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「『管見によれば』を、本当に見識の狭い人が使ったらシャレにならないよ、もっと勉強してから使いなさい」と言う人もいるでしょう。でも、それを言うと、「拙論」「愚案」「妄言多謝」など、謙譲語はみんな使えなくなります。謙譲語というのは、不勉強な人でも使っていいのです。
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今回「お母さん食堂」の名称が議論になり、遅まきながらそこに意識が向きました。改めて名称の適否を考えてみると、「こういった商品名は、少なくとも今後は避けたほうがいいだろう」という意見を持ちます。理由は、程度の大小はともかく、性役割の固定化に貢献することになるからです。〔続く〕
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私は「この言い方は誤りでない」と言うことはあっても、「この言い方は正しい」という表現はしてこなかったと思います(していたらごめん)。せいぜい「この言い方もそれなりに正しい」とかですかね。つまり、ことばに正解がある、とりわけ、唯一の正解があるという見方は適切でないと考えています。
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渋沢栄一あてのこの手紙は「先ハ不取敢御礼迄如斯ニ御坐候(かくのごとくにござそうろう)」と下に文句が続いています。格式張った言い方としては、このように言い切りの形にするほうが端正な感じはします。でも、「まずは取りあえず御礼まで」で止めても十分丁寧です。
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まとめると、「自粛を要請」という言い方は昔も今もよく使われているので、「間違いの日本語」としてしまうと言語生活を阻害する。ただし、行政が「ぜひこうしてほしい」と求める場合は、「自粛を要請」ですますのでなく、当事者が困らない施策を用意してもらいたい、といったところでしょうか。
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戦前までの文章は文語文で書かれたものが多く、ちょっと古いことを調べようとすると、すぐに文語文の知識が必要になります。自然科学でも社会科学でも、昔の日本はどうだったかを調べる機会は多いはずです。そのための基礎知識を形成するには、文語文の授業は選択ではなく必須とするのが妥当です。
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「不要不急」の反対語は何かとご質問あり。最近知人から「不要不急でなく要、急の用事がある」という発言を聞きましたが、ネットでは「必要緊急」という熟語も目につきますね。定着するか。ちなみに1889年の陸羯南の文章にも「必要緊急」はあります。「重要緊急」もアリかな? bungeikan.jp/domestic/detai…
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Foorin「パプリカ」で「心遊ばせあなたにとどけ」と歌われる「心を遊ばせる」は、国語辞典も見落としていますが、「空想の世界に心を遊ばせる」のように昔から使われている慣用句です。「心を解き放ち、自由に羽ばたかせる」といったところか。この歌では、心を飛翔させてあなたに届けたいわけですね。
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あす11/8午後8時57分からTBS系「#マツコの知らない世界 」で、ネット時代に国語辞典を作る苦労と楽しみを語ります。前半は絶品うなぎ、こだわりのうなぎの話です。こちらの話が弾んだ場合、辞書の話はカットになるかもしれません(それはないか)。どうぞご覧ください。
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現在、「お前」は目下に対しても使いづらいという人は多いはず。ところが、戦いの場では事情が変わります。日常語の「高橋さん」は、試合では「高橋!」、「打ってください」は「打て!」となる。「ぜひヒットを打ってくださいね」は「お前が打たなきゃ誰が打つ」で、ノープロブレムであるわけです。
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元発言はこういうことです。「女性の多い理事会は時間がかかる。女性は競争で発言するからだ。女性を増やす場合は発言時間を規制しないと困ると聞いた。ただし、組織委の女性はわきまえている(ので別だ)」。会議の適性に男女差があるという見方が問題なので、組織委の女性を例外としても無意味です。
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「てぇてぇ」は悟空の口調をまねた、との意見が多いですが、悟空のことばは江戸なまりに一致しているように見えます。勝てない→勝てねえ(ai→ee)、お前→おめえ(ae→ee)、驚いた→おどれえた(oi→ee)、悪い→わりい(ui→ii)など。「とうとい」前半のouがeeになるのは独特だと思います。
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氷が解ける・溶ける問題、出遅れですが、これどっちでもいいですよね。漫画で娘は「解ける」、父は「溶ける」派でしたが、結局は気分で、という問題です。どっちの派も正しい。私が心配なのは、学校の先生が一方のみを正解にしていないか、ということです。▽マイナビニュース news.mynavi.jp/article/202110…
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明治文学では古すぎるので、戦後文学から「ひとりごちる」の例を拾ってみましょう。▽遠藤周作「沈黙」(1966)〈わざと私に聞えるように一人ごち、〉▽筒井康隆「俗物図鑑」(1972)〈〔……〕と、享介がひとりごちた〉▽中上健次・重力の都(1981)〈運のめぐり合わせだと独りごちた〉〔続く〕
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辞書を作る人間としては、クイズ番組をよく見て、事実を放送しているか、それともフェイクか、こまめにウォッチングしておきたいとは思います。とはいえ、明らかに間違いの説を(おそらくそれと知りつつ)放送している例に何度も出くわすと、メンタルをやられるんですよ。で、精神衛生上見ないことに。
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世の中に、「高輪ゲートウェイ」よりも切実な問題は山ほどあります。でも、私の立場からは、新駅名称問題はわりと重要です。「公共物に、多くの人の望まない名称をつけるべきではない」「『駅名が浸透していくよう、引き続き努力』というJRの姿勢は筋違い」と、改めて指摘しておきます。
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こちらもお教えください。次の文の「重複」をどう読むのが、ご自分にとって自然ですか。
「データの一部が【重複】していたので削除した」
(1) じゅうふく
(2) ちょうふく
これまた、どちらの読みも辞書にあり、正誤を問うのではありません。
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>RT
「悩ましい」は「悩殺される感じだ」の意味が本来だ、というのは事実でなく、『三省堂国語辞典』第8版が打ち消そうとしているフェイクのひとつです。以前は有識者が活字でこのフェイクを広めていました。「悩む気持ちだ」の意味で昔から使われています。
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玉置浩二「田園」はベートーヴェンのメロディーを加えたオーケストレーションが面白かった。田舎をドライブしているようなグルーブ感を出しているのは、〈何もできないで〉〈救えないで〉とか、〈生きていくんだ〉〈それでいいんだ〉とかいった、同じ語句を重ねる歌詞に拠るところも大きいでしょう。
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1989年、岡山県にトマト銀行ができたときは驚愕しました。どう考えても銀行は漢字だろう、三井、三菱、住友だろう、トマトって何やねんと思ったものです。今や銀行はひらがなが普通で、「さといも銀行」とかあってもたぶん驚かない。これが私にとっての平成30年間です。要は類例が多いか少ないかです。
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「お母さん食堂」という商品名が、ただちに大きな問題を引き起こすとは言えません。むしろこの名称は、料理する母への懐かしい気持ち、親愛の気持ちを呼び起こします。その一方で、「母=料理する人」という鮮明なイメージを与えてもいます。この点で、確かに性役割の固定化に貢献しています。〔続く〕
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ロジハラ(正論を振りかざすハラスメント)なる語があるという。2018年のツイートから広まったと見ています。10/11に「ワイドナショー」、10/21に「グッとラック!」が取り上げ、世間の知るところに。ハラスメントになるとすれば、それは強弁や粗雑な原則論でしょう。正論は人を納得させるものです。