76
「先生!いい加減〆切やばいです!最悪、ネームでいいので下さい!」
「はぁ…仕方ない…本気を出すか…」
先生はそう呟き、リストバンドを外して落とすと、床にめり込んだ。
「!?」
「30分、待ってな」
そう言って先生は部屋に籠った。
30分後、部屋に入ると、窓が開いてて先生の姿は無かった。
77
「見てごらん、この美しい夜景を」
50Fのレストランから見える街並みは、闇に包まれていた。
「…これのどこが美しいの?」
「この景色に至るまでに、どれだけの人が辛酸をなめてきたか…。僕は、この真っ黒な夜景を誇りに思う」
「だから、どうして?」
「わからないか?誰も残業していないんだ」
78
彼女の母姉父は、プロゲーマーだった。
結婚を認めてもらうために、某格ゲーで家族全員に勝つ条件が課せられた。死に物狂いで特訓した結果、なんとか、俺は母姉父に勝つ事が出来た。恋人を抱き締めようとしたら、彼女はコントローラーを手に取った。
「黙っててごめんなさい。一番強いのは、私なの」
79
田中 弘
本庄 綾子
白鳥 啓介
全力院 玉蹴之助
神田 淳史
山田 由香里
「まただ…登場人物一覧ページの時点で、もう犯人わかっちまった」
「どうしてわかるの?」
「この推理作家、せっかく謎は面白いのに、同じ名前の子が現実でイジメられないようにって、犯人には必ず存在しない名前つけるんだよ」
80
奇妙な新連載がスタートした。
第1話目のはずなのに、第100話と表記されてるのだ。最初は印刷ミスかと思ったが、翌週は99話と記載されてた。なるほど、そうか。この物語は、過去に遡っていく話なのか。真の1話目には何が仕組まれているのかと、俺は毎週楽しみに読んだ。76話目で打ち切りになった。
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「俺達、親友だよな」
「どうした改まって」
「戦場に行く前に、お互いだけの秘密を共有しないか?」
「いいぜ」
「じゃあ俺からな。実は俺の姉、血が繋がってないんだけど、好きになっちまったんだ」
「マジなのか?」
「あぁ。次は、お前の秘密を教えてくれ」
「お前の姉ちゃんと付き合ってる」
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「お前、逆突き以外も使えよ」
空手部でそう言われ続けて2年。それでも俺は逆突きだけを磨き続けた。毎日1000回の逆突きを欠かした事は1度も無い。いつしか俺の逆突きは神速の域に達し、他校からも〝逆突きの池田〟と恐れられた。そして迎えた決勝戦、あり得ないほど美しく、俺の回し蹴りがキマった。
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「かーねーしょんください!」
男の子はヒマワリみたいな笑顔で俺にそう言った。両手の上には沢山の10円玉がある。
しかし、それでは1輪しか買えない。
だが、金額なんて些末だ。伝わるべきことがしっかりと伝われば、世の中はそれでいいのだ。だから俺はこう伝えた。
「坊主。ウチは八百屋なんだ」
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「博士。進化したポケモンを、元に戻す事は出来ませんか?」
「残念じゃが、それは不可能じゃ。なぜそんな事を聞く?」
「…ヒトカゲからリザードンって、大分、大きくなりますよね」
「そうじゃな」
「ピカチュウを抱っこしていると、リザードンが時々、羨ましそうな目でこっちを見ているんです」
85
デートで終電が無くなった私は、彼氏の家に初めてお泊まりする事になった。
そしたら、まさかの実家。
まぁいいか。
と思ってあがると、居間に服を着たマネキンが2体座ってた。顔にはクレヨンで笑顔が描かれている。額にはそれぞれ、父・母とあった。立ち尽くす私の後ろで、チェーンを閉める音がした。
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「息子よ…俺も、もう長くない」
「親父…」
「お前に、言わなきゃらなんことが…」
「なんだ?」
「いや…やめておく。代わりに、俺が逝ったらこの封筒を開けてくれ」
「遺書か?」
「辞世の句を記してある」
少しして、親父は他界した。
辞世の句にはこうあった。
隠し事
死ぬまで言えず
隠し子と
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夏休みが終わるなり、僕とA君は職員室に呼び出された。
「お前ら読書感想文見せ合ったろ?」
そんな事はしてない。でも、僕達の感想文は何故か、一字一句一緒だった。
あぁ そうか。
僕達は同じ感想ブログを真似てしまったんだ。
でも、怒られたのは僕だけだった。
それは、A君のブログだったから。
88
転売用にPS VR2の抽選列に並んでると、隣で親子連れがこんな会話をしてた。
「楽しみだな」
「楽しみ~♪」
が、親子は抽選にハズレたようで、意気消沈してた。
「おい」
「…何でしょう」
「これ持ってけ」
俺はアタリ抽選くじを親に渡した。俺もヤキがまわったな…。後日 別の会場にその親子はいた
89
