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憂慮するのは、他の教養バラエティー番組でも、このように無茶苦茶な内容(事実に反する、または、個々の部分は事実でも誤解を招く構成になっている)が増えていることです。「事実でためになるが、つまらない」よりも「事実でなくても、面白い」ものを私たちが求めている結果なのでしょう。
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他の部分について。「おいしゅうございます」を「おいしいです」と拍数を節約するのは〈発音の経済効率〉だし、古代(放送では平安時代とあったがむしろ奈良時代)のハ行の子音pが後にf→hとなったのも労力節減のためでしょう。でも、だから現在〈会話から「い」が消える〉とする構成は無茶です。
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「『れーわ』でも間違いではない」どころか、NHKの最新版のアクセント辞典では「経済」は「ケ\ーザイ」、「生命」は「セ\ーメー」で、放送の発音としては「レーワ」が標準形、「レイワ」でも間違いではないというのが正確です。仮名遣いは、当然「れーわ」は間違いで「れいわ」が正解です。
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司会者の弁。〈「れーわ」って読んでも間違いではないんですね。経済を「けーざい」って読むように。ただ「元号は何ですか」と言われたら答えは「れいわ」なので、私たちアナウンサーも元号をきちんと強調したいときには「れいわ」を強調して言うように〉。どうも発音と表記を混同している模様です。
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つまり「所さん!」の話は前提から誤っています。オンデマンド配信で見ると〈専門家によれば、「い」が発音できない原因は、口をしっかり横にひらけないこと〉。姿勢が悪いために「令和」の発音が変化したかのようなまとめです。専門家は「姿勢が悪いと『い』が言いにくい」という話しかしてないのに。
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「れいわ」などの「エイ」の音を「エー」と言うのは今に始まったことではなく、遠く江戸時代後期からのことです(松村明『江戸語東京語の研究』)。方言では「エイ」の発音は九州や四国西部、紀伊半島の一部に残りますが、大半の地域では「エー」と発音します(『日本方言大辞典』の「音韻総覧」)。
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NHK「所さん!大変ですよ」(5/30)の内容がひどいと聞きました。番組紹介ページに〈元号の「令和」を〔略〕<れえわ>と読む人が多い〉〈口を横に広げてきれいに「い」と発音することができず、「え」のように発音する人が、若い世代を中心に増えている〉とあり、確かに音韻史の常識に反しています。
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文法学の近藤泰弘さんが「ことばの正誤」に関する私の発言に触れてくださいました。ご指摘の点は2つかと思います。第1に「文法に『正しい日本語』はあるか」、第2に「学校教育で『正しい文法』を扱わずにすむか」。以下、専門の方には自明のことも含めて、私の考えを述べます。twitter.com/yhkondo/status…
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人が夜に見た夢の話を聞くのは面白い。自分の夢も人に話したい。ところがあるとき「つまらないから聞きたくない」と言われ、以来夢の話は封印しました。朝ドラ「まんぷく」(2/27)で鈴が「人から聞いて一番つまらないのは夢の話」と言うのを聞き、へえーと思いました。あなたにとって他人の夢の話は?
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蛇足です。ほんとに「誤用と感じますか」というアンケートを取ると、この設問自体が「誤用」の存在を示唆してしまうので、実際には「あなたは使いますか、使いませんか」の形で問うことが多いです。だから「誤用意識」のアンケートというのも難しいですね。
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学問的に「誤用」を扱おうとすれば、たとえば一般人にアンケートを取って「この語は誤用と感じますか、感じませんか」と聞いてみる方法はあります。ただ、誤用と感じる人が多い語はそもそも普及しないので、「識者」が批判するまでもなく消えていきます。ことばは自律飛行に任せるのが望ましいのです。
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ことばについて、言語学(日本語学)のどの先生に質問しても、「それは誤用です」と言われることはほとんどないだろうと思います。「姿勢」ということばをあえて使うなら、研究者の姿勢は、結果的にことばに優しくなるわけです。「誤用」は定義できず、学問的にどうこう言うことができないからです。
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言語学の初歩を学ぶと、「それは誤用だ」と断定することが難しくなります。「変化することこそがことばの本質だ」というのが基本だからです。「飯間さんはことばに対する姿勢が優しい」とも言われますが、べつに姿勢とか主義とかの問題ではなく、学問の基本に忠実に考えると、誰でもそうなります。
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言語変化がどれほど「あらゆるところ」で進行するか、説明は難しいのですが、辞書の改訂作業が、1回の版で何千、何万か所に及ぶという事実は参考になるでしょう。ある名詞がいつのまにか副詞や形容動詞の性質を示すようになる、などの変化はしょっちゅうです。変化の結果は辞書で報告されます。
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「もっと厳しい態度で日本語の乱れを防いでほしい」という声をよくいただきます。私も、いくつか適当なことばを見つくろって「誤用だ」と非難するのは簡単です。でも、言語変化はあらゆるところで進行しています。その全部にNOを言うことは現実に不可能です。「識者」の批判は自己満足に終わります。
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敬語というと、教科書に厳密なルールが示されているようですが、実際には、ルールがなくて自分で判断しなければならない局面が多いですね。グレーゾーンが大きく、だからこそ「敬語の研究」という学問が成り立つ。「日本語の敬語ではこう決まっています」と言い切る発言を目にしたら、ご注意ください。
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2000年に国語審が「ローマ字では姓→名の順の表記が望ましい」と答申した時、朝日(天声人語)も産経(主張)も賛意を示しました。「天津乙女」「霧立のぼる」は特別としても、姓名は全体でひとつの形だと思うので、私自身もIIMA Hiroakiと表記しています。▽朝日新聞デジタル asahi.com/articles/ASM5P…
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ふぃっしゅっしゅ さんのアンケートでは、傾向が逆になっていますね。おやおや。ただ、解釈が二手に分かれるという構図はここにも見て取れますね。
twitter.com/kyodaisuu/stat…
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文中、「一段階低い」「一段階高い」とは変な言い方ですが、ほかにうまい言い方が見つかりませんでした。お許しください。
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やはり、この問題は、継続して観察したいと思います。やや恐れるのは、今後どこかのメディアが粗雑な調査をして、その結果が一人歩きすることはないか、ということです。質問のしかたには慎重さが求められることを付け加えておきます。
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先にも述べましたが、私の関心事は、実際にはどのくらい誤解が起こっているかということです。リプライを見ると「アンケートでは数字が表のように捉えられたので「D」と答えたが、会話で聞けば「B」かも」という意見もありました。実際の流れでBと解釈する人が多ければ、誤解は少ないでしょう。