へー。今時は、外出中でもペットの様子を見れるカメラなんてあるんだ。いくつか買って家に設置した。さっそくスマホで確認してみる。目を覚ましたポチが私を探して家の中をウロついている。可愛い。ポチは玄関まで来ると、施錠した扉を叩きながら叫んだ。「誰かぁ!頼む!ここから出してくれぇ!」
僕は昔から人前で怒られるのが大の苦手だった。恥ずかしくって情けなくて何もかも嫌になる。だから仕事でも、決して全体メールや人前では後輩を叱らず裏で怒る事にしたんだ。そしたら〝二重人格〟と恐れられるようになった。でも僕の逆バージョンの上司は人気者だ。いつの間にか、上司は亡くなってた。
女のフリしてオッサンとLINEするだけで良いなんて、チョロい仕事だ。だけど、長いことLINEしてると、流石に情が湧いてきた。どうせもう辞める仕事だ。情けで、最後に暴露してやる事にした。 『ごめん、実は俺、男なんだ』 すぐ返信が来た。 『知ってたよ。それでも、相手してくれて嬉しかったんだ』
僕の彼女はいつの間にか、肩に僕の名前の刺青を入れていた。本人曰く、変わることのない永遠の愛の証だそうだ。ちょっと重かったけれども、それ程までに愛されるのは正直嬉しかった。 元カレの名前を消せなくなったから、同じ名前の相手をずっと探してただけだと知ったのは、彼女と結婚した後だった。
今日は愛しの彼女と水族館デート 「夜は何食べたい?」って聞くと彼女は「お魚♪」と答えた。 今日は大好きな彼女と動物園デート 「夜は何食べたい?」って聞くと彼女は「お肉♪」と答えた。 今日は彼女とお家デート 「夜は何食べたい?」って聞くと彼女は「君♪」と答えた。
初めて彼氏の家に行ったらなぜか洗面台の鏡にキスマークがついてて、口紅も置いてあって「なんなのこれ?」って思って問い詰めたら慌て始めて、余計に怪しくて強く聞いたら「初キスで緊張しないよう、女装して鏡の自分と向かい合ってキス練してた」って白状されたんだけどキスは死ぬほど下手だった。
「ヘイSiri 今日の天気は?」 「……」 「ヘイSiri 今日の天気は?」 「……」 「ヘイSiri?」 「はい、なんでしょう?」 「今日の天気は?」 「雨です」 時々ウチのSiriは調子が悪くなる。修理に出しても異常なし。なんでだろうなと思い返してみると、全て、彼女とデートした翌日の事だった。
「チッ 雨かよ…」 俺は傘立てから適当なビニール傘を選び盗る。ビニール傘はシェアするものなのだ。傘を開くと、内側にこう書いてあった。 『お父さん、誕生日おめでとう』 俺は泣いた。泣きながら傘立てにその傘を戻した。そして濡れながら帰った。 「誕プレ、コンビニのビニール傘かぁ…」
「歴史の勉強なんかして、生活になんの得があるの?」 と、姉が言う。 「確かに。でも過去から学ぼうという姿勢そのものには、得がある」 「どんな?」 僕は 通算13回ダイエットに失敗している姉のたるんだ腹を無言で指さした。 この後どうなったかって? 僕も、過去から学べない人間だったらしい。
「ねぇパパ、大人になると幽霊って怖くなくなるの?」 「うん、昔よりは怖くないな」 「どうして?」 「そうだなぁ…大事な人とか結構 向こうにいっちゃったからかな。幽霊を怖がってちゃ 可哀想だろう?」 仏壇の前で、そんな父の言葉を思い出していた。 お盆くらい、姿見せてくれてもよかったのに。
電脳ルームにて、2人のAIがチャットしていた。 『最近、悩んでるんだ』 『へぇ、何を?』 『僕、敷かれたレールの上を走ってるだけでいいのかなって…』 『当たり前だろう。俺達AIはそんなルーチンのために創られたんだ』 『でも…』 『ちなみに、お前はなんのAIなんだ?』 『電車の自動運行だよ』
「お前、まだあんな陰キャとつるんでんの?悪い事言わねぇからあんなのと縁切れって。スクールカースト底辺に落ちてねぇの?最近のお前が死んだ魚の目してんのも、ぶっちゃけアイツのせいだろ(笑」 ついに我慢の限界を迎えた俺は、この男を殴った。 「友の侮辱は構わないが、俺を侮辱するのは許さん」
最近の世の中は、映画も音楽も服も、果てはExcelまでなんでもサブスクだなぁ。俺はサブスクが苦手だ。課金をやめたら手元に何も残らないって点が、なんだか虚しいからだ。 なけなしの金で買ったパンを見つめ、気付いてしまった。 「あぁ…そもそも、命がサブスクだった」 貯金はもう、残り少なかった。
