車を降りて、急いで公衆便所に駆け込む紳士を見かけた。ドアは開けっ放しだし、キーもつけっ放しだ。よほど緊急だったのだろう。俺は遠慮なくその高級車を盗んだ。 しかし、すぐに信号無視で捕まった。 「これは盗難車だな?」 「…もう盗難届が出てたのか」 「もう?盗難届が出たのは、半年前だぞ」
「おいバカやめろッ!」 駅のホームで、緊迫した声に振り向くと、線路に飛び込もうとする男を周りの人達が必死に止めていた。(バズるかも…)と思った俺はその様子をスマホで撮る。間一髪で電車が通り過ぎて行った。動画を見返すと、笑顔で手招きする人達が、向かいのホームに一瞬だけ映っていた。
『もしもし?今、402号室の前にいるの』 スマホの位置情報をオンにしてれば使えるホラー系ジョークアプリ "メリーさん" 段々近づいてくるcallを面白がっていたが、ふと思った。 (なんで、位置情報だけで俺の部屋の番号までわかったんだ?) 再びcallが鳴る。 「もしもし?今、アナタの後ろにいるの」
「トロッコ問題、アナタならどうする?」 サイコパス「トロッコは一台しか来ないのですか?」
「今時は『情報』なんて授業があるのね。どんな事をするの?」 「えっとね、この前は班に分かれてSNSから嘘の情報を10個集めたよ!」 「あら、いいわねぇ」 「でもね、シゲキ君は自分でアカウント作って嘘の情報流して、それを集めたのがバレて先生に怒られてたよ!」 「あら、ズルはいけないわねぇ」
私は、辛くて本当に死にたくなった時、近くの山の中を訪れる。獣道を進んだ先に、先人がいるのだ。先人は今日も、枝から一本のロープでぶら下がっていた。ある日、先人を見つけて死を思い止まった私は、時々こうして会いに来る。彼は命の恩人だ。 日が経ち、また会いに行くと、先人の姿は消えていた。
濡れながら帰宅してると、男の人が私に傘を差し出してきた。 「あの…よかったらコレ使って下さい」 「え?いえそんな、悪いですよ」 「僕の家、近くなんで遠慮せず。まだまだ歩きますよね」 「えっと…じゃあ、ありがとうございます」 傘を受け取ると、男の人は去っていった。 親切な人もいるのね。
なんだか教室が騒がしい。集合写真に幽霊が写り込んだとかで、盛り上がってるみたいだ。 「見ろよこの陰気な目。間違いなく、生前は陰キャだったね」 なんて声が聞こえてきて笑えた。 「陰キャは、自分から写真に入ったりしないよ」 そう呟いたが、誰にも聞こえてないようで、僕は窓から教室を出た。
友人の家に遊びに行ったら、無数のトロフィーが飾られていた。学術的なものから陸上競技まで、実に多種多様なトロフィーで溢れている。 「お前…実は凄い奴だったんだな」 「いや、まだまだ全然だよ」そう言って友人は照れ臭そうに笑い、こう続けた。「始めたばかりだからね、トロフィーの自作」
「お前、目のクマひどいな」 「最近眠れてなくて」 「なんで?」 「『あなたを誹謗中傷で訴える』ってDM来てさ…脅しだと思うんだけど」 「SNSでそういう事するからだろ」 「ちょっとストレス溜まってて…」 「…DM届いたの、3日前の19時32分?」 「え?なんで知ってんの?」 「お前だったのか」
俺のスマホは故障したらしく、通知も来てないのに、時々ブルブルと震えだす。 「きっと寒いんだよ。暖めてあげなよ」と恋人は言った。そういうことをサラッと言える彼女が好きだ。俺はスマホを掌で温めるようにして以来、不思議とスマホは治った。嘘だと思うだろ?その通り。彼女なんていない。
近所の屋敷に、莫大な遺産を相続した盲目の未亡人が住んでいる。これはチャンスだ。今から懐に潜り込んでおけば、後々、美味しい思いを出来るに違いない。 「マダム。私は貴女の目になりたいのです」 「…貴方も、遺産目当て?」 「神に誓ってNoです」 マダムは笑う。 「心臓の音は、正直ね」
「パパ、赤ちゃんはどこからやってくるの?」 「コウノトリさんが運んでくるんだよ」 「じゃあコウノトリさんの赤ちゃんは?」 「コウノトリさんが運んでくるんだよ」 「……パパ、僕の名前言える?」 「コウノトリさんが運んでくるんだよ」 「ねぇ、パパ……」 「コウノトリさんが運んでくるんだよ」
