501
玉置浩二「田園」はベートーヴェンのメロディーを加えたオーケストレーションが面白かった。田舎をドライブしているようなグルーブ感を出しているのは、〈何もできないで〉〈救えないで〉とか、〈生きていくんだ〉〈それでいいんだ〉とかいった、同じ語句を重ねる歌詞に拠るところも大きいでしょう。
502
氷川きよし「限界突破×サバイバー」にある〈全王様もオッタマゲ~!!〉の「おったまげー」は、もともとどこから出たのでしょう。平野ノラさんの2017年のギャグにもありますが、平野さんは何を元にしたのかな。今、ちょっと手元の資料を見ただけでは分かりませんでした。謎が増えました。
503
星野源「うちで踊ろう」の〈重なり合うよな〉〈嘲り合うよな〉の「よな」は古風なことばで、「ような」の意味です。「よな」については、昨年、坂本冬美「祝い酒」の〈吹けばとぶよな〉の例を呟きましたが、ポップスでも使われるんですね。たとえば、懐メロで前田亘輝「そばにいるよ」にもあります。
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石川さゆり「天城越え」の〈くらくら燃える 火をくぐり〉。「くらくら」はめまいなどに使いますが、炎の描写の例もあります。たとえば、広津和郎の小説に〈くらくらと嫉妬に燃えた眼〉とある例などは、この歌での使い方に近いです。「天城越え」の炎も、情念の炎を表しているのでしょう。
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Mr.Children「Documentary film」は、背景にある物語は想像するしかないけど、明日にはなくなってしまうかもしれない一瞬を、カメラを回すように心に記録したい気持ちを歌うのでしょう。歌詞にある「フィルムを回す」のほか、「チャンネルを回す」「VTRを巻き戻す」など、今ではレトロな表現ですね。
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YOSHIKI「ENDLESS RAIN」の〈Let me forget all of the hate〉というフレーズを聴くと、この歌詞は最近の出来事と無関係ではないのだろうな、と思います。「ヘイト(憎悪)をすべて忘れさせて」。ヘイトによる犯罪やいさかいが深刻になっている現在、メッセージソングとして聴くことができます。
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あいみょん「裸の心」は〈この恋が実りますように〉と祈るラブソングなのに、「あなた」「君」と語りかける相手が出てきません。誰にも語りかけず、独白調であるところが特徴的です。自分自身、あるいは神さまに語りかけているのかもしれません。
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椎名林檎さん〈もう10年ぐらい〔二階堂ふみさんの〕ワンフーですので〉。ああ、「ファン」の倒語ですか。「ジャズ」を「ズージャ」と言う、あれですね。
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東京事変「うるうるうるう」は難解な歌ですが、「あなた(たち)の扉を開いて、人間性を発見し、回復させたい」ということかな。とすると「閏(うる)え!」というのは「潤(うるお)え」ということでしょう。「閏」は「閏年」の「閏」で余分の意味です。ただ、「潤」の字と通用して使われていました。
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関ジャニ∞「前向きスクリーム!」の〈とぉちゃん かぁちゃん じぃ ばぁちゃん〉というフレーズは以前にも取り上げました。その時は〈じぃ ばぁちゃん〉という略し方が面白かったのですが、「とうちゃん」でなく〈とぉちゃん〉とするのも独特の表記です。仮名遣いでニュアンスを表現しています。
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YOASOBI「夜に駆ける」で〈ありきたりな喜びきっと二人なら見つけられる〉と使われている「ありきたり」は、一般的には平凡でつまらない、というマイナスイメージを伴ったことばです。でも、ここでは「喜び」の修飾語です。平凡だけど大切、というプラスイメージを込めて使っていると考えられます。
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Official髭男dism「I LOVE...」の〈見えない物を見て笑う君の事を 分かれない僕が居る〉という語法は興味深いです。「分かる」という五段活用動詞を可能形にすると「分かれる」だから、理論上は問題ない。でも、実際には「分かることができる」を「分かれる」と言うのは珍しい例といえるでしょう。
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LiSA「紅蓮華」は〈泥だらけの走馬灯に酔う こわばる心〉のように、「鬼滅の刃」を見てないと難解な歌詞が出てきます。私は「過去の汚れた記憶が走馬灯のように巡るのだろう」と解釈しましたが、作品では、走馬灯を見るシーンがよく出てくるようですね。
