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ことばの陰影を描写することで有名な『新明解国語辞典』第7版で「多忙」を引くと「仕事が多くて、くつろぐひまが無いこと(様子)」とあります。くつろぐ暇のない相手を気遣って使って差し支えありません。「忙しい」「多忙」ということばを奪われた言語生活は相当不自由になるのは確かです。
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「多忙」は明治の海外視察報告書『米欧回覧実記』(1877年)の〈五六月までは、事務多忙なり〉という例あたりが古いらしい。100年以上にわたって、このことばはまさしく多忙に働いてきました。怪しげなマナー本の主張によってその使用が控えられるとしたら、日本語にとって大きな損失です。
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「多忙」失礼論は、おそらく、まず「忙」が「亡」を含んで不吉なので使用は不適切という話が生まれ、それだけでは弱いので、「実は相手にも失礼なんです」という理屈が後づけで誕生したのだろうと推測します。そういう意味合いを感じる人がいてもいいのですが、マナーではないということです。
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「多忙」は本人の能力が低い意味合いがあるのでNG、「多用」はその意味合いがないのでOKと聞いた、というリプライも多いです。私に言えるのは、歴史的にそういう区別はなかったということのみ。個人的にはどんな語感を持つ自由もありますが、それをルールとして発信している論者がいるならば問題です。
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「多忙」「多用」のようなほぼ同等のことばA・Bがあるとき、「私はAが適切と思う」「私はBを使いたい」というのは個人の自由です。ところが、「こう使うのがマナー」「こう使いなさい」と主張するとなると話が別で、昔からの伝統があるなどの根拠が必要です。その根拠が曖昧なのがトンデモマナーです。
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「多忙」を忌みことばとして、代わりに「多用」を使う、という会社もあるそうです。ところが、最新の『大辞林』第4版によれば、「多用」は〈やるべき事が多く忙しいこと。多忙〉で、「多忙」とほぼイコールです。一般のなじみ度から言えば「多忙」が勝るので、無理に言い換える必要はないでしょう。
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10月5日の記事。「忙しい」「ご多忙」は忌みことばだ、というのが最近のトンデモマナーであることを強く示唆し、参考になります。昭和や平成のマナー本にも「ご多忙」とあるとのこと。「忙しい」「多忙」は日本語の中でも基本的な語であり、これを使うなというのは無茶です。j-cast.com/2019/10/053685…
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「逆からブランチ」の記事を見ながら、私も久し振りにやってみました。面白かった。どの辞書でもできますが、最後のほうに古い意味が並ぶ『大辞林』は具合がいいかもしれません。あなたもぜひお楽しみください。▽辞書を使った新しいゲーム「逆からブランチ」を考えました dailyportalz.jp/kiji/jisho-gam…
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「代替(だいたい)」を「だいがえ」と読み、「代替え」と送り仮名をつけるのは、いつ頃からでしょうか。1952年の『明解国語辞典』改訂版では「代替」に「だいかえ(がえ)」の読みがあり、さらに1960年の『三省堂国語辞典』初版には「代替え」があります。当時すでに認識されていた表記のようです。
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ある調査によれば、女より男のほうがコーラを飲む本数が多い傾向があるのは事実です。ただ、コーラ嫌いの男もいれば、コーラ好きの女もいます。「男はコーラが好きだ」「男は度胸を持つべきだ」というコーラ論法は、それに当てはまらない人を無視したり、不当に評価したりすることにつながります。
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話はそれますが、コーラを飲んだという話をしたら、「男の人ってコーラが好きですね」と言われたことがあります。なぜ男全体の話になるのか、僕が男だからコーラを飲んだわけじゃないよ、と思ったものです。以来、私は「男(女)とは」「○大生とは」「○○国の人とは」をコーラ論法と呼んでいます。
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「男(女)はAであるのが当たり前だ」という表現は、そのAという性質を幸いにして持つ人には何ら不都合を生じません。でも、それとは別のBというすぐれた性質を持つ男(女)が、Aの性質を持っていないからという理由だけで不当に低く評価される言い方でもあります。このことに深く留意すべきです。
