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ちなみに、『三省堂国語辞典』は「微に入り細をうがつ」の項目に「微に入り細にわたる」「微に入り細に入る」も示しています。昔の辞書は表現のバリエーションを見落としていましたが、最近は複数の言い方を載せる辞書が多くなりました。誤用だったのを新たにOKにしたわけではないのです。
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ある表現が「辞書に載っていない」という理由で使えないならば、私たちの言語生活はきわめて狭いものになります。現実には3つも4つも言い方があるのに、辞書が1つしか載せていないからといって、それだけで通すとなると、とても不自由です。辞書はあくまで、現実のことばを後追いする存在なのです。
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後追いとは言っても、もちろん、なるべく現実のことばに近づこうと、辞書の作り手は努力しています。「今までの辞書に載ってなかったけど、こういう言い方、昔から普通にあるよね」ということばを発見したときは、ちょっとドキドキします。
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省略語のような(「乱れ」とされる)言語形式を、言語学者は叱ったりしません、という川原繁人さんの発言を読みました。全面同意です。言語研究にあたっては、言語現象すべてを大切で貴重な例として取り扱うのが基本のはずだからです。辞書を作る私も同じ姿勢です。ところが一方、(続く)
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ことばを「誤用」とする客観的な根拠がないのと同じく、実は「正用」とする根拠もありません。客観的には「間違ったことば」も「正しいことば」もないわけです。学問的に正誤に決着はつけられない。誤用と感じる人の割合を調査することはできますが、それによって誤用を認定するわけにもいきません。
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私が「○○は誤用とは言えない」とあえて書くのは、あることばが「誤用」と公に認定されているかのような主張が多いからです。人それぞれの頭の中に、ことばの「自然・不自然」の感覚があるのは事実ですが、本の著者などが、それを一般に通用する絶対的なルールのように書くのは実害が大きいです。
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ネットや雑学本には「ことばの誤用説」が頻出するので、それら全部に従っていると、ことばの自由はどんどん狭まります。ことばが窮屈になる現象も観察対象だと割り切って、介入しない方法もあります。一方、「その誤用説は絶対的なルールではない」と判断材料を示すことも意味があると思うのです。
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『三省堂国語辞典から 消えたことば辞典』(三省堂)が刊行されます。辞書マニアとして著名な校閲者・見坊行徳さんが、三省堂編修所とタッグを組み、『三国』からこれまでに削除された項目を徹底解説します。退場したことばたちを惜しんでくださる皆さま、ぜひお手元にどうぞ。dictionary.sanseido-publ.co.jp/dict/ssd36624
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『三省堂国語辞典から 消えたことば辞典』の刊行を記念して、私と編著者の見坊行徳さんとで記念対談を行いました。全4回の連載になる予定。見坊さんのお祖父さまにあたる見坊豪紀先生の話に始まり、辞書から消えゆくことばなどについて、とても濃い話をすることができました。dictionary.sanseido-publ.co.jp/column/kietako…
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レポート執筆にChatGPTの使用を許可するのは、寛容に見えて実はそうでもありません。教師が「ChatGPTでも書ける内容は不合格」という基準を設定すれば、現状では、多くの学生が不合格になりかねない。合否判定基準をどこに置くかはともかく、レポートの判定基準がシビアになる可能性はあります。
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昔は「情報過疎」「情報格差」など、情報が得られないリスクが議論されました。今もそれはそうですが、広告や「おすすめ」など、いらない情報をシャットアウトする技術や能力が問われていると思います。「テレビは○時間以上見ない」を守る小学生のように、「見ない技術」が重要になっています。
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18日まで開催された東京駅の「空也上人大集合展」で使われた「そうだ 京都、行こう。」の方言訳を紹介したところ、地元の感覚からは違和感があるという声が、けっこう聞かれました。それならば、自然な方言ならばどう言えばいいのでしょう。「#そうだ方言」のタグで修正を加えていきませんか。
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宇宙飛行士の方々には心からの敬意を持ちつつ、『三省堂国語辞典』第8版では、「スペースシャトル」など約1100の項目を削りました。編集委員としても心が残る思いです。百科事典的な項目を抑え、歴史的に重要な語句なども、なるべく大辞典や専門の辞典に譲った結果でもあります。 twitter.com/Astro_Naoko/st…
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6/24の日テレ「#世界一受けたい授業」では触れることができませんでしたが、これまでに私たちの辞書から削られた項目が『三省堂国語辞典から 消えたことば辞典』としてまとまりました。現代語を追求する『三国』本体では割愛したことばたちを、どうぞ味わってください。dictionary.sanseido-publ.co.jp/dict/ssd36624
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『週刊文春』6/29号で能町みね子さんが「LGBT理解増進法」について述べた文章が勉強になりました。能町さんの見解を知りたかったところでした。〈理解なんかしなくていい、差別しないでくれればいいのだ〉〈〔『不当な差別』の文言に〕差別は本来全て「不当」である〉という部分に深く納得しました。
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「これは区別であって、差別ではない」という論法があります。しかし、「差別」はもともと差をつけて区別することで、特定の人々に不利益・不平等が及ぶのが一般に言う差別です。したがって、「区別であって、しかも差別である」という場合はあります。区別が不当であれば、それはイコール差別です。
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「これは区別であって、差別ではない」という論法は、「これは多角形であって、三角形ではない」という論法と似ています。多角形であって三角形でないもの(四角形など)はありますが、多角形だから三角形でない、とは限らない。その区別は本当に差別ではないか、確かめる必要があるということです。
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「あなたに仕事を頼もうかと思います。まだ最終決定でなく、別の人に頼むかもしれませんが、ご都合どうですか?」みたいな依頼が来たら、断ったほうがいいです。「あなたでなくてもいい」という相手とは、ベストの仕事はできません。よほどお金に困ったら分かりませんが、私は原則、断る方針です。