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「パパ見て!大きな雪だるま作ったの!」
「おぉ、凄いじゃないか」
息子に呼ばれ庭に出てみると、俺の背丈と同じくらいの立派な雪だるまがそこにはあった。
「お婆ちゃんにも見せてあげよう」
「うん!」
と家の中に駆け戻る息子。ふと嫌な予感がして雪だるまを削ると、中でお爺ちゃんが凍えていた。
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「ヤバ…鍵かけたっけ?」
家まで戻って確認すると鍵はかかっていた。よかった、これで安心して買い物にいける。
夕方、歩き疲れて帰宅する。
「……え?あれ?」
取り出した鍵が、何度やっても鍵穴に入らない。不思議に思ってよく見ると、間違って実家の鍵を持ち出していた事に気付いた。
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「コレ下さい」
「彼女さんにですか?」
「あ、はい…そうなんです」
俺が照れ笑いを浮かべると、店員さんは優しく微笑んで、ヌイグルミを丁寧に梱包してくれた。次のデートで渡すのが楽しみだ。きっと喜んでくれる。LINEを開くが、なぜか彼女の宛先が無い。そうだ。先週フラれて、消したんだった。
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子供が夏休みの宿題をやらない。意地でもやらない。怒れば怒るほどやらない。どうすればいいの…。
って夫に愚痴った日の翌朝。
「よーし!パパもパパの宿題始めるから、一緒に頑張ろう!」
「うんー!」
って、かつて無い程スムーズに宿題始めてくれた。リモートワークって素晴らしいしパパ素敵。
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とある新人賞を獲るのがずっと私の夢だった。だけど、書けども書けども、満足のいく作品は出来ない。こんな駄作ばかりでは、新人賞など夢のまた夢だ。試しに応募してみると、後日メールが届いた。新人賞、受賞の連絡だった。
「見る目が無い…」
かつて憧れた新人賞に失望した私は、賞を辞退した。
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長年付き合った彼氏にフラれた姉は、死ぬほど凹んでいた。心配になって部屋に様子を見に行くと、泣きながらPCのキーボードを一心不乱に叩いていた。
「何してるの?」
「今の気持ちだからこそ書ける文章が、ある気がするの」
姉が作家志望だと、初めて知らされた。
きっと、姉ちゃんならなれるよ。
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あれは…そう、確か小学6年の夏だった。愛犬が老衰したんだ。死なれるのは悲しい。だから僕は子供が欲しいと思った。犬は僕より先に死ぬけど、子供なら僕より長生きだからな。でも娘は死んだ。殺されたんだ。最期に何か、言い遺す事はあるか?
椅子に縛り付けた犯人の最期の言葉は「ママ…」だった。
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「SNS見てるとバズって流れてくるのって、子育ての大変さとか夫への不満ばかりで…なんか、結婚願望無くなっちゃった」と友は語る。
SNSはユーザーが見たいものを優先的に見せる。
友の話は、順序が逆なんじゃないか?
つまり、結婚しない理由を求めてるだけなんじゃ…。
少なくとも、俺はそうだった。
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【青春の回収】
※140字以内で完結する小説でした。
※再掲
まだ少し熱はありますが、お陰様で復活しました!😊
皆様の暖かいコメント、全て読ませていただだきました!
