ある日、俺は瞬間移動能力に目覚めた。 俺は人生の勝ち組を約束されたようなものだ。 さっそくこの能力をフルに活用して舞台に立つ。しかし観客からは「脱出系マジックとか見飽きたよ」との冷たい声しか上がらなかった。 能力の使い道は他にあったかもしれない。でもマジシャンは、俺の夢だったんだ。
医者を辞めた理由? いや、別に激務とか人間関係じゃない。 忙しいのは好きだったし、人から感謝されるのは良い気分だった。 強いて言えば…虚しくなったからかな。 あれは、例年より暑い夏だった。 治した患者が、退院してすぐ、自殺したんだ。 退院する時の、彼の笑顔は、今でも忘れられない。
闇鍋とは、鍋の中に何が入っているのかわからないからこそ闇鍋なのだ。しかし俺達は1つ上の次元に到達している。具だけでなく、この鍋を囲んでいる5人は各々が誰かもわかっていないのだから。マスクをしているせいで表情も読めない。今が何時でここが何処かもわからない。正直、凄く怖い。帰りたい。
リモート技術は随分と進化した。映る相手の姿を、観る側は任意のアバターに着せ替えられるようになったのだ。姿だけじゃなく、声までもだ。若い社員は皆、当たり前に使いこなしている。気味の悪い事に、彼らは俺の説教を影で喜んでいるそうだ。恐ろしい。俺の姿は一体、彼らの目にどう映ってるんだ?
妻は昔からかなり天然で、多くの男が魅了された。仕事から帰ると妻は見知らぬ男とお茶をしていた。 「あら、お帰りなさいアナタ」 「あ、ども…お邪魔してます」 お客さんだろうか?だがそんな話は聞いてない。男は逃げるように家を出て行った。 「今の男、誰?」 「さぁ?急に窓から入ってきたのよ」
「ドラ〇えもん、日誌なんてつけてるのか…ちょっと見ちゃえ」 【1月5日】 の〇太君の経過は非常に順調。今回こそセワシ君の未来を変えられそうだ。タイムマシンで戻る度、〇び太君の『初めまして』を聞く事に僕はもう堪えられない。どうか…今回こそ… 「……表紙の〝81回目〟って、もしかして…」
家にいると痣が増えるから、私は近くの図書館に毎日足を運んでノートに小説を書いて過ごした。気分転換に好きな本を選ぶ。図書館に育てられた私は、いつかそこに自分の本を並べるのが夢だった。 そして、夢は叶った 意外と涙は出なかった でも、お世話になった司書さんが泣いてくれた時、涙が溢れた
「あ、キャベツ安い」 久しぶりに自炊しようかと思ったけどやめておいた。最初は楽しかったが、疲れもあり、メンドくささが勝ってしまったのだ。 「早く奥さん見つけたいなぁ…」 そして1年後、俺は結婚した。 「美味しい?」 「最高♪」 やはり俺は、大切な人に食べてもらってこそ、料理を楽しめる。
深夜遅く、やっと晩飯のカップ麺にありつけたかと思えば…急患だ。 帰宅途中、赤信号を渡って車に轢かれた残業帰りの会社員らしい。 看護師は言う。 「いっそのこと、会社に泊まればよかったのに」 俺は答えた。 「せめて、子供の寝顔だけでも見たかったのかもな」 それを叶えるのが、俺の仕事だ。
ピッチャーマウンドに立つと脳内に声が響いた。 『聞こえるか?』 この声は…先週 事故で亡くなった山田!? 『この試合…どうしても投げたかったんだ…頼む…体を貸してくれ』 俺は少し考え、頷いた。本来ここに立つべきは山田だったのだから。 そして試合に勝った。 未だに山田は体を返してくれない。
自分で自分の足の骨を折る国民が相次いだ。俺も、いい加減に足を折らねば…。徴兵され、無駄な戦争に送り込まれるのを避けるためだ。そんな世で、ある時、誰かがこう言った。 「真に折るべき骨は、1つだけだ」 少しして、独裁を極めた我らが国王の訃報が国中に広がった。首の骨を折られていたそうだ。
ピンポーン チャイムに出ると、知らない人が立っていた。 「どちら様でしょうか?」 「私、隣に越してきた者です。ご挨拶に来ました」 「あぁ、ご丁寧にどうも」 「こちら、つまらないものですが…」 渡されたのは、お隣さんの自作小説だった。 本当につまらなかった。
「見ろよ。『底無し沼』だって。本当かな?」 「試してみれば?ヤバかったら引き上げてやるよ」 すると、友人は「ヨシ」と言って底なし沼にドボンした。 「…あ、やべ、これやべぇ!引っ張って!早く!早くぅ!!」 「わかったから落ち着け、ビビリ過ぎだろ」 「違う!何かが俺の足引っ張ってる!!」