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嵐「カイト」は「NHK2020ソング」なのですが、昨年歌った時とは状況が一変し、コロナ禍に苦しむ人々を勇気づける演出で歌われました。〈風が吹けば 歌が流れる 口ずさもう 彼方へ向けて〉。歌というのは文脈でメッセージがずいぶん変わるものです。
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JUJU「やさしさで溢れるように」の〈あなたを包むすべてが やさしさで溢れるように〉と同趣の歌詞を、先ほど、さだまさしさんも歌っていますね。〈大きな夢になりたい あなたを包んであげたい〉。同系統でもうひとつ思いつくのは、このあと歌われるユーミンの「守ってあげたい」です。
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BABYMETAL「イジメ、ダメ、ゼッタイ」はイジメを傍観するのをやめ、〈君を守る〉ことを決めた、友人と思われる人の歌。内容は真剣だけど、イジメとキツネでリズムを揃えたりして、リズムの上では遊び心があります。タイトルも薬物乱用防止の標語を踏まえていますね。
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Perfume「Time Warp」で〈全てがほら ショーウィンドウにある〉という歌詞に注目しました。show sindowは、カタカナではいろいろに書かれます。新聞なら「ショーウインドー」です。ほかの歌では「ショウウィンドウ」もあって、一定しません。辞書の見出しを決めるときに悩むことばのひとつです。
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瑛人「香水」に〈横にいられると思い出す〉とありますが、この「られる」は、「君の横にいることができる」の意味ではなく、「そこに立たれると困る」のような迷惑の受け身なのでしょうね。「求めてないのに、昔の恋人の君に横にいられてしまう」という困惑、複雑な気持ちを表現しているのでしょう。
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NiziU「Make you happy」の〈完全Sweetなメロディー〉は面白い例です。「完全にSweet」でなく「に」が落ちている。「現状では難しい」を「現状難しい」のように助詞を省いて副詞的に使うようになることばは時々現れますが、「完全」もそのひとつなのでしょうか。
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鈴木雅之「夢で逢えたら」は、ロマンチックな曲調で酔わせますが、あなたに会う方法が夢を見るしかないというのだから、とても悲しい歌とも言えます。〈あなたに逢えるまで 眠り続けたい〉なんて、絶望的な状態かもしれない。それを絶望的に捉えず、美しい曲にしたのが大瀧詠一さんの魔法です。
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さだまさし「奇跡」に〈僕は神様でないから 本当の愛は多分知らない〉と、愛を知らないようなことを歌うのは一種の反語法ですね。その直後に〈けれどあなたを想う心なら 神様に負けない〉と、最初に言ったことよりむしろ強いメッセージを投げかける。さだまさしさんのことばの魔術です。
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Kis-My-Ft2「We never give up!」は〈転んだだけ強くなれる!〉と、失敗を恐れずに幸せをつかみに行くという歌。失敗も逆境も無駄にならない、というメッセージを込めた歌としては、Hey!Say!JUMPの「Your Song」〈失敗は足掻(あが)いた証〉などがありますね。
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坂本冬美「ブッダのように私は死んだ」は、どういう状況を歌った歌だろうと思いましたが、〈この世から出て行くわ/魂が悟ったよ〉とあるように、歌の主人公は、文字どおり亡くなった(殺められた?)模様。「骨までしゃぶる」「イカせる」「捨てる」に二重の意味が込められているのでしょう。
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SixTONES「Imitation Rain」は英語の多い歌詞ですが、〈時代(とき)を振り返る〉というルビが拾えました。この歌では〈いつかはたどり着くよ〉と、「たどる」はひらがな書きになっています。直前の2曲と表記が違うわけです。
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Hey! Say! JUMP「明日へのYELL」で〈今はまだ見えなくても 必ず辿り着く〉。「辿」は常用漢字にない字だけれど、ルビなしで使っていますね。歌詞の字幕では、こんなふうにときどき難しい字が出てきます。しんにょうの点は、1点でも2点でもかまいません。