誠にありがとうございます😭
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レジでお客さんの会計していると、スーツ姿の紳士は財布からブラックカードを取り出した。生で見るのは初めてなので驚いた。なぜか紳士も驚いている。紳士は照れ臭そうに言った。
「『パパの夢は?』と聞かれて、このカードを黒にすることだって答えたから、娘がこっそり塗り潰しちゃったみたいです」
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ゲーム配信をしていると、毒舌アンチに粘着された。調べると、そいつもゲーム配信者らしい。悔しくて、俺はとっておきのプレイ動画の録画を配信した。
『うっわ下手すぎ…ホント才能無ぇな…死んだ方がいいよマジ』
今日も奴の毒舌が冴え渡る。まぁ、その動画、昔のお前のプレイ動画なんだがな。
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「住宅街にも、最近じゃ防犯カメラが増えたなぁ」
ずっと見張られているようで良い気分はしないが、安心と言えば安心だ。
なのに、日課のランニングに言ってる間に空き巣に入られた。たかが30分だから、いつも面倒で鍵をかけていなかったのだ。見ると、家の前の防犯カメラが1つ、無くなっていた。
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私には尊敬する作家さんがいる。彼の作品はどれも★2.0を切っており、レビューは酷評の嵐だ。なのに、彼は世間の評判を気にせず、息をするように作品を出し続けている。その尊敬すべき鋼の精神はどうやって培われたのか、本人にメールで聞いてみると『教えないで欲しかった……』と返信がきた。
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「自然恋愛出来るのは今だけだから、後悔の無いようにね」
と母に言われたけど、高校でも十分、打算ばかりだと思う。皆、ステータスとか外面ばっか気にして彼氏彼女作りに走り回ってる。だから私は母に言われたセリフを妹に伝えた。すると妹は「(´∀`*)?」みたいな顔して友達と鬼ごっこしにいった。
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【企業研究】
※140字以内で完結する小説でした。
今までに投稿してきた140字小説は、溜まり次第、以下のブログに格納していくので、ちょくちょく覗いていただけたら嬉しいです☺
hojokai.blog/?cat=2
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「部長、コレを受け取って下さい」
部下から手渡されたそれは、退職願だった。
「…辞めるのか?」
「いえ、辞めるのは部長です。お願いですから退職してください」
「は?」
まさかコイツ…退職願の意味を勘違いしている?
すると、部下は続けた。
「部長は、こんな会社にいるべき人ではありません」
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「男ならハンカチは常に2枚持つものさ。女の子が泣いてる時、差し出すためにね」
ギャグならまだしも、大真面目にそう言う彼に、私は正直引いていた。でも、そんな彼を好きになってしまった。校舎裏で告白すると、返事は「ごめん…」だった。彼が差し出してきたハンカチを、私は目の前で破り捨てた。
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課長は言った。「そういえば、今日はホワイトデーか…じゃあ、お返ししなくちゃな。俺にチョコをくれた女子社員は、定時で帰っていいぞ。〝ホワイト〟デーだからな」
俺はキレた。
「課長」
「なんだ?」
「定時上がりは普通です」
「え?」
「あと、課長の机に入ってたチョコは間違いだったそうです」
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とある新人作家が殺された。
その後、出版社に『奴の本をこれ以上刷ったら、会社を爆破する』との脅迫が続いた。
程なくして、作家を殺した犯人は捕まった。案の定、脅迫犯と同一人物だった。脅迫の動機を、犯人はこう語る。
「奴の本が誰かに読まれ続ける限り、奴が完全に死んだことにならないのだ」
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【収益化の弊害】
※140字以内で完結する小説でした。
※再掲
今までに投稿してきた140字小説は、溜まり次第、以下のブログに格納していくので、ちょくちょく覗いていただけたら嬉しいです☺
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「タケシ!宿題ばっかして!ゲームはやったの!?」
「ち、ちゃんとやったよ!」
「エビデンスは?マイルストーンは把握してる?まだ進捗報告を受けて無いんだけど?」
「オ、オンスケです…」
「本当?」
「……」
「はぁ…これはパパにエスカレーションが必要ね」
そうして僕は、科学者になった。
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異世界転生した俺のチート能力名は〝神殺し〟だ。この力で悪神を倒し、英雄となった俺は唐突に悟った。俺は漫画の中の住人なのだと。作者の思い通りの人生なんてごめんだ。いっそ神(作者)にこの能力を…。
『よせッ!』
!? 頭に直接声が…神(作者)か!?
『それをやると…』
やると…!?
『編集長が死ぬ』
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「この前『1人が好きな人の特徴』ってtweetがバズってたんだ」
「うん」
「そこに共感の声が沢山寄せられてたのね」
「うん」
「それ見て思ったんだけど、本当に1人が好きな人間は、そもそもSNSなんてやってないよね?」
友人は少し考え、こう言った。
「辛党が甘いもの食ってたっていいだろ別に」