妻と録画番組を見てると、画面の中で仮面の催眠術師が芸人を眠らせた。 「今のシーン 巻き戻せるか?」 目を凝らすと、恐ろしく速い手刀が、芸人の首筋をとらえているのが見えた。つまり、インチキだ。 「俺でなきゃ見逃しちゃうね」 突如 首筋に衝撃が走り、意識が遠のいた。 「勘の良い夫は嫌いよ」
慚愧に耐えませぬ。 よもや影武者たる私が生き残り、殿が暗殺されてしまうとは…。 「やむを得なし。影武者よ、今日からそなたが殿として生きるのだ」 「出来ませぬ!影武者である私に、殿の代わりなど!」 「なに、心配はいらぬ」 重臣は笑いながら言った。 「先代の殿も、全く同じ事を申しておった」
「僕と結婚して下さい」 「嬉しい…夢みたい…」 「頬っぺたでも抓ってみるかい?」 抓ってみると、目が覚めた。 え、本当に夢? 嘘でしょ…? 抓らなければよかった…。 「起きて~!朝ご飯できたぞ~」 リビングから、夫の声がする。 もう少しあの時の幸せに浸っていたかったけど、まぁ、いいか。
「PS5欲しいんだよなぁ」 友人のその一言が嬉しかったんだ。最近じゃ、身近な友人はゲームなんてやらなくなって、語り合える相手は俺の周りにすっかりいなくなっていたからだ。 「あー、まだ入手困難だね…。でも大丈夫!再入荷の情報入ったらすぐに知らせるよ♪」 「マジ?悪いな…息子が喜ぶよ」
家にいると痣が増えるから、私は近くの図書館に毎日足を運んでノートに小説を書いて過ごした。気分転換に好きな本を選ぶ。図書館に育てられた私は、いつかそこに自分の本を並べるのが夢だった。 そして、夢は叶った 意外と涙は出なかった でも、お世話になった司書さんが泣いてくれた時、涙が溢れた
「…ねぇ」 「ん?」 「洗濯物、靴下は裏返すなって言ったよね?」 「はぁ…いいだろそんくらい」 「そういう問題じゃなくて。思いやりとか無いの?」 「っせぇなぁ…仕事で疲れてるんだよこっちは」 「はぁ?私もアンタのお守りに疲れたんですけど?」 最近の園児のおままごとは、リアル過ぎて怖い。
天国にも酒場ってあるんだな。 フラリと立ち寄ってみると、常連っぽい中年が声をかけてきた。 「見ない顔だな。天国へようこそ」 「ども」 「生前は何やってたんだ?」 「しょぼいコソ泥さ」 「おいおい、それでよく天国に来れたな」 「駅に置いてあった鞄を盗んだんだが、中身が爆弾だったんだ」
「おい囚人番号823番」 「なんだよ981番」 「お前、釈放目前だったのにまた問題起こして刑期が伸びたらしいな」 「あぁ」 「なぜ我慢しなかった」 「脱獄用の穴を完成させるためさ」 「バカか…本末転倒だろ」 823番はこう続けた。 「この監獄を出る時は、お前と一緒じゃねぇとな」 やはり、バカだ。
「リア充爆発しろってよく聞くけど、この期に及んでなんで他力本願なんだろうな」 「そりゃ爆破するって言ったら捕まるからな。本物はただ、黙々と実行するのみだよ」 友人が懐からスイッチを取り出して押すと、遠くで大きな爆発音がした。 「……今のは?」 「福音さ」 「……」 「Xmasの夜に、乾杯」
本日夕方頃 XX駅のホームにて、中年男性が女子高生に暴行を加えたところを、周りの乗客に取り押さえられました。中年男性は駅員に連行され、暴行の理由について以下の通り供述しました。 「ついカッとなってしまった。今では反省している。彼女が2度と、自殺未遂なんて馬鹿な真似をしない事を祈る」
お爺さんはある日 罠にかかっている鶴を助けた。別の夜 お爺さんの家に白い着物姿の若い娘がやって来た。娘は裾をまくって足を見せると、そこには酷い傷跡があった。娘は氷のような目で問う。 「あの罠を仕掛けたのは誰か、ご存知ですか?」 爺さんは滝汗をかき、答えた。 「ワ、ワシじゃないぞ…?」
「失礼、警察です。貴女の恋人に殺人容疑がかかっておりまして…」 「え?」 「逃走中の彼について、お話しを聞かせていただきたく…」 ショックで茫然とする私を見かねて、刑事達は質問もそこそこに帰っていった。 彼が…殺人鬼だったなんて……探されちゃう…彼をもっと遠くに…埋め直さないと……。
