「お爺様、お婆様、ただいま戻りました」 「おぉ、桃太郎…!鬼は退治できたかい?」 「…お爺様。鬼がどのように産まれるか、ご存知ですか?」 「?」 「鬼ヶ島には、大きな大きな桃の木が1本、ございました」 「……」 「…最後の鬼を、成敗致します」 そう言って、桃太郎は己の首に、刀を添えた。
俺の目の前で、おっちゃんがひったくりにあった。俺は急いで犯人を追いかけ鞄を取り返してやった。 後日 就活の面接に向かうと、あの時のおっちゃんがいた。志望会社の役員だった。 「君のような若者と私は働きたい」と言われ内定ゲット。その夜、俺はひったくり犯を演じてくれた友人と祝杯をあげた。
「先輩」 「なんだ」 「ここの処理、10行も使ってますけど、俺なら5行で書けます」 「覚えておけ新人。プログラムは、短けりゃいいってもんじゃねぇんだ」 「じゃあこのコメント行も必要ですか?」 「どれだ」 「この、延々とお経が書いてある部分です」 「それは絶対に消すな。なぜかサーバが落ちる」
俳優の夢を諦めた時、人生が一気に色褪せた。 どうやって死のうかと毎日考えてた俺に友人が言った。 「死ぬ前に、この漫画読んどけ」 それが、尋常じゃないくらい面白い。あっという間に最新刊まで読んだが、まだ完結してないらしく、親友に聞いてみた。「なぁ、HUNTER×HUNTERの続き、いつ出るんだ?」
「思えば、お前とは随分と旅したなぁ…ピカチュウ」 「ピカ♪」 「お前と山ではぐれた時は、もう2度と会えないかと思ったよ」 「ピカ!」 「もういいよ、ピカチュウ」 「ピカ?」 「ずっと…演じてくれてたんだろう?」 「……」 「もう、いいんだ。ありがとう、メタモン」 「…………モン」
「お箸はおつけしますか?」 「はい」 店員はバーコードを読み取る。 「お箸はおつけしますか?」 「はい」 店員はレジ袋に商品を入れる。 「お箸はおつけしますか?」 「はい」 3度も聞いてくるなんて、相当お疲れらしい。労いの言葉をかけると、店員は嬉しそうに微笑んだ。お箸は入ってなかった。
不思議な本があった。 カバーは真っ白で、タイトルすら無かった。中身も、全ページが白紙だった。 「それは完璧な本です」 「完璧?」 「はい。あらゆる表現規制の声に忖度した、誰も傷つけない本です」 数年後、その本は発禁となった。 444というページ数が、死を連想させて不快だと言われたからだ。
「ねぇねぇ、ママはパパとどうやって出会ったの?」 「そうねぇ…あれは、私が海を眺めながら1人で泣いてた時だったの。パパが通りかかって、声をかけてくれたのよ」 「わぁ、素敵!なんて声かけてくれたの?」 「『どしたん?話聞こうか?』ってコメントくれたの」 「海ってもしかして、電子の海?」
バイトでレジしてると、お手本のような恋人繋ぎをしてるカップルが来た。会計の時ですら2人は手を放さない。彼氏が財布を取り出し、彼女が紙幣を抜き取ってあげる共同作業。ここはホームセンターだが、そういうのはホームに帰ってからやれ。イラつきながら商品を確認すると、接着剤を剥がす液だった。
昔の事だから言うわ。 性欲ピークだった大学時代、講義サボってバイトして初風俗行ったんよ。んで、ピロートーク中、嬢はこう言ったんよ「私、大学行きたくてお金貯めてるんです」 俺は俺が無性に恥ずかしくなった。講義は卒業まで2度とサボらなかった。嬢のパネル写真は、いつの間にか無くなってた。
小学校で、給食の時間、女子が転んでカレーを僕にブチまけた。 女子は泣きそうになってる。泣きたいのは僕の方だけど、我慢してこう言った。「ごめんね、僕のTシャツがカレー食べちゃった」 その日以来、僕のあだ名はスモーカー大佐になった。でも1つ気になる事があるんだ。スモーカー大佐って誰?