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現在の『三国』では、男は「人間のうち、子種を作るための器官を持って生まれた人(の性別)。男子。男性。〔法律にもとづいて、この性別に変えた人もふくむ〕」としています(長いので女は省略)。これで十分とは言えませんが、なるべく当てはまる範囲を広くしたいという姿勢で執筆しています。
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国語辞典は「男は○○が当たり前、女は○○が当たり前」という見方を克服するために苦闘してきました。『三省堂国語辞典』初版(1960年)では、男は「人のうちで、力が強く、主として外で働く人」、女は「人のうちで、やさしくて、子供を生みそだてる人」とあります。性役割を固定的に捉えた説明です。
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「度胸」は見た目に現れにくいため、男が「度胸がない」と評価される局面は限定的です。一方、「愛嬌」は見た目に現れるため、女が「愛嬌がない」と評価されることはしばしばあります。その結果、今の社会では「度胸がない男」が被る不利益よりも「愛嬌がない女」が被る不利益のほうが大きくなります。
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ここで「愛嬌」とは何かというと、見た目や仕草から感じられる可愛らしさ、または親しみやすさです。古くは「あいぎょう」で、光源氏の形容にも使われ、現在でも男女に使えることばです。むしろ、愛嬌は男女を問わずあるといい性質です。その性質が女にだけ要求されるというのは公平ではありません。
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「でも、男は度胸が、女は愛敬があったほうがいいのは当たり前でしょう」という感想があるかもしれません。もちろん「度胸のある男」「愛敬のある女」が高く評価されるのはいいことです。問題は、「愛嬌はあるのに度胸はない男」「度胸はあるのに愛嬌はない女」が不当に低く評価されることです。
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「男は度胸、女は愛嬌」をことさら出題したクイズ番組に疑問を呈したところ、1000を超える「いいね」をいただいた一方、「問題ないのでは」との声も見受けられました。今の社会は、男は度胸が、女は愛嬌が求められる傾向があるのは事実です。ただ、それが個人の正当な評価を妨げている側面もあります。 twitter.com/IIMA_Hiroaki/s…
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「忙しいという字は心を亡くす(から余裕を持て)」という教えはありますが、これは「信じる者は儲かる」などと同様の民間字源説で、忌みことばとは微妙に違います。ところが、それがトンデモルール化され、テレビで「喪主挨拶で、お忙しい・ご多忙はNG」などと放送されるに至ったということでしょう。
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「お忙しい」「ご多忙」は「亡」を含むので忌みことばだという主張を目にしました。不勉強でそんな話は聞いたことがない。最近のトンデモマナーの類ではないかと疑っています。「お忙しい」がだめなら「望み」「忘れました」もだめだし、「荒井」さんは出禁になっちゃう。言い出した人は誰でしょうか。
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ことばのクイズ番組で「男は(度胸)、女は(愛嬌)」の( )内を答えさせるのがありました。これ、今の時代にことさら出題する意味ありますかね。「男は仕事、女は家事」みたいな性役割の固定化を強調する効果しかないことば。ことわざ辞典の片隅に、時代錯誤との注釈をつけて載せれば十分でしょう。
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ことばの番組でありがたいのは、独自取材で「今の人々が、どんなことば遣いをしているか」を報道してくれることです。でも実際は、「写メったりしていました」を若者ことばとして紹介したりもする。「写メる」はむしろ若者が分からないことばと指摘されており、取材してないのでは、と疑問を持ちます。
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ことばの番組で「○割が誤用(文化庁調べ)」と説明することがあります。でも、文化庁(国語に関する世論調査)では「誤用」という表現は使いません。記者発表でも「本来の意味から派生した使われ方も誤りとまでは言えない」と強調しているとのこと。放送では注意すべきです。mainichi-kotoba.jp/blog-20190907
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