401
ある日、俺は瞬間移動能力に目覚めた。
俺は人生の勝ち組を約束されたようなものだ。
さっそくこの能力をフルに活用して舞台に立つ。しかし観客からは「脱出系マジックとか見飽きたよ」との冷たい声しか上がらなかった。
能力の使い道は他にあったかもしれない。でもマジシャンは、俺の夢だったんだ。
402
医者を辞めた理由?
いや、別に激務とか人間関係じゃない。
忙しいのは好きだったし、人から感謝されるのは良い気分だった。
強いて言えば…虚しくなったからかな。
あれは、例年より暑い夏だった。
治した患者が、退院してすぐ、自殺したんだ。
退院する時の、彼の笑顔は、今でも忘れられない。
403
闇鍋とは、鍋の中に何が入っているのかわからないからこそ闇鍋なのだ。しかし俺達は1つ上の次元に到達している。具だけでなく、この鍋を囲んでいる5人は各々が誰かもわかっていないのだから。マスクをしているせいで表情も読めない。今が何時でここが何処かもわからない。正直、凄く怖い。帰りたい。
404
リモート技術は随分と進化した。映る相手の姿を、観る側は任意のアバターに着せ替えられるようになったのだ。姿だけじゃなく、声までもだ。若い社員は皆、当たり前に使いこなしている。気味の悪い事に、彼らは俺の説教を影で喜んでいるそうだ。恐ろしい。俺の姿は一体、彼らの目にどう映ってるんだ?
405
妻は昔からかなり天然で、多くの男が魅了された。仕事から帰ると妻は見知らぬ男とお茶をしていた。
「あら、お帰りなさいアナタ」
「あ、ども…お邪魔してます」
お客さんだろうか?だがそんな話は聞いてない。男は逃げるように家を出て行った。
「今の男、誰?」
「さぁ?急に窓から入ってきたのよ」
406
「ドラ〇えもん、日誌なんてつけてるのか…ちょっと見ちゃえ」
【1月5日】
の〇太君の経過は非常に順調。今回こそセワシ君の未来を変えられそうだ。タイムマシンで戻る度、〇び太君の『初めまして』を聞く事に僕はもう堪えられない。どうか…今回こそ…
「……表紙の〝81回目〟って、もしかして…」
407
家にいると痣が増えるから、私は近くの図書館に毎日足を運んでノートに小説を書いて過ごした。気分転換に好きな本を選ぶ。図書館に育てられた私は、いつかそこに自分の本を並べるのが夢だった。
そして、夢は叶った
意外と涙は出なかった
でも、お世話になった司書さんが泣いてくれた時、涙が溢れた
408
「あ、キャベツ安い」
久しぶりに自炊しようかと思ったけどやめておいた。最初は楽しかったが、疲れもあり、メンドくささが勝ってしまったのだ。
「早く奥さん見つけたいなぁ…」
そして1年後、俺は結婚した。
「美味しい?」
「最高♪」
やはり俺は、大切な人に食べてもらってこそ、料理を楽しめる。
409
深夜遅く、やっと晩飯のカップ麺にありつけたかと思えば…急患だ。
帰宅途中、赤信号を渡って車に轢かれた残業帰りの会社員らしい。
看護師は言う。
「いっそのこと、会社に泊まればよかったのに」
俺は答えた。
「せめて、子供の寝顔だけでも見たかったのかもな」
それを叶えるのが、俺の仕事だ。
410
ピッチャーマウンドに立つと脳内に声が響いた。
『聞こえるか?』
この声は…先週 事故で亡くなった山田!?