ウチの猫のミケとタマ。 この2匹だけが俺の生きる希望であり支えだ。2匹を拾ったその日から、俺はもう死ぬ事を考えなくなった。この子達は俺より先に寿命が来る。その時、俺はどうしようか…。 ある日、ミケの様子がおかしくなった。病院に連れていくと妊娠していた。「生きて」と言われた気がした。
トロッコ問題。分岐点の先で線路の上に寝かされている5人と1人。どちらを救うかレバーで決める。 「お前ならどうする?」 「寝かされてたっけ」 「そこはどっちでもいいだろ」 「人をどかせて救えないの?」 「無理」 「じゃあ1人を見捨てる。その代わり、トロッコが来る前に、僕も隣に寝てあげる」
イイネが欲しい。 どうすればもっとイイネが貰える? 動物モノが簡単にイイネを貰えると聞いた。俺はさっそくペットショップに向かう。チワワ、君に決めた。名前は〝イイネ〟にしよう。仕事から帰るとイイネが出迎えてくれる。それだけで毎日幸せだ。いつしか、俺の中の承認欲求は消え失せていた。
クソ上司にはウンザリだ。 1発当てて脱サラしようと、ラノベを書く事にした。まず、勇者として召喚されて… 「勇者ってなに?」 息子が純粋な瞳で聞いてくる。 「悪い奴に負けない、勇敢な人の事だよ」 「じゃあ、パパは勇者だね!」 俺は泣きながら息子を抱きしめた。 パパ、上司になんか負けないよ。
彼はスマホを眺めて、愛しそうに微笑んでいる。 ちょっとだけ、嫉妬してしまった。そんな微笑みを向けてくれるのは、私に対してだけだと思ってたから。 「ねぇ、何見てるの?」 「え?あー…コレ」 彼が照れ臭そうに画面を向けると、私の頬は熱くなった。画面には、雪の中の、私の写真が映ってたから。
「よかったら、LINE交換しない?」 「ごめん、LINEやってないの」 「じゃあ、番号交換しようよ」 「ごめん、スマホ持ってないの」 「じゃあ、家に遊び行っていい?」 「ごめん、家無いの」 「じゃあ、ウチに住まない?」 「……いいの?」 こうして、僕とクラスメートの、奇妙な共同生活は始まった。
『はい、消防署です。火事ですか?救急ですか?』 「助けて下さい!大火事です!!」 『すぐに向かいます。場所はどこですか?』 「https://XXXXです!」 『? なんですって?』 「僕のブログです!大炎上してます!鎮火してください!!!」 『こういう事するから炎上するんですよ』
「出来たぞ助手君!精度100%の嘘発見器だ!装着せずとも嘘を検知してブザーが鳴る優れ物だ」 「本当ですか⁉︎凄いです博士!これで、病気で亡くなった博士の奥様も浮かばれますね」 ビービービー! 「あれ?博士、この嘘発見器、まだ精度がイマイチみたいですよ」 「……」 ビービービー!
俺は気まぐれに〝鉄道忘れ物市〟を訪れてみた。すると、下手な絵の漫画原稿が置いてあった。まさかと思い、手に取って捲って見ると、俺はその場で泣き崩れた。 「大丈夫ですか?」と店員の声。 それは若い頃、出版社に持ち込む日、怖気づいて電車内に置いていった俺の漫画だった。 「これ…ください」
「そういえば、もうすぐクリスマスね」 「そうですね。A先輩はサンタさんに何頼むんですか?」 「え?」 「え?」 「B子ちゃん、社会人でサンタは流石に…」 「いえ、サンタはいますよ普通に。去年も来てくれましたし…」 「B子ちゃん、実家暮らし?」 「いえ、一人暮らしです」 「え?」 「え?」
撮られると死ぬ。 このカメラには、そんな迷信があるらしい。しかしその真相は、撮った相手をターゲットにする殺人鬼がいたというわけだ。そいつを検挙した俺は、撮られて生き残った記念すべき最初の一人だ。これで、思い残す事は無い。俺はビルの屋上から晴々とした気持ちで飛び降りた。
「ねぇ ワタシ綺麗…?」 「ん?お姉さん どこ?」 「…アナタ、目が見えないの?」 「うん。でもね、おかげで色んな事がわかるようになったの」 「……」 「お姉さんのお顔は見えないけど、心が綺麗なのはわかるよ!そういう声、してるもん」 「……」 「お姉さん?」 以後 口裂け女は現れなくなった