ダメだダメだ…! 書けたはいいが、読み返す度につまらなく感じる。俺は尊敬する大作家さんに助言を求める事にした。 『どうしたら納得のいく作品を書けるのでしょうか?』 『簡単だ。私の言う通りにしてみなさい』 俺はコンビニに走り、ウォッカを買って一気に飲んだ。俺の作品が、傑作に化けた。
最近の世の中は、映画も音楽も服も、果てはExcelまでなんでもサブスクだなぁ。俺はサブスクが苦手だ。課金をやめたら手元に何も残らないって点が、なんだか虚しいからだ。 なけなしの金で買ったパンを見つめ、気付いてしまった。 「あぁ…そもそも、命がサブスクだった」 貯金はもう、残り少なかった。
「俺、彼女出来た」 「マジ!?」 昔ついた嘘を嘘と言えず、架空の彼女との関係は順調だと親友に3年間、報告し続けた。そして、遂に結婚する所まで来た。もはや嘘も限界だ。 「ごめん…彼女なんて実はいないんだ」 「…架空は、彼女だけか?」 「え?」 顔を上げると、親友の姿は何処にも無かった。
「課長…。12/25の休日出勤は、どうか勘弁してくれませんか」 「今、プロジェクトがどんな状況かわかってるだろ?皆、家族や恋人と過ごしたいのを我慢して出社するんだぞ」 「…娘に、サンタさんから欲しいものを聞いたら『パパとの時間』と言われたんです」 「…プレゼントだ。25日は来なくていい」
2/14の朝 登校すると、親友は裸足だった。 「…お前もしかして、イジメられてんの?」 親友は首を横に振る。 「じゃあ上履きは?」 「下駄箱、見てないんだ」 「なんで?」 「俺が確認しない限り、チョコが在るのと無いの、2つの可能性が共存するだろう?」 なるほど。 確認したら、チョコは無かった。
「呪いの市松人形はありませんか?」 俺はあらゆる手段を駆使して日本中から呪いの市松人形を集めた。そして噂通り、人形達の髪は日に日に伸びていった。 俺は歓喜した。 人形達から髪を根こそぎ収穫し、それを持って病院に駆け込んだ。 「先生、お願いします。この髪を俺の頭皮に移植してください」
シゲルは、ゲームのボス戦で負けそうになると、すぐリセットする困った奴だった。 そんなシゲルが受験に落ちたらしい。家に行くと、シゲルは意外と元気そうだった。でも、机の上の新品のカッターが気になった俺は、それを盗んだ。 大人になって、同窓会で彼にこう言われた 「あの時は、ありがとう」
「僕、人の未来が見えるんです。貴女の家に盗聴器を仕掛けました」 通りすがりの男は突然私にそう告げると、足早に去っていった。余りに気持ち悪いので、家に警察を呼んで調べて貰った。今日デートだったのに…。 翌日、XX駅で刃物を持った男が暴れたとニュースにあった。私が向かっていた駅だった。
深夜、コンビニのレジで、店員さんが「今日も夜遅くまでご苦労様です、サービスです!」と言って、缶珈琲をくれた。彼女のその気遣いで、俺の心がどれだけ救われたのか、彼女は知る由も無いだろう。 お釣りを貰う時、彼女の左薬指に、指輪が見えた。 貰った缶珈琲は微糖だが、少し、苦かった。
「お前、まだあんな陰キャとつるんでんの?悪い事言わねぇからあんなのと縁切れって。スクールカースト底辺に落ちてねぇの?最近のお前が死んだ魚の目してんのも、ぶっちゃけアイツのせいだろ(笑」 ついに我慢の限界を迎えた俺は、この男を殴った。 「友の侮辱は構わないが、俺を侮辱するのは許さん」
「さぁ、貴様の願いを言え」 「魔人よ、俺を不老不死にしてくれ」 「断る」 「出来ないのか?」 「出来る。しかし、やめておけ」 「なぜだ?」 「その願いの行き着く先は、終わりなき絶望と後悔だからだ」 「なぜわかる?」 「同じ願いを叶えたからだ。かつて、私が人間だったころに」
お婆ちゃんが亡くなってから、家の市松人形の髪が伸び始めた。 しかも、一晩経つと勝手に移動している。何度直しても、翌日にはお婆ちゃんの仏壇の傍に移動してる。きっと、髪の毛は伸び始めたんじゃなくて、お婆ちゃんがこっそり切ってあげてたんだ。 今では、私が髪の毛を切ってあげている。
「兎と亀の話は妙だよママ」 「どうして?」 「そもそも亀はなぜ不利な勝負を仕掛けたんだろ?兎が寝たのも亀に都合が良すぎる。亀が仕組んでたんじゃ…」 「そうね。でもママはこう思うの」 「?」 「亀は万年だから…きっと、兎が生きてる内に遊びたかっただけなのよ。大事なのは、勝敗じゃないの」