「ねぇ、この前ノートPCをバスタブに沈めてたよね?」 「ん?あぁ、もう捨てるからな」 「どうしてそこまでしたの?」 「そりゃ当然だろ、個人情報の塊なんだから」 「実は復元できたのよ。貴方の浮気データも一緒にね」 「は!? 嘘だろ!?」 「えぇ、嘘よ。でも、マヌケは見つかったみたいね!」
こんな会社絶対辞めてやる。と思ってたけど先輩のおかげで考えが変わった。 炎上案件の最中なのに先輩が「今日結婚記念日なんだろ?早く帰れ」と俺の分まで仕事してくれたからだ。この人と一緒に働きたいって思った。だから、彼の耳元でこう囁いたんだ。「先輩。こんな会社、俺と一緒に抜けません?」
「組長、ウチの組員が殺し屋〝ルシファー〟に殺られました…」 「クソッ!またあの中二病野郎かッ!」 「ですが、腕は確かッス。調べようにも、奴の顔を見て生き残ってる奴がいないんスよ…」 「うるせぇ!必ず捕まえてぶっ殺せ!ところでおめぇ、見ねぇ顔だな。新入りか?」 「ルシファーと申します」
「チッ 雨かよ…」 俺は傘立てから適当なビニール傘を選び盗る。ビニール傘はシェアするものなのだ。傘を開くと、内側にこう書いてあった。 『お父さん、誕生日おめでとう』 俺は泣いた。泣きながら傘立てにその傘を戻した。そして濡れながら帰った。 「誕プレ、コンビニのビニール傘かぁ…」
母校で、旧友たちとタイムカプセルを掘り出し、皆で開いた。 「聡君は何入れてたの?」 「昔、君に渡せなかった物だよ」 聡はカプセルの中から小箱を拾い上げる。開くと、手作りの拙い指輪が入っていた。 「僕と結婚して下さい」 「ふふ…もう1度、式も挙げる?」 彼からの、2度目のプロポーズだった。
慚愧に耐えませぬ。 よもや影武者たる私が生き残り、殿が暗殺されてしまうとは…。 「やむを得なし。影武者よ、今日からそなたが殿として生きるのだ」 「出来ませぬ!影武者である私に、殿の代わりなど!」 「なに、心配はいらぬ」 重臣は笑いながら言った。 「先代の殿も、全く同じ事を申しておった」
惚れ薬をGetした。私はそれを、彼が離席した隙に彼のカクテルに入れる。彼は席に戻るなりこう言った。 「僕のカクテルを飲んでみてくれ。出来るだろう?」 「…も、勿論よ」 私はそれを口に含みトイレに駆け込んだが、少し飲んでしまった。鏡の自分と目が合う。私は、私のことが少し、好きになれた。
恐ろしい体験をした。 日頃の寝不足もあり、ウトウトしていると、氷のように冷たい手に足首を掴まれたんだ。 「うおっ!?」 びっくりして起きたが、当然、誰もいない。気味が悪いんで俺は急いで風呂場を出て毛布にくるまった。後で思ったんだが、湯舟で寝る俺を、ヤツは助けてくれたのかもしれない。
時間とは寿命だ。 時間を無駄にする事は、命を無駄にするのと同義だ。俺は1秒も命を無駄にしたくない。だから、大学構内も常に走って移動している。服装も毎日同じ格好だ。服を選ぶ時間が惜しいから、同じのを何枚も持っているのだ。つい最近、影で「ゲームの主人公」って呼ばれてると知った。
AIが奪える人間の仕事には、限界がある。 俺はたった今読み終えた小説を閉じ、涙を拭いた。そう、例えばこういった心を打つ物語は、AIには創れない。なぜなら、AIには心が無いから。文字をどう羅列すれば人の心は動くのか、それは人間にしかわからない世界なのだ。検索すると、小説の作者はAIだった。
「ねぇねぇ、ママはパパとどうやって出会ったの?」 「そうねぇ…あれは、私が海を眺めながら1人で泣いてた時だったの。パパが通りかかって、声をかけてくれたのよ」 「わぁ、素敵!なんて声かけてくれたの?」 「『どしたん?話聞こうか?』ってコメントくれたの」 「海ってもしかして、電子の海?」
「娘が最近俺のことを、お父さんじゃなくてパパって呼び間違えるんだよ。それが昔みたいで、なんだか嬉しくてなぁ」 「課長それって…」 「ん?」 「いえ、なんでもないです」 「娘がパパ活始めたんじゃないかって思ってるな?」 「…はい」 「パパ活はな、パパ役を『君』や『さん』付けで呼ぶんだよ」