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『三省堂国語辞典』における「男」「女」(とりわけ「女」)の語釈の変遷について、1/5「NHKおはよう日本(首都圏)」および1/11「首都圏ネットワーク」で取り上げてもらいました。『三国』が昔から男女の性をどう説明しようとしたか、苦心の足跡を知っていただければありがたいです。(以下長文です)
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ことばを専門に扱う人(編集者など)でも、辞書にないという理由で、原稿の語句を書き換えるよう求めることがあると聞きます。でも、辞書がことばを見落としている可能性もあるし、前述のように自明合成語と考えて載せていない、という場合もあります。辞書になくても使えることばは山ほどあります。
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「この作品」という意味の「本作」という日本語はないのかも、という文章を目にしました。「『広辞苑』などの辞書にないから」とのことですが、これは辞書の項目の立て方を誤解しています。「本作・本会・本品……」などきりがなく、「本」の意味を示せば十分なので、立項しない辞書が多いのです。
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返答するときに「とんでもない」を「とんでもありません/ございません」と言うことは戦前からありまして(例、宮沢賢治「月夜のけだもの」〈ご馳走なんてとんでもありません〉1921年)、戦後も例が多いです。むしろアウト扱いする主張が現れたのは、その後のようですね。 twitter.com/fudesakisanzun…
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福山雅治「道標」で描かれるのは、曲紹介にもあったように父母とも、祖父母とも、または他の親しい人とも解釈できる。昨年の紅白の「家族になろうよ」でも歌の主人公は男性と考えても、女性と考えても違和感はありませんでした。誰もが入り込めるよう、表現が工夫されているのだと思います。
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布袋寅泰「さらば青春の光」は1990年代の曲ですが、〈きっと我慢できないはずサ〉と語尾がカタカナ書き。レトロな雰囲気ですね。〈しれたことサ〉〈むづかしいのサ〉のように語尾をカタカナで書くのは、江戸時代からあります。
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氷川きよし「歌は我が命」。美空ひばりはマスコミを初めとして世間に大バッシングを受けた時期があり、紅白からも閉め出された(後に特別ゲストで出場)。〈心のなかまで 土足で踏まれて 笑顔のうしろで かげ口きかれて〉という歌詞には心が痛みます。ちなみに代表的なひばりソングは大体歌えます。
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薬師丸ひろ子「Woman」は、もう愛してもらえない相手に「行かないで」と願う曲。〈時の河を渡る船に オールはない流されてく〉という歌詞は、百人一首の「由良の門をわたる舟人かぢをたえゆくへも知らぬ恋の道かな」(楫を失ってただよう船人)という心境かも。少し違うかもしれませんが。
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東京事変「緑酒」の〈膨満感に噦いてどこから 嚥下できようか〉の「噦く」は超絶難しいですね。「えずく」、つまり吐く、または吐き気をもよおすことですが、ちょっと見ない漢字。『三省堂国語辞典』では「噦」は「しゃっくり」の字として載っています。口から何か飛び出す点では共通します。
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BUMP OF CHICKEN「なないろ」。朝ドラ「おかえりモネ」はいつも見ていたわけですが、例によってテーマソングは空耳を訂正しないまま聴いていました。〈ヤジロベエみたいな正しさだ〉のところは、なぜか「野次の弁解の正しさが」と聞こえていました。すみません。
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星野源「不思議」は、本来他人同士の2人が一緒に暮らす日々を歌った歌と解釈しました。〈命込めて目指す〉は「命の限り心を込めて幸せを目指す」。〈二人をいま歩き出す〉は「2人の生活を始めていく」ということでいいかな。凝った表現に、いつも考え込んでいます。
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鈴木雅之「め組のひと」。「め組」って何のことか、昔はよく分かりませんでしたが、江戸時代に喧嘩事件を起こした町火消しの組のこと。つまり、町火消しのようにいなせな女性、ということですね。80年代、この歌を使った資生堂のCMでは、女性のファッションに江戸っぽさを取り入れていました。
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藤井風「きらり」では、「さらり」「きらり」と「○○り」が繰り返されます。オノマトペの効果を発揮させています。日本語学者の山口仲美さんによると、このような「○○り」型は平安時代に現れたとのことです。『犬は「びよ」と鳴いていた』という本に書かれています。
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坂本冬美「夜桜お七」の〈すげてくれる手ありゃしない〉。「すげる」も現代では難しいことばになったかもしれませんね。鼻緒を刺し通してつけることですが、今ではそういう状況が少ない。ちなみに、「ひしゃくの柄(え)をすげる(=はめ込む)」のようにも使います。
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乃木坂46「きっかけ」に〈ふいに点滅し始め〉とあります。「不意」はこのようにひらがな書きも多いですね。しかし『三省堂国語辞典』では漢字で書く場合しか想定していません。仮名でも書くことを示せばよかった。と、自分たちの辞書にとってはネガティブ情報ですが、そのために用例採集してるんです。
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millennium parade×Belle「U」は漢字が難しい。〈さかしまな世界乗り熟して〉は「のりこなして」、〈御呪い〉は「おのろい」でなく「おまじない」です。「熟」が「こなす」なのは、この漢字に「物事が十分な状態になる」の意味があるからでしょうね。
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Perfume「ポリゴンウェイヴ」の「ポリゴン」は、ステージにも実例が出てくることで分かるとおり、コンピューターグラフィックスで使う多角形です。これは『三省堂国語辞典』の新版には載せませんでした。専門的すぎる用語との判断からですが、こうして紅白で歌われると気持ちがぐらついてきますね。
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平井大さん、インタビューに答えて〈愛するパートナーと一緒に生活する上で〉〈最愛のパートナーと生活する日常というのは〉。恋人、配偶者をひっくるめてごく自然に「パートナー」というのは普通になってきた感じがありますね。
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関ジャニ∞「Re:LIVE」の〈変わり採(ど)る夢、時代に 君は未来持ってんだ〉は難しいフレーズです。「変わり採る」は辞書を調べても出てきませんが、〈悲しみを終わりにして また笑顔取り戻して〉から類推すると、「これまでとは変わって新しく採る夢」ということかな。貴重な用例です。
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高橋洋子「残酷な天使のテーゼ」の「テーゼ」というのは〈はじめに立てられた命題〉。難しい哲学用語ですが、天使には残酷な運命が待っているものである、ということでしょうかね。私はエヴァンゲリオンに詳しくないので、残念ながら詳しいことは説明できません。
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舞台に登場した竈門炭治郎が「大泉さん、全集中、してますか?」。「全集中」は、国会で首相がまねて使ったこともありましたが、今のところ、まだ鬼滅用語というところかな。そのうち一般語として定着するかどうか、関心を持って見ています。
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松平健「マツケンサンバⅡ」、リリースは2004年だそうで、ずいぶん前ですが、私にとってはつい数年前の感覚。サンバにボンゴは出てこない、「オレ!」はフラメンコ、などとよく指摘されますが、徳川吉宗が白塗りで歌ってるのも含めて、計算ずくのハチャメチャでしょうね。曲も歌声も大好きです。
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Snow Man「D.D.」。英語の多い歌は、用例採集の手を休めてゆったり聴いていることが多いです。でも、この歌では〈この地球(ホシ)〉〈頂上(テッペン)見せてあげよう〉など、独特の表記があると、おおっと思って記録します。