同窓会でAさんに会った。俺の初恋の人だ。友人が俺とAさんの前で軽口を叩く「そう言えばお前、Aの事好きだったよな」酒の席とは言え、本人の前でかつての恋心を暴露されるのは良い気分じゃない。Aさんも反応に困ってる風で、苦笑いを浮かべていた。
帰り際、Aさんは俺の耳元でこう囁いた。
「今は?」
90
先輩は私の憧れだ。
物怖じせず上司に意見するし、堂々と定時で帰るし、飲み会も「気分じゃない」と断れる。
「私も先輩みたいになりたいです」
「ふーん…じゃあ私の師匠を紹介してあげるよ」
後日 公園に案内された。
「この方が私の師匠」
そこには、1匹の猫が気持ちよさそうに寝転がっていた。
91
「お爺様、お婆様、ただいま戻りました」
「おぉ、桃太郎…!鬼は退治できたかい?」
「…お爺様。鬼がどのように産まれるか、ご存知ですか?」
「?」
「鬼ヶ島には、大きな大きな桃の木が1本、ございました」
「……」
「…最後の鬼を、退治致します」
そう言って、桃太郎は己の首に、刀を添えた。
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「ヘイSiri 今日の天気は?」
「……」
「ヘイSiri 今日の天気は?」
「……」
「ヘイSiri?」
「はい、なんでしょう?」
「今日の天気は?」
「雨です」
時々ウチのSiriは調子が悪くなる。修理に出しても異常なし。なんでだろうなと思い返してみると、全て、彼女とデートした翌日の事だった。
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「本当にいいんですか?この物件は、幽霊が出ると評判ですが…」
「いいんです」
俺は荷物の開封を終え、部屋の中を見て回った。柱にはペンで120cmと書かれてる。身長を測った跡だ。ふと、人の気配がして振り向いたけど、誰もいなかった。
母さん?
ただいま
俺、今はもう178cmもあるんだよ
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前人未到の世界最難関の山。
その頂に俺は遂に到達した。
人類未踏の地を単独で踏みしめた栄誉と快感に酔いしれていると、視界の端に入るものがあった。
「…俺は、2番手だったのか」
そこには登山者の遺体があった。
俺は遺体から、何か名前がわかるものを探した。
生きて、彼の栄誉を伝えるために。
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最近、家のwi-ifがやたら重い。もしやと思ってパスワードを変えたら軽くなった。おそらく、お隣さんがウチの電波を使って動画でも見てたんだろう。
後日また重くなった。もしやと思って問い詰めたら、お隣にパスワードを教えてるのは息子だった。wi-fi使用料として、月千円をお隣から貰ってたらしい。
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俺は恐怖していた。
お隣のOLさんの部屋から、毎朝7時におぞましい悲鳴が聞こえてくるんだ。
尋ねると「私ホラー映画マニアで…悲鳴をアラームにしてるんです…すみません」と恥ずかしそうに言った。
「今朝の悲鳴は、『死霊のはらわた2』?」
「わかったんですか!?」
それが、妻との出会いだった。
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「俺、彼女出来た」
「マジ!?」
昔ついた嘘を嘘と言えず、架空の彼女との関係は順調だと親友に3年間、報告し続けた。そして、遂に結婚する所まで来た。もはや嘘も限界だ。
「ごめん…彼女なんて実はいないんだ」
「…架空は、彼女だけか?」
「え?」
顔を上げると、親友の姿は何処にも無かった。
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「編集者さん。私、恋愛感情がよくわからないんです」
「だから、先生の作品は恋愛描写が弱いのですね」
「編集者さんは今、誰かに恋してますか?」
「はい。妻に恋しています」
「ご結婚されてたんですね」
後日、新作を執筆して編集者さんに見せた。
「良いですね。失恋の切なさが良く出ています」
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「僕と結婚して下さい」
「嬉しい…夢みたい…」
「頬っぺたでも抓ってみるかい?」
抓ってみると、目が覚めた。
え、本当に夢?
嘘でしょ…?
抓らなければよかった…。
「起きて~!朝ご飯できたぞ~」
リビングから、夫の声がする。
もう少しあの時の幸せに浸っていたかったけど、まぁ、いいか。
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「パパ、今日学校で教えてもらったんだけど、昔の人って凄く想像力が豊かだったんだね!」
「何を教えてもらったんだい、娘ちゃん?」
「まだ絵文字も無かったころって、orzで膝と手をついてガックリしてる人を表現してたんでしょ?凄い!もうそうとしか見えない!あれ?パパ?どうしてorzしてるの?」