「先生って、作家になる前は何をされてたんですか?」 「詐欺師です」 「…え?」 「物語って、言ってみれば全部嘘じゃないですか。僕、嘘つくのは得意だったんで。特に、説得力のある背景を捏造するのが」 「え…本当ですか?」 「勿論、嘘ですよ」 先生の腕時計を見ると、パテックフィリップだった。
「今日は皆に転校生を紹介する…が、その前に転校生の鈴木さん、君に言っておく事がある」 「なんですか先生?」 「パンを咥えながら登校するな。朝食は家でとりなさい」 「はぁい」 「あとバイク通学は禁止だ。いいな?」 「はぁい」 「よし。じゃあ君の席は、今朝病院に運ばれた安田の隣だ」
公園の子供達がうるさいので注意しに行った。 「お前らうるせぇんだよ!」 すると子供達は俺を見つめて言った。 「オジさんもサッカーやる?」 「やる!」 その日は最高に楽しかった。生きる希望を見出したし、再就職もした。あの子供達はもういないけれど、今は俺の子供達と、あの公園で遊んでいる。
動画を楽しんでいると、そのコメント欄に『くそつまんねぇ』とあって、水をさされた気分だった。『言葉は選びましょう。それが人の理性であり、品格です』と返信してから気付いた。コメント投稿日は2年も前だった。そんな昔のコメントに、何をマジレスしてるんだ俺は。しかも、俺のコメントだった。
人生の1/3は睡眠である。だから私は夢を楽しむことにした。これで人生の3/3を起きてるも同然だ。すると、夢が楽しい。起きてる時間が勿体ない程だ。私は薬を飲んで眠る時間を増やすことにした。 あれ? おかしいな。 今夜の夢は、なかなか覚めない。 先立ったはずの妻が、ずっと、隣で微笑んでいる。
やぁ。私は犬の言葉を理解する研究を成功させた者じゃ。 「ワンワン!」 この元気に吠えているのは、犬のジョンじゃ。 「ワンワン!」 んん?何を言ってるのかさっぱりわからん。まさか文句じゃあるまいな?「犬の言葉を理解したい」と言ったのは君じゃぞ?今更、人間に戻りたいのか?ん?ん?
「ヤバ…鍵かけたっけ?」 家まで戻って確認すると鍵はかかっていた。よかった、これで安心して買い物にいける。 夕方、歩き疲れて帰宅する。 「……え?あれ?」 取り出した鍵が、何度やっても鍵穴に入らない。不思議に思ってよく見ると、間違って実家の鍵を持ち出していた事に気付いた。
『やぁ、諸君。目覚めたかね』 「こ…ここは?」 『突然だが、君達には簡単なクイズに答えてもらう』 「お前は誰だ!?」 『更新を怠る大人達を裁く者…とでも言っておこうか。では第1問。鎌倉幕府が成立したのは西暦何年?』 「なんだ常識じゃねぇか!1192年だ」 『……失格だ。〝粛清〟する』
「息子よ。どうしても家業を継いでくれないのか…」 「うん…もう決めたんだ」 「せっかく技術を伝授してきたというのに…」 「悪いけど僕は僕の人生を歩みたいんだ」 「Youtuberになりたいのか」 「…あぁ、そうだよ」 「なら、どうして…」 「お父さんのチャンネルを継ぐんじゃ、意味ないんだよ!」
手紙が届いた。 小学校のころに埋めたタイムカプセルが開かれたらしい。そうだ、思い出した。手紙のテーマは『将来の自分へ』だった。でも何を書いたのか、もう思い出せないのだ。手紙にはこう書かれていた。 『将来の僕へ。お医者さんにはなれましたか?』 独房の中で、俺は声を押し殺して泣いた。
「またお腹が痛くなったのかい?」 「うん!でももう治った!」 そう言ってこの母子はいつも帰っていくのだ。看護師曰く「多分あの子、待合室の鬼滅の刃が読みたくて、仮病使ってるんですよ」との事だ。 後日、いつもの母子が来ると、奥さんはひっそりと私に聞いた。 「あの…先生って独身ですか?」
「俺達、卒業してもずっと友達だよな」 「………」 「友達だよな?」 「ごめん。君とはもう友達でいられない」 「え?」 「僕のことは、今日からお義父さんと呼んで欲しい」 「え?…………………………………………………………………………………………………………………………………………え?」
