ではその頃、政権とJAXAは何をしていたのかというと、情報収集衛星の開発と打ち上げ。情報収集衛星の開発はJAXAや三菱電機の「だいち」シリーズ要員が転用されており、当時の状況では「だいち」との並行開発は困難だったのでは。予算もそちらに割かれた。
「だいち3号」は本来、「だいち」が目標寿命を迎える2011年までに打ち上げられるべき衛星であり、その時期に打ち上げるには、2006年頃には予算化していなければいけない。その時期はまだ自民党政権。
結構多くついてるコメントなんですが… 「民主党のせい!」→だいち3号の予算がついたのは2016年なので、政権交代してすぐに予算化されたわけではない 「財務省のせい!」→そもそも予算要求されていなかったので、一番に財務省の責任というわけではない
JAXAを退職したら、宇宙飛行士でもこのコメント。つまり、本音はこういうことですよ。 twitter.com/Astro_Soichi/s…
H3ロケット開発の目的のひとつに「若手時代にロケット開発に従事した人が、現役のうちにリーダーになって若手に開発を経験させる」というのがあったけど、こういうこと。
余談ですが… H-IIロケット8号機の打ち上げ失敗で、海底に沈んだLE-7を捜索した際、探査船に同乗して一緒にエンジンを探した人としてNHKのプロジェクトXに出演したのが、現在H3ロケットサブプロジェクトマネージャーの有田誠さんです。
ロケットは使い捨ての巨大機械とはいえ、所詮は運送屋に過ぎず、主役は人工衛星。ロケットをできるだけ安くして人工衛星の方にお金を掛けたいのです。
たぶん、今回のニュースで初めて知った人が多いのではないかな… ロケットより人工衛星の方がずっと高価
たとえH3ロケット試験機が打ち上げに成功していたとしても、災害観測用の光学地球観測衛星は、2011年から12年間も日本にありませんでした。そして、「だいち3号」が失われたことで、この状況がいつまで続くかすらわからなくなりました。
地上にいる人は、目の前の情報はよくわかるけど、見える距離は短い。航空機はもっと広く見えるけど、それでも一度に見えるのは数km程度。 地球観測衛星は「航空機をどこへ飛ばすか」「車両をどのルートで送るか」という、大規模災害初期の貴重な情報を集めるものです。
東日本大震災では、「いったいどこがどのような被災をしているのかすらわからない」状況だったことを、多くの方が覚えていると思います。 地球観測衛星は、災害時に被災地を幅広く撮影し、発災前と見え方が大きく変わっている地域はどこか、通行不可能な道路はどこかといった情報を把握します。
これらを考えると、日本は東日本大震災で地球観測衛星「だいち」による災害観測の重要性を痛感したにも関わらず、その後10年以上、災害観測用地球観測衛星の整備を怠り、現在も寿命を過ぎた「だいち2号」のみに依存するという、恐るべき体たらくにあると言えるのです。
「だいち2号」の後継機「だいち4号」は、2023年度にH3ロケット2号機で打ち上げられる。つまり、「だいちシリーズ」はH3ロケット1号機・2号機の「人柱ユーザー」ということ。
なお、「だいち」には光学センサーとレーダーが搭載されていたが、レーダーのみを搭載した「だいち2号」は2014年に打ち上げられた。3年間の空白はあったが、光学センサーが12年も空白なのよりはマシ。 ただし「だいち2号」も、2021年に目標寿命を迎えている。
もし東日本大震災が2011年6月に起きていたら、日本には災害観測用の地球観測衛星が1機も存在せず、諸外国の衛星に依存するところだった。そして、もし今大災害が起きても、災害観測用の光学地球観測衛星はない。
そして、先代「だいち」は2011年1月に目標寿命を超過、2011年5月に電源が故障して機能喪失した。つまり、12年間も後継機が打ち上がっておらず、「だいち3号」のニーズを果たせる衛星は日本には存在しない。
また、「だいち3号」は観測センサーの生データ(デジカメのRAWデータに相当)を利用できるため、色の分析など様々な応用利用が考えられる。 情報収集衛星では、JPEGのような加工済みデータしか公開されていない。
「だいち3号」は、たとえば国土地理院で地図情報の更新に利用される計画だった。海岸線などの地形の変化を0.8mの精度で継続的に観測できる。このような用途には情報収集衛星は利用できない。
さらに、情報収集衛星が撮影した画像は特定秘密保護法の対象となっているため、通常は防衛省や公安関係などしか見ることができず、災害時の画像提供がスムーズにできない。また、平時の利用もできない。
だから、より高性能な衛星が1機あれば良いというものではなく、撮影のニーズを満たせるだけの機数が必要。 安全保障目的の撮影要求がどの程度あるかは不明だが、情報収集衛星も「だいちシリーズ」も、かなりの撮影要求を抱えていると思われる。
それともうひとつ、見落とされがちなこと。 地球観測衛星は電源、データ通信速度などの理由で、「撮影しっぱなし」はできない。「だいち3号」の場合で、地球1周100分のうち10分しか撮影できない。 撮影したい場所は日本内外にたくさんあるが、それを全て撮影するにはかなりの日数がかかる。
つまり「だいち3号」は「ドチャクソ画質が良い広角寄りカメラ」であって、大規模災害時の全体把握に向く。情報収集衛星は「見たいところを望遠で撮るカメラ」であって、外国の軍事基地などの偵察任務に向く。用途に特化した性能になっている。
情報収集衛星の観測幅は公開されていないが、もし仮に「だいち3号」の準同型機で「レンズが広角か望遠かの違い」だとすると、観測幅は30km程度と思われる。 つまり、大規模災害時の緊急観測を考えると、情報収集衛星より「だいち3号」の方がずっと使い勝手が良い。
観測幅70kmというのは一言で言えば、東日本大震災の津波被災地を、1回の観測でほぼ撮影できるということになる。しかも分解能0.8mなので、道路が通行可能か、戸建て住宅や乗用車が流失しているかといったことまで判別できる。
「だいち3号」の特徴は、70kmという広大な撮影幅にある。 地球観測衛星は北から南へ、日本列島を横断しながら撮影するが、1回で日本全体を撮影できるわけではない。先代「だいち」も観測幅は70kmだったが、「だいち3号」は幅はそのままで分解能を0.8mに向上した。