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自分の問題意識が低かった言い訳になりますが、もし私が日常的に「お母さん食堂」の商品を買う立場だったら、違和感が強まった可能性はあります。商品を何度も目にする人は、名称の持つ「母=料理する人」のイメージが耐えがたくなるかもしれません。メーカーはそこを想像すべきでした。〔続く〕
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あいみょん「裸の心」は〈この恋が実りますように〉と祈るラブソングなのに、「あなた」「君」と語りかける相手が出てきません。誰にも語りかけず、独白調であるところが特徴的です。自分自身、あるいは神さまに語りかけているのかもしれません。
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ドラマに出てくる国語辞典と言えば、5月20日のフジテレビ「木曜劇場 #レンアイ漫画家」に辞書の一ページが映りました。どの国語辞典だろう、と手近のものを見たが分からない。どうやら、主な国語辞典の説明を組み合わせ、架空の辞書を作ったらしい。小道具さんのこだわりに脱帽します。
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「○○ということばは誤用だ/誤用でないという両説がある」と言われることがあります。でも、両説ある時点で、すでに「必ずしも誤用とは言えない」わけです。ある子どもを「ダメな子だ」と言う人がいて、一方で「いや、いい所もある」という人がいれば、その子は必ずしもダメな子でないのと同様です。
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吉村大阪府知事が8日の記者会見で、560人の感染が出たことを「一挙にガラスの天井が突き抜けた」と表現、誤用ではないかと指摘が出ています。私はどう思うかというと、「誤用です」と言えば話は早いのですが、そう簡単にはいかない。私の注目点は「辞書に②の意味(派生の意味)が必要かどうか」です。
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SixTONES「Good Luck!」でさっそく〈叶えたい夢があんだ〉という口語形を採集。「あんだ←あるんだ」の変化は、辞書の巻末で説明していますが、もっと説明を加えたいところです。
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YOSHIKI「ENDLESS RAIN」の〈Let me forget all of the hate〉というフレーズを聴くと、この歌詞は最近の出来事と無関係ではないのだろうな、と思います。「ヘイト(憎悪)をすべて忘れさせて」。ヘイトによる犯罪やいさかいが深刻になっている現在、メッセージソングとして聴くことができます。
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「明和」「享和」など「○和」の形の元号は、私の場合、ほとんど平板アクセントで発音します。例外は「安和(あんな)」で、女性名の連想から「ア」を高く発音します。「昭和」も、少年の私は平板で発音していました。現在のNHKのアクセント辞典でも、「昭和」のアクセントは平板で載っています。
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さだまさし「奇跡」に〈僕は神様でないから 本当の愛は多分知らない〉と、愛を知らないようなことを歌うのは一種の反語法ですね。その直後に〈けれどあなたを想う心なら 神様に負けない〉と、最初に言ったことよりむしろ強いメッセージを投げかける。さだまさしさんのことばの魔術です。
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私たちの日常言語は、報道の文章とは大きく異なっています。もっと言えば、私たちは教師や校閲者の口出しを受けずに話す権利があります。その中で、仲間内でよく通じることばが生き残ります。作詞家がそのことばをすくい取って作品にするのも自由です。それらは「間違ったことば」ではないのです。
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鈴木雅之「違う、そうじゃない」の〈手の平返しなんて 君が思ってる程/器用な僕じゃないさ〉。この「手の平返し」は『三省堂国語辞典』では最新の第8版で入れたことばです。この歌は1994年の歌とのことなので、辞書に載せたのがずいぶん遅かったということですね。
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自分の主張を信じてもらうのでなく、当然だと思ってもらうためには、当然の話を論理で結んでいくことが必要です。地球が丸いと主張するためには、「海上を近づいて来る船は、へさきから見えますよね」などと、相手が論理的に「それは当然だ」と判断できる話をしなければならない。これが私の理想です。
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氷川きよし「歌は我が命」。美空ひばりはマスコミを初めとして世間に大バッシングを受けた時期があり、紅白からも閉め出された(後に特別ゲストで出場)。〈心のなかまで 土足で踏まれて 笑顔のうしろで かげ口きかれて〉という歌詞には心が痛みます。ちなみに代表的なひばりソングは大体歌えます。
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私は言語のジェンダー性を研究してもおらず、科学的な知見はないのですが、辞書を作る立場から感想を記録しておきたい気もします。それを以下に述べます。〔続く〕
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EXILEのメドレーのうち「Heads of Tails」で、「ステージだけが真実」の「ステージ」に「ここ」とルビ。カタカナにひらがなで振り仮名というのは珍しい。活字でこう書いてあった場合、「ここ」と音読するか「ステージ」と音読するか迷います。この曲では「ここ」と歌っていました。
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2020年も今日で最後になりました。今年もNHK「紅白歌合戦」を見ながら、興味深いことばがないか、リアルタイムで用例を採集しつつ、ツイッターでご紹介したいと思います。よくも悪くも凝り性な私ですが、番組を楽しむことを第一に、あくまでゆるくことば集めをするつもりです。
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「#今年の新語2018」の「読み応え選評」(詳しい選評)が公開されました。大賞の「ばえる」にモヤる人も、わかりみが深いと思う人も、どうぞお楽しみください。
dictionary.sanseido-publ.co.jp/topic/shingo20…
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子どもが新しい言い方を口にすると、大人は「そんなことばはだめ」と否定する。すると子どもは、ことばには「だめ」「正しい」の2種類があると思うようになる。「正しい」は「つまらない」の類義語なので、子どもは興味を持たない。「どのことばも、それぞれに面白いね」という態度が望ましいです。
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文法学の近藤泰弘さんが「ことばの正誤」に関する私の発言に触れてくださいました。ご指摘の点は2つかと思います。第1に「文法に『正しい日本語』はあるか」、第2に「学校教育で『正しい文法』を扱わずにすむか」。以下、専門の方には自明のことも含めて、私の考えを述べます。twitter.com/yhkondo/status…
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「重用」は「じゅうよう」か「ちょうよう」か。どっちでもいいんですがね。小調査や、歴史的な話については、4月にツイートしました。リンクしておきます。twitter.com/IIMA_Hiroaki/s…▽日テレ藤井アナ 市來アナに謝罪 生放送で「重用」の読み方を…(デイリースポーツ)
news.yahoo.co.jp/articles/0961c…
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「ご一緒します」は「お供させていただきます」と言うべきだという主張もありますが、べつに自分は家来じゃないですからね。謙遜の程度は後者が大きいけど、前者も「間違い敬語」ではありません。ただ、乃木大将の殉死に夫人が付き合う場合は「お供」がいいそうです(丸谷才一『日本語のために』)。