怖いことがあったんで聞いて。後輩がパワポ資料出来たって言うから、見てやったんだ。図形も使ってわかりやすく仕上がってたけど、四角形をわざわざ4本の直線組ませて作ってるのがNGだった。でもさ、それ、よく見ると直線じゃなかったんだよ。限界まで細くした、イラスト屋の、子供のイラストだった。
「PS5欲しいんだよなぁ」 友人のその一言が嬉しかったんだ。最近じゃ、身近な友人はゲームなんてやらなくなって、語り合える相手は俺の周りにすっかりいなくなっていたからだ。 「あー、まだ入手困難だね…。でも大丈夫!再入荷の情報入ったらすぐに知らせるよ♪」 「マジ?悪いな…息子が喜ぶよ」
宿題もせず遊ぶ息子に怒り、ゲームは鍵付きの箱に入れた。宿題を済ますまで鍵は開けない。それ以来、息子は必死に勉強した。そして見事にピッキングで鍵を開けられるようになった。思えば、それが奴の最初の〝盗み〟だった。 今や大泥棒となった奴を、俺は止めねばならない。 刑事として、父として。
大好きな人に告白した。 「私より背の低い人はちょっと…」 フラれた俺は骨延長手術を受けてリトライした。 「私より年収低い人はちょっと…」 出世を繰り返し、役員になった。 「太ってる人は…」 痩せた。 「顔が好みじゃなくて…」 整形した。 「私より年下はちょっと…」 僕の方が、年上になった。
俺の目の前で、おっちゃんがひったくりにあった。俺は急いで犯人を追いかけ鞄を取り返してやった。 後日 就活の面接に向かうと、あの時のおっちゃんがいた。志望会社の役員だった。 「君のような若者と私は働きたい」と言われ内定ゲット。その夜、俺はひったくり犯を演じてくれた友人と祝杯をあげた。
「博士。進化したポケモンを、元に戻す事は出来ませんか?」 「残念じゃが、それは不可能じゃ。なぜそんな事を聞く?」 「…ヒトカゲからリザードンって、大分、大きくなりますよね」 「そうじゃな」 「ピカチュウを抱っこしていると、リザードンが時々、羨ましそうな目でこっちを見ているんです」
父は寡黙で照れ屋だから、大事な言葉はいつもお酒の力を借りて言う。 でも、酔った勢いで褒められても、心がこもって無いみたいで、少し嫌だった。 私が志望校に合格した日、父からビール片手に「よく頑張ったな」と言われた時も同じ気分だった。その手に持っていたのが、ノンアルだと気付くまでは。
俺が出世したくない理由は簡単だ。 俺より倍以上も長く勤めてる上司が毎日、自分のデスクで手作り弁当を食べているからだ。昼飯すら贅沢出来ない出世に何の意味があるのか。俺は皮肉も込めて上司に「お昼どっか行かないんですか?」と聞くと上司は言った「妻の弁当以上に、贅沢なものは無いからな」
最近どういう訳か、20代後半の男女グループの宿泊客が増えている。どれも30人くらいの大所帯だった。旅館側が言うのもなんだけど、大人ならもっと、良い旅館に泊まれるだろうに。気になったので、どういう集まりなのか聞いてみた。 「昔、コロナで行けなかった修学旅行を今、取り戻してるんですよ」
娘のSNSアカウントを見ていたら、最近、娘に彼氏が出来たとわかった。そうか、もうそんな年頃か。 「彼氏が出来たようだな」 「え!?」 「大事にしなさい。彼は良い青年だ…」 「会ったことないのに?」 「パパな、6つの女の子アカウントを持ってるんだが、そのどれで誘惑しても、乗らなかったんだ」
「ひっ…!」 私は恐怖した。 捨てたはずのフランス人形が、今日も玄関前に戻ってきていたからだ。 私は監視カメラを設置して真相を確かめる事にした。 もう1度捨てると、やっぱり人形は戻ってきた。 映像を確認すると、人形を戻していたのは夫だった。 私は恐怖した。 夫は、もっと前に捨てたのに。
34歳になった日の朝、男は唐突に予感する。 「あ…俺、近々死ぬかも」 男は亡くなる前に、疎遠になってた友人も含め、1人1人に会ってまわる事にした。それは、昔話に花を咲かせる事で『案外、悪くない人生だったな』と、己が人生を見つめ直す旅でもあった。その後、死は訪れた。97歳の大往生だった。
「本当にいいんですか?この物件は、幽霊が出ると評判ですが…」 「いいんです」 俺は荷物の開封を終え、部屋の中を見て回った。柱にはペンで120cmと書かれてる。身長を測った跡だ。ふと、人の気配がして振り向いたけど、誰もいなかった。 母さん? ただいま 俺、今はもう178cmもあるんだよ
「ママはどうしてパパと結婚したの?」 「私がレンタル屋でバイトしてた頃、パパは常連さんだったのよ。いつも借りたビデオは最初まで巻き戻してから返してくれた。それで、あぁ そういう気遣いが出来る人と結婚したいなぁ…って思ったの」 幸せそうに語るママに私は更に聞いた。 「巻き戻しって何?」