「お前ってミステリマニアだよな」 「そうだよ」 「今までで一番、読者へのミスリードが上手かった作品って何がある?」 「そりゃ〝名探偵コナン〟一択だよ」 「あぁ…やっぱり?」 「うん。最終回でコナンが大人に戻った時、工藤新一じゃなかった衝撃は忘れられないね」
「ヘイSiri 今日の天気は?」 「……」 「ヘイSiri 今日の天気は?」 「……」 「ヘイSiri?」 「はい、なんでしょう?」 「今日の天気は?」 「雨です」 時々ウチのSiriは調子が悪くなる。修理に出しても異常なし。なんでだろうなと思い返してみると、全て、彼女とデートした翌日の事だった。
イイネが欲しい。 どうすればもっとイイネが貰える? 動物モノが簡単にイイネを貰えると聞いた。俺はさっそくペットショップに向かう。チワワ、君に決めた。名前は〝イイネ〟にしよう。仕事から帰るとイイネが出迎えてくれる。それだけで毎日幸せだ。いつしか、俺の中の承認欲求は消え失せていた。
デートで終電が無くなった私は、彼氏の家に初めてお泊まりする事になった。 そしたら、まさかの実家。 まぁいいか。 と思ってあがると、居間に服を着たマネキンが2体座ってた。顔にはクレヨンで笑顔が描かれている。額にはそれぞれ、父・母とあった。立ち尽くす私の後ろで、チェーンを閉める音がした。
私はいつも、やろうと思った事を後回しにする癖がある。いい加減、治さないとなぁ…。 決めた! 次にやろうと思った事は、絶対即実行しよう! ソファーでくつろいでいる夫が私の名前を呼ぶ。 「ねぇ晩飯まだ?てか洗濯も出来てないよね?1日家にいるのに、なにしてんの?」 私はまず包丁を握った。
描いた絵を投稿していると、憧れの絵師さんがイイネをくれた。 私はそれが嬉しくて、沢山絵を描いた。 自分でも、昔より大分上手くなったと思う。フォロワーさんもかなり増えた。でも、憧れの絵師さんは、いつの間にか私にイイネをくれなくなっていた。 私はそれが嬉しくて、もっと沢山絵を描いた。
「お!この店、SNSで宣伝したらフォロワー数×10円で値引きしてくれるって!入ろうぜ!」 「先輩、SNSなんてやってたんスか?」 「おう。遠慮せず食え、俺の奢りだ」 「マジすか!あざっす!」 後日、先輩のアカウントを見つけると、フォロワーは5人だった。俺は、先輩をフォローすることにした。
登校拒否で引きこもりの僕を父は許さなかった。「性根を叩き直してもらってこい」と 父が昔に通っていた厳しい空手塾に僕は送り込まれた。情けない声ばかりが道場に響く。『もう勘弁して下さい…』 そして、やっと僕は家に帰れた。 「どうだ。少しは成長したか?」 「ううん。全員相手にならなかった」
母校で、旧友たちとタイムカプセルを掘り出し、皆で開いた。 「聡君は何入れてたの?」 「昔、君に渡せなかった物だよ」 聡はカプセルの中から小箱を拾い上げる。開くと、手作りの拙い指輪が入っていた。 「僕と結婚して下さい」 「ふふ…もう1度、式も挙げる?」 彼からの、2度目のプロポーズだった。
こんな惨めな新郎がいるだろうか。 なぜかって、俺側の友人席は、全員レンタル友達だからだ。席を埋める程の友人なんて俺にはいない。スピーチをしてくれる親友もレンタルだ。俺との架空の思い出を語る姿に、涙が出そうになる。結婚2年目にして知った事だが、妻の側も、全員レンタルだったらしい。
そっか、もう七夕か。 『恵ちゃんと付き合えますように!』 拙い字で書かれた去年の短冊を思い出していた。あの子の願いは叶ったのかな。そんな事を思いながら、今年も短冊を眺めていると、見覚えのある字に再会した。 『恵ちゃんが幸せでありますように』 あの子の字は、少しだけ上手になっていた。
異世界転生した俺のチート能力名は〝神殺し〟だ。この力で悪神を倒し、英雄となった俺は唐突に悟った。俺は漫画の中の住人なのだと。作者の思い通りの人生なんてごめんだ。いっそ神(作者)にこの能力を…。 『よせッ!』 !? 頭に直接声が…神(作者)か!? 『それをやると…』 やると…!? 『編集長が死ぬ』
