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YOASOBI「夜に駆ける」で〈ありきたりな喜びきっと二人なら見つけられる〉と使われている「ありきたり」は、一般的には平凡でつまらない、というマイナスイメージを伴ったことばです。でも、ここでは「喜び」の修飾語です。平凡だけど大切、というプラスイメージを込めて使っていると考えられます。
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……などと書きましたが、私はこの先生にとてもお世話になっていて、今でも深く感謝しています。その感謝の文章を雑誌に発表したこともあります。だから、こういう例に挙げるのは恩知らずなのですが、まあ許していただけるだろうと書いちゃいました。先生、すみません。
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現在、「『了解』は目上に使うな」という説は根拠がなく、2010年代にメールのマナー本から広まったことが明らかになっています(参考・菊池良さん liginc.co.jp/246919 )。私はこれらマナー本の説に当初から疑問を持ったのでなく、むしろ当初は無批判に紹介していました。不明を恥じます。
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日本語同士のやりとりでも、なかなか話が通じないことがあります。インタビューをまとめていただきました。▽SNS上で起きる日本語のすれ違い:「言葉が通じない」のはどんな人? nippon.com/ja/features/c0…
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福山雅治「家族になろうよ」。歌の主人公は男性、女性どちらと考えても違和感ない。〈甘えてたの〉という口調から女性らしいと推察できますが、女性ならではの内容ではありません。「100年経っても好きでいてね」と言ったのは彼でも彼女でもいい。誰もが歌える内容になっているところがいいんです。
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自分の意見と正反対の意見を言ったとして、その論理に破綻がなければ、それもまた、自分の力で作り上げた自分の意見です。ある学校行事を無意味と思う人が「有意義だった」と書くためには、「これこれの点でたしかに有意義だ」と認める必要がある。それはつまり、物事を多角的に見るということです。
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藤井風「きらり」では、「さらり」「きらり」と「○○り」が繰り返されます。オノマトペの効果を発揮させています。日本語学者の山口仲美さんによると、このような「○○り」型は平安時代に現れたとのことです。『犬は「びよ」と鳴いていた』という本に書かれています。
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「『れーわ』でも間違いではない」どころか、NHKの最新版のアクセント辞典では「経済」は「ケ\ーザイ」、「生命」は「セ\ーメー」で、放送の発音としては「レーワ」が標準形、「レイワ」でも間違いではないというのが正確です。仮名遣いは、当然「れーわ」は間違いで「れいわ」が正解です。
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「了解」「承知」の区別は、べつに相手が目下か目上かには関係ない、ということを、私は何度かツイートしています(特にこれ twitter.com/IIMA_Hiroaki/s… )。ところが、その私は2013年、大学のセミナーで「相手には『了解いたしました』より『承知いたしました』を使ったほうがいい」と述べています。
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ことの経緯はこうです。まず、「ひとりごちる」は古語であり、「現代の辞書には載ってない」というツイートがあった。さらに「厳密には古語は『ひとりごつ』で、『ひとりごちる』は最近作られた造語らしい」と補足された。それに対し「そんなはずはない」という意見があがった、と。〔続く〕
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「これは区別であって、差別ではない」という論法は、「これは多角形であって、三角形ではない」という論法と似ています。多角形であって三角形でないもの(四角形など)はありますが、多角形だから三角形でない、とは限らない。その区別は本当に差別ではないか、確かめる必要があるということです。
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「万葉集」に先行する漢籍の文として、張衡「帰田賦」の「仲春令月 時和気清」があり、(「令月」「風和」ではないものの)これも出典に当たるという議論を知りました。なるほど。私はといえば、「万葉集」より後の薛元超の作品に「時惟令月 景淑風和」を見つけましたが、こちらは無関係でしょうね。
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以前の「お~いお茶」に関する論争で、男尊女卑的か否かで紛糾してしまったのは、発言者の世代ごとに、商品名のイメージが異なったためと考えられます。まとめると、元のコンセプトのままでは難しくなった商品名が、鮮やかなコンセプトシフトによって長寿ブランドになったのです。参考にすべき例です。
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神永さんは、尾崎紅葉「多情多恨」にある「独語(ひとりご)ちたので」という例も「ひとりごつ」の連用形と解しています。でも、「ひとりごつ」の連用形なら、「勝つ―勝った」と同様「ひとりごった」になるはず。「ひとりごちた」は「ひとりごちる」の例で、すでに明治時代にはあったのです。〔続く〕
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BABYMETAL「イジメ、ダメ、ゼッタイ」はイジメを傍観するのをやめ、〈君を守る〉ことを決めた、友人と思われる人の歌。内容は真剣だけど、イジメとキツネでリズムを揃えたりして、リズムの上では遊び心があります。タイトルも薬物乱用防止の標語を踏まえていますね。
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今回「お母さん食堂」の名称が議論になり、遅まきながらそこに意識が向きました。改めて名称の適否を考えてみると、「こういった商品名は、少なくとも今後は避けたほうがいいだろう」という意見を持ちます。理由は、程度の大小はともかく、性役割の固定化に貢献することになるからです。〔続く〕
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アンケート結果には山ほどリプライがついているので、今さらですが、「80点の太郎さんの次に成績がいい人」と言われれば、太郎さんよりやや成績がよくない人を指すはず。それで、アンケートの答えはBで動かないと思ったのですが、数列的に考えるなど、別の考え方もあるのかな、と素朴に驚いた次第。
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杉村さんの報告を拝見するかぎり、番組は「銀座でぶらぶら」が事実に合った語源だと知りつつ、意識的に誤った語源説を流したのでしょう。「諸説あります」というごまかしの呪文を安易に使って、フェイクを放送することに罪悪感を持たなくなった。結果として、番組全体の信用を落とすことになりました。 twitter.com/tisensugimura/…
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英語の勉強をするときも、古文の勉強をするときも、ひとつの意味だけ覚えておけばいい、なんてことはありません。現代日本語を理解し、使用するときも、これとまったく同じです。この表のうち、特に「敷居が高い」には3つの意味を示してありますが、他の語だってさらに別の意味があります。
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「若者がよく使う『間違い敬語』の解説をしてください」といった依頼をよく受けます。この時点で私は「協力できるかな?」と疑問を持ちます。取り上げられる「間違い敬語」が、そうとは決めつけにくいものであることが多く、また、「若者がよく使う」かどうか断定しがたいことも多いからです。
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小ネタ、雑学に関してデマが拡散されたからといって、ただちに危険につながるわけでありません。でも、「まあ面白いからいいじゃないか、真偽はどうでもいい」という考え方を助長することにはなります。神は細部に宿る、というとちょっと違うけど、小さなことでも真偽は重視したいものです。
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春斗「『深酒』の前にあることばって何だったと思います?」
三省堂国語辞典「『深さ』かな」
明鏡・岩波・日本国語大辞典「『深さ』だ」
広辞苑・大辞林・大辞泉「いや、『深作欣二』だろう」
春斗「……」
※ドラマのとおり「不可抗力」なのは、新明解国語辞典・新選国語辞典です。#コントが始まる