地球を背に宇宙ステーションで外壁のメンテをしていると、奇妙なモノが漂っていた。 人骨だ。 持ち帰って検査してみたが、やはり、人骨で間違い無かった。どうして宇宙空間にこんなものが…? 調べると、すぐに真相はわかった。今頃地球では、宇宙葬のやり方について見直していることだろう。
深夜、彼氏が自宅マンションで寝ているところを、侵入者に刺されて死んだ。金銭は無事だったことから、私怨による犯行と思われ、合鍵を貰っていた私が警察署に呼ばれた。 「あの…私、疑われてるんですか?」 「いえ、合鍵の持ち主は3人いるので」 「はぁ?4人だったんですけど?」 「よくご存知で」
俺は今、落下するエレベーターの中にいる。イチかバチか、こうなったら1Fに激突する直前にジャンプするしかない。俺はフワフワと自由落下している状態だが、落下速度を相殺する程の威力で床を蹴れば助かるはずだ。 ……よし、今だッ‼ おかげで1つ、わかった事がある。 天国って意外と湿度が高い。
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まるでゴッホのような小説家だなと思った。 彼は、亡くなってから有名になったのだ。投稿先が悪かったのか運が悪かったのか…きっと両方だろう。彼の作品はネットから発掘される度に売れた。その中でも特に売れた作品の最後の一文は、特に印象的だった。 『この世界は、私が生まれてくるには幼過ぎた』
12/24は当然予定が無いので、オンラインゲームにログインすると、A君とBさんがいた。2人はリアルでカップルだ。 『あれ?2人はデートいかないの?』 『僕ら先月から同棲始めたんで、今日はお家でゲーム内デートなんです!』 俺は『ゲーム内もイルミ綺麗だもんね♪』と返し、ひっそりとログアウトした。
和装に身を包み、背筋の伸びた義祖父は、老齢ながらも実に凛々しい。 「僕も義祖父さんのように、良い歳の取り方をしたいものです」 義祖父は首を振り、自室に戻ると、グラサンにパーカー姿で出て来た。 「良い歳の取り方とは、人生を楽しむ心を、忘れない事じゃろ?」 最近HIP-HOPにハマったそうだ。
甥にゲームに誘われた。仕方なく付き合ってあげる事にした。 「叔父さん」 「ん?」 「今、わざと負けたでしょ?」 「……」 「勝負だよ!?そういうのやめて!」 「次は本気出すよ」 「それ言うの8回目だよ!?」 「次こそ本気だ」 「叔父さんはいつ本気で就活するの?」 「精神攻撃はやめろくれ」
神は俺に言った 「いつに戻りたい?」 「その前に確認させて下さい」 「何だ」 「俺は今まで何回、時間を戻してもらいましたか」 「97回だ」 「…もう、戻さなくていいです」 神は頷き、霧散した。 なぜ…何度繰り返しても、彼女を救えない…。 どうして…。 ………。 「神様、やはり、もう1度だけ…」
「ねぇママ。魔族の定義って何?」 「あぁ、賢い私の坊や。私達に害を成すのが魔族よ」 「でも、熊さんも襲ってくるけど、魔族じゃないよね?」 「坊や。熊は喋らないでしょう?」 「じゃあ、言葉を喋って、僕達を襲うのが魔族なんだね!」 「そうよ。彼らは、自分達をヒトと呼んでるみたいだけど」
「僕、人の未来が見えるんです。貴女の家に盗聴器を仕掛けました」 通りすがりの男は突然私にそう告げると、足早に去っていった。余りに気持ち悪いので、家に警察を呼んで調べて貰った。今日デートだったのに…。 翌日、XX駅で刃物を持った男が暴れたとニュースにあった。私が向かっていた駅だった。
「皆は、無人島に1つ持っていくとしたら何を持っていく?」 それぞれ色々な答えを返す。 ライター、ナイフ、釣り竿、銃… 「俺はこのマフラーだね」 「なんで?」 「彼女が手で編んでくれたんだ。これさえあれば、心は折れないよ」 よく見ると、ラベルが切り取られてるみたいだが、黙ってる事にした。