菱電機製で、外見はそっくり。
「だいち3号」は、可視光センサー(つまりデジタルカメラ)によって地球を撮影する、光学地球観測衛星。地上の物体を見分ける能力、分解能は白黒で0.8m、カラーで3.2m。 これは、白黒では道路の土砂崩れといった災害情報、カラーでは土地の用途といった地図情報を得るのに適している。
H3ロケットの失敗に注目が集まってしまうので、搭載されていた地球観測衛星「だいち3号」がどのように重要な衛星だったか、について。
なので、試作品のテストというだけでなく、実運用衛星の打ち上げに先立っての観測データ蓄積も重要だったという点で、防衛装備庁のセンサーが打ち上げ失敗したことは辛い状況です。
早期警戒衛星は赤外線カメラでミサイルの打ち上げを検知し、飛行経路を計測するものですが、ミサイル以外の火災や雷などの熱源との区別が重要なので、防衛装備庁では2波長の赤外線カメラを使って、パターンを識別します。 そのため、ミサイルやロケットだけでなく、様々な熱源のデータ蓄積も重要。
自衛隊の早期警戒衛星のセンサー部を、JAXAの衛星に相乗りさせてもらって技術実証をする予定だったのですが、この計画も遅れを余儀なくされました。 まあ、こういう技術実証は「安い打ち上げ機会」を使うのが常なので、H3ロケット試験機に搭載したのは仕方がないという側の話ではあります。
H3ロケットやだいち3号の損失に加えて、なんですが… だいち3号には、防衛装備庁が開発した赤外線センサーが搭載されていました。これは弾道ミサイルの発射や飛行経路を宇宙から観測する、早期警戒衛星用センサーのプロトタイプでした。
20230307 youtube.com/live/5HwZT62TI… JAXAのH3ロケット記者会見、中継あるようです。まだ始まっていません。
ただ、H3ロケット開発の目玉であり、技術的難易度の高さから再三にわたって開発遅延したLE-9ではなく、堅実な計画で順調に開発された第2段が正常に飛行せず失敗したことは、非常に意外で衝撃的です。 僕は第1段分離の時点で、ほぼ打ち上げ成功を確信してしまっていました。
H3ロケット試験機打ち上げ失敗の原因はまだわかりませんが、事実確認。 第1段ロケットエンジンLE-9、固体燃料ブースターSRB-3はともに正常に動作し、分離したと思われます。いずれも新規開発のものでしたが、分離時点で管制室で歓声が上がっていたので、異常は認識されていなかったでしょう。
「H3」失敗「日本の宇宙開発戦略そのものが遅れる」…文科相、原因究明へ対策本部設置指示 : 読売新聞オンライン yomiuri.co.jp/science/202303… えーと、「宇宙開発戦略そのものが遅れる」と言ったのは米本先生なので、その見出しはどうかと…もし文科相が言ったら無責任だけど、言ってないから。
2つの機能を搭載した「だいち」から、1つずつに分離した「だいち2号」「だいち3号」に変わった理由のひとつは、機能をシンプルにして信頼性を高めることでした。 結果としてその方針は、片方だけ予算を講じて片方は遅らせ、しかも試験ロケットに載せて失われるという、最悪の裏切りに遭いました。
ちなみに「だいち2号は?」という疑問のある方もいると思います。 「だいち」はレーダーと光学カメラを搭載した衛星で、「だいち2号」はレーダーのみを搭載して2014年に打ち上げられました。光学カメラを搭載する「だいち3号」はずっと先送りされてきたのです。
また、たとえH-IIAロケットを充てたとしても、ロケット打ち上げ失敗の可能性はあります。人工衛星自体も、トラブルで故障する可能性もあります。 にもかかわらず、「だいち」の寿命から「だいち3号」まで10年以上の空白を作り、予算措置を講じてこなかったうえの、この失態です。
情報収集衛星には100億円のH-IIAを充てるのに、だいち3号には50億円のH3の2号機以降の予算すら確保しなかった。政府は、リスクの差を知っていて、だいち3号には予算を充てなかったのです。
そのことは、宇宙政策委員会も財務省ももちろん理解している。その証拠に、情報収集衛星は2024年度まで、H-IIAロケットで打ち上げる予定です。H3ロケットの完成予定時期を過ぎても、実績のあるロケットを併用するという安全策に、予算を充てているのです。
でも、「だいち3号にH-IIAロケットの予算を充てなかった」ことには、怒りしかありません。そもそもH-IIAロケットを割り当てられていれば、H3ロケットの開発遅延の影響を受けずに、既に打ち上げられていたのです。
ここでさらに、至極個人的な感想ですが… H3ロケットを応援してきた者として、試験機打ち上げ失敗はとても悲しい。取材でも個人的にもお会いしてきた関係者の皆さんを思うと、胸が張り裂ける思いです。 でも、ロケット打ち上げに100%はない。こういうことは起きるものです。乗り越えて頂きたい。
とかく前例踏襲主義を貫きたがる日本の財政当局が、予算をケチる場面では安易に前例を覆し、ロケット開発側に責任を押し付ける形で重要な地球観測衛星を喪失したことは、しっかり糾弾しなければならないと思います。会計検査院の指摘も入るかも。
いずれにせよ、1975年のN-Iロケット以来、「初号機には実用衛星を搭載しない」という方針を貫いてきたNASDA・JAXAで初めて初号機に実用衛星を搭載し、しかもしれが失敗したというのは、きわめて重大な事態だと言わざるを得ません。「初号機でも大丈夫だろう」という慢心です。
現時点で、H3ロケットの開発過程や予算措置に、重大が問題があったとは思いません。今後明らかになる可能性は否定できませんが、数なくとも今は特に思い当たりません。 しかし、リスクの高い初号機で「だいち3号」を打ち上げるという甘い決定をした政府は、批判されるべきと思います。
H3ロケット試験機で「だいち3号」を打ち上げることの問題は、いま後付けで言っているわけではなく、以前から指摘されていたことです。ただそれは、H3ロケットの問題ではなく、実用衛星に実績あるロケットの費用を手当てする側の問題であるため、H3ロケットの報道では大きく扱われてきませんでした。
個人的な意見を言えば、これはH-IIAロケットの高い成功率に慢心し、ロケット開発を甘く見た「政策立案側の安全神話」のしっぺ返しと思います。 逆に、ロケットの信頼性をシビアに考えた内閣官房は、情報収集衛星を1機のロケットに2基搭載するのをやめ、割高を承知で1機ずつ打ち上げています。
「だいち3号」の打ち上げにH-IIAロケットを使えば100億円が必要でしたが、H3ロケット試験機の載せてしまえば打ち上げ費用はタダ同然。 その100億円をケチった結果、379億円をかけて開発した「だいち3号」が失われ、さらに数年間はJAXAに光学地球観測衛星がない事態になりました。