『この試合…どうしても投げたかったんだ…頼む…体を貸してくれ』
俺は少し考え、頷いた。本来ここに立つべきは山田だったのだから。
そして試合に勝った。
未だに山田は体を返してくれない。
411
自分で自分の足の骨を折る国民が相次いだ。俺も、いい加減に足を折らねば…。徴兵され、無駄な戦争に送り込まれるのを避けるためだ。そんな世で、ある時、誰かがこう言った。
「真に折るべき骨は、1つだけだ」
少しして、独裁を極めた我らが国王の訃報が国中に広がった。首の骨を折られていたそうだ。
412
ピンポーン
チャイムに出ると、知らない人が立っていた。
「どちら様でしょうか?」
「私、隣に越してきた者です。ご挨拶に来ました」
「あぁ、ご丁寧にどうも」
「こちら、つまらないものですが…」
渡されたのは、お隣さんの自作小説だった。
本当につまらなかった。
413
「見ろよ。『底無し沼』だって。本当かな?」
「試してみれば?ヤバかったら引き上げてやるよ」
すると、友人は「ヨシ」と言って底なし沼にドボンした。
「…あ、やべ、これやべぇ!引っ張って!早く!早くぅ!!」
「わかったから落ち着け、ビビリ過ぎだろ」
「違う!何かが俺の足引っ張ってる!!」
414
ウチの猫のミケとタマ。
この2匹だけが俺の生きる希望であり支えだ。2匹を拾ったその日から、俺はもう死ぬ事を考えなくなった。この子達は俺より先に寿命が来る。その時、俺はどうしようか…。
ある日、ミケの様子がおかしくなった。病院に連れていくと妊娠していた。「生きて」と言われた気がした。
415
トロッコ問題。分岐点の先で線路の上に寝かされている5人と1人。どちらを救うかレバーで決める。
「お前ならどうする?」
「寝かされてたっけ」
「そこはどっちでもいいだろ」
「人をどかせて救えないの?」
「無理」
「じゃあ1人を見捨てる。その代わり、トロッコが来る前に、僕も隣に寝てあげる」
416
イイネが欲しい。
どうすればもっとイイネが貰える?
動物モノが簡単にイイネを貰えると聞いた。俺はさっそくペットショップに向かう。チワワ、君に決めた。名前は〝イイネ〟にしよう。仕事から帰るとイイネが出迎えてくれる。それだけで毎日幸せだ。いつしか、俺の中の承認欲求は消え失せていた。
417
クソ上司にはウンザリだ。
1発当てて脱サラしようと、ラノベを書く事にした。まず、勇者として召喚されて…
「勇者ってなに?」
息子が純粋な瞳で聞いてくる。
「悪い奴に負けない、勇敢な人の事だよ」
「じゃあ、パパは勇者だね!」
俺は泣きながら息子を抱きしめた。
パパ、上司になんか負けないよ。
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419
「よかったら、LINE交換しない?」
「ごめん、LINEやってないの」
「じゃあ、番号交換しようよ」
「ごめん、スマホ持ってないの」
「じゃあ、家に遊び行っていい?」
「ごめん、家無いの」
「じゃあ、ウチに住まない?」
「……いいの?」
こうして、僕とクラスメートの、奇妙な共同生活は始まった。
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『はい、消防署です。火事ですか?救急ですか?』
「助けて下さい!大火事です!!」
『すぐに向かいます。場所はどこですか?』
「https://XXXXです!」
『? なんですって?』
「僕のブログです!大炎上してます!鎮火してください!!!」
『こういう事するから炎上するんですよ』
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「出来たぞ助手君!精度100%の嘘発見器だ!装着せずとも嘘を検知してブザーが鳴る優れ物だ」
「本当ですか⁉︎凄いです博士!これで、病気で亡くなった博士の奥様も浮かばれますね」
ビービービー!
「あれ?博士、この嘘発見器、まだ精度がイマイチみたいですよ」
「……」
ビービービー!
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俺は気まぐれに〝鉄道忘れ物市〟を訪れてみた。すると、下手な絵の漫画原稿が置いてあった。まさかと思い、手に取って捲って見ると、俺はその場で泣き崩れた。
「大丈夫ですか?」と店員の声。
それは若い頃、出版社に持ち込む日、怖気づいて電車内に置いていった俺の漫画だった。
「これ…ください」
423
「そういえば、もうすぐクリスマスね」
「そうですね。A先輩はサンタさんに何頼むんですか?」
「え?」
「え?」
「B子ちゃん、社会人でサンタは流石に…」
「いえ、サンタはいますよ普通に。去年も来てくれましたし…」
「B子ちゃん、実家暮らし?」
「いえ、一人暮らしです」
「え?」
「え?」
424
撮られると死ぬ。
このカメラには、そんな迷信があるらしい。しかしその真相は、撮った相手をターゲットにする殺人鬼がいたというわけだ。そいつを検挙した俺は、撮られて生き残った記念すべき最初の一人だ。これで、思い残す事は無い。俺はビルの屋上から晴々とした気持ちで飛び降りた。
425
「ねぇ ワタシ綺麗…?」
「ん?お姉さん どこ?」
「…アナタ、目が見えないの?」
「うん。でもね、おかげで色んな事がわかるようになったの」
「……」
「お姉さんのお顔は見えないけど、心が綺麗なのはわかるよ!そういう声、してるもん」
「……」
「お姉さん?」
以後 口裂け女は現れなくなった