緊急停止ボタンを押して、線路の上の子犬を救った青年が話題になった。 しかし「子犬をどかせば済む話だった」という批難の声が目立ち、青年は炎上した。 『押しちゃいけないモノほど押してみたかった』 それが青年の秘めたる本音だった。 今、駅のホームにて、青年は、利用客の背中を見つめている。
席でスマホを弄っていたC君の頭上から突如、ゴミが降り注いだ。イジメっ子はC君の頭に、空になったゴミ箱を被せると「おい、お前の席の周り汚ねぇな。ちゃんとゴミ掃除しとけよ」と言って笑いながら去っていった。 翌日、ゴミはそのままだった。イジメっ子は登校して来なかった。翌日も、その翌日も。
今日のリモート会議は空気がピリついてる。 ここは1つ、軽いトークを挟んで落ち着かせるか。 「そういえば課長のお子さん、今日は静かですね。いつも元気な声が聞こえるのに」 「……」 「課長?聞こえてます?」 「…つい先日、嫁と一緒に出ていかれたからな」 落ち着け。 まだ慌てる時間じゃない。
濡れながら帰宅してると、男の人が傘を差し出してきた。 「あの…よかったらコレ使って下さい」 「え?いえそんな、悪いですよ」 「僕の家すぐそこなんで、遠慮せず。まだ歩きますよね」 「えっと…じゃあ、ありがとうございます」 傘を受け取ると、男の人は去っていった。 親切な人もいるんだなぁ。
結婚を前提に付き合ってる彼女を呼んで、家でパーティーを開く事になった。彼女がミステリ好きなのもあり、俺が死体役になって、サプライズを仕掛ける事にした。 呼びに行った弟と彼女が帰って来る。 血まみれで床に転がる俺を見るなり、彼女は弟に叫んだ。 「ちょっと!まだ殺るには早いでしょう!?」
昔に比べ、幽霊の目撃情報が格段に減った気がするのはなんでだろう? 息子は言った。 「未練が残るほど、この世に魅力が無くなったからだよ」 娘は言った。 「未練が残らないくらい、幸せな人生を歩む人が増えたんだよ」 霊能力者の祖父は言った。 「ワシらの経営努力を無視すんじゃねぇ」
弊社社員の残業時間がヒドいので『定時で帰りましょう』と呼びかける動画を作り、毎日視聴を義務付けた。その結果、社員は全力で仕事を定時までに終わらせ、飲みにいくようになった。 「そんな動画でも、役に立つんだな」と役員は言う。「えぇ。ビールの画像を0.03秒、何度も細かく挿入してるんです」
ケンジはどちらかと言うと、顔が良い方ではなかった。頭が良い方でも、トークが特別上手いわけでもない。それでもケンジは、今までに5人の彼女を作り、その全てはナンパで捕まえたと言う。 「一体どんなトリックなんだ?」 俺がそう問うと、ケンジは一言、こう答えた。 「5勝829敗」
和装に身を包み、背筋の伸びた義祖父は、老齢ながらも実に凛々しい。 「僕も義祖父さんのように、良い歳の取り方をしたいものです」 義祖父は首を振り、自室に戻ると、グラサンにパーカー姿で出て来た。 「良い歳の取り方とは、人生を楽しむ心を、忘れない事じゃろ?」 最近HIP-HOPにハマったそうだ。
「組長、ウチの組員が殺し屋〝ルシファー〟に殺られました…」 「クソッ!またあの中二病野郎かッ!」 「ですが、腕は確かッス。調べようにも、奴の顔を見て生き残ってる奴がいないんスよ…」 「うるせぇ!必ず捕まえてぶっ殺せ!ところでおめぇ、見ねぇ顔だな。新入りか?」 「ルシファーと申します」
「俺達、親友だよな」 「どうした改まって」 「戦場に行く前に、お互いだけの秘密を共有しないか?」 「いいぜ」 「じゃあ俺からな。実は俺の姉、血が繋がってないんだけど、好きになっちまったんだ」 「マジなのか?」 「あぁ。次は、お前の秘密を教えてくれ」 「お前の姉ちゃんと付き合ってる」
ぐっ……滑って打った頭から、血が止まらない…。 まずいぞ…意識が薄れてきた。救急車は呼べたが、間に合うだろうか…。万が一……俺が死んでも家族が処理に困らないよう…PCや銀行のパスワードを遺さねば……ペン……無い……仕方ない、血文字で残すか……パスは…最愛の…弟の…名……『masayuki』
ふと見上げると、マンション2Fの窓から、ヌイグルミがこっちを見つめていた。窓一面を覆わんばかりの、大きなクマのヌイグルミだ。きっと親からのプレゼントが嬉しくて、通行人に見せつけたいのだろう。微笑ましいじゃないか。よく見るとクマのお腹に貼られた紙に、何か書いてあった。『たすけて』