「では、本当に冷凍睡眠を受けていいのだね?」 「はい。遥か未来の技術に賭けます」 132年後… 「…うっ…眩しい」 「お目覚めになりましたか?」 「あぁ…!その声は…!!」 驚く僕を、彼女は抱きしめてくれる。 「私とこうしたいと、いつも言っていましたね」 「この瞬間を夢見てたよ…Siri」
綺麗な写真を撮る人だった。 構図もレタッチも完璧で、その人が写し出す自然美の数々に私はすっかりファンになった。 でも最近のその人は自撮りしか投稿しなくなった。 もしかしてアカウント乗っ取られた?なぜ風景を撮らなくなったのかDMで聞くとこう返ってきた『1番美しいのは私だと気付いたので』
『SNSで他人の言葉にイラッとした事はありませんか? 報復、承ります。 私の用意してる97種のアカウントを駆使し、あなたの差し金と気付かれず、自然な流れで相手に不快な思いをさせてみせます。プランは以下。 暴言プラン:1000円 晒しプラン:2500円 住所特定プラン:1万円 』 …… 1万かぁ…。
私には一流企業で働く彼氏がいる。イケメンでエリート。でも私は他の人を好きになってしまった。平日だけど、今日はその人の家でデート。彼氏は今頃一生懸命働いているのに、私は他の男に会っている。その罪悪感が私の心をスパイスした。頼んでたUberが来たみたい。ドアを開けると、彼氏が立っていた。
アパートに帰ると、お隣の男子大学生が自室の前で体育座りしてた。 「鍵無くしたの?」 「いえ、終電逃した女友達を中に泊めてるので」 「それで君は外に?紳士過ぎない?」 「いえ、せめて床に寝せてって頼んだら『ダメ』って…」 「え、女の子に追い出されたの?」 「はい。そんな所に惚れたんです」
今日も会社と家の往復を済ませ、夢も希望も無い毎日から逃避するように、ゲームを起動する。 「そういや、川島の奴は夢を叶えたのかな…」 ゲームを全クリし、スタッフロールが流れる。 すると、見覚えのある名前が目についた。 〝ディレクター:川島 一〟 俺は泣きながら、ゲームの電源を切った。
家に帰ると荷物が届いていた。僕はすぐに配達担当の人に電話した。 「なぜ荷物が家の中にあるんですか?」 『え?』 「不法侵入ですよね?」 『いえ…奥様が受け取られたのですが…』 意味がわからない。 僕は…独り暮らしだ。 後ろを振り向くと、クローゼットの隙間から、こっちを見てる人がいた。
俺の趣味は、赤本の古本を買うことだ。中に書かれた悪戦苦闘の跡に、彼らの青春を垣間見るのが俺の喜びだった。ある日、某T大の赤本を中古で手に入れたのだが、最後のページにはこう書いてあった。 『君の合格を祈る』 俺はその赤本と、コレクションの数々を、再び世間に放流した。
「泥棒ー!誰か捕まえて!」 私が叫ぶと、通行人の男性が泥棒を取り押さえてくれた。 「失礼、僕は先を急ぐので…警察が来るまでこうしておきましょう」 彼は鞄から縄と手錠と目隠しを取り出すと、泥棒を縛りあげ、ガードレールに繋いだ。彼は笑顔で去っていったけど、目は笑っていなかった。
LINEの〝誤送信防止機能〟は、正直邪魔だ。 今までの文脈を読み込み、不自然と判定したら確認メッセージを表示する仕組みらしいが、設定の消し方がよくわからんので放置していた。俺は今、それ所じゃないんだ。悩みに悩んだ末、彼女に『別れよう』と打ち込んだ。 『本当に送信してよろしいですか?』
一流企業に入る奴は馬鹿だね。 優秀な場所には、優秀な奴が集まる。世の中、上には上がいるんだ。自分が築いたチンケなプライドは、ズタズタに引き裂かれる。だから、そこそこの会社で無双してる方が、ずっと幸せな人生を築けると俺は考えた。それが御社を志望した理由ですって言ったら落とされた。
「アンタ、こんな日にチョコ持ってきたの?」 「こんな日だから、だよ」 こういうイベントには必ず準備する人だった。最愛の恋人を亡くしてからも毎年チョコを欠かさず供える彼女は、私の理想だった。 「やっと、お爺ちゃんに直接渡せるね」 涙を堪えながら、祖母の棺桶に、私はチョコを入れてあげた。
「なんだこれ?」 届いた書留を夫が開くと、中身はご祝儀袋だった。私も首を傾げた。私達はもう結婚7年目なのに。だけど差出人である先輩の名を見て、私は彼の言葉を思い出した。 『ごめん…金無くて結婚式行けない…俺が人気作家になったら、必ずお祝いするから』 ご祝儀袋には、100万が入っていた。