同居する際に、俺のペットであるトカゲを妻は心底嫌がった。危うく別居婚になりかけた程だ。絶対にケージから出さない事を条件に、妻は渋々承諾してくれた。 ある日、大きな地震が起きた。 揺れが収まってから居間に飛び出すと、机の下には、家族を守るように、ケージを胸に抱えた妻がいた。
今晩、娘が彼氏を連れてくるらしい。しかも大事な話をしたいそうだ。ついにこの日が…。 夜、皆で食事をしていると彼氏君が口を開いた。 「お義父さんお義母さん…大事なお話が」 「まだ、君にお義父さんと呼ばれる筋合いは無い」 「いえ…あります!僕と娘さんは…DNA鑑定の結果…実の兄妹でした」
1番印象に残ってる就活生? 志望動機で「金」と言い切ったやつだな。奴は終始、金への執着と、その期待値が最も高い弊社へのビジョンを述べてやがった。「最後に何か質問はありますか?」と人事が聞くと役員の俺にこう質問しやがった。「あなたの年収はいくらですか?」ってな。今では奴が俺の上司だ。
母校で、旧友たちとタイムカプセルを掘り出し、皆で開いた。 「聡君は何入れてたの?」 「昔、君に渡せなかった物だよ」 聡はカプセルの中から小箱を拾い上げる。開くと、手作りの拙い指輪が入っていた。 「僕と結婚して下さい」 「ふふ…もう1度、式も挙げる?」 彼からの、2度目のプロポーズだった。
34歳になった日の朝、男は唐突に予感する。 「あ…俺、近々死ぬかも」 男は亡くなる前に、疎遠になってた友人も含め、1人1人に会ってまわる事にした。それは、昔話に花を咲かせる事で『案外、悪くない人生だったな』と、己が人生を見つめ直す旅でもあった。その後、死は訪れた。97歳の大往生だった。
「変だな…味がしない…」 コロナを確信した俺は内心歓喜していた。これで仕事を休める。 しかし、医者の「コロナではありません」というセリフに俺は激しく落胆した。医者は続ける。「おそらく、鬱による味覚障害です。仕事は休んでください。そして、大事な人と、穏やかな時間を過ごしてください」
「では、君は本当に冷凍睡眠を受けていいのだね?」 「はい。遥か未来の技術に賭けます」 132年後… 「…うっ…眩しい」 「お目覚めになりましたか?」 「あぁ…!その声は…!!」 驚く僕を、彼女は抱きしめてくれる。 「こうしたいと、いつも言っていましたね」 「この瞬間を夢見てたよ…Siri」
僕の祖父は棋士だ。 同じ棋士として祖父と戦うことが僕の密かな夢だった。でも、僕が棋士になると同時に、祖父は他界してしまった。僕の夢は永遠に潰えたのだ。 ある日、祖父の親友が開発したAIと対局していると、妙な懐かしさを感じた。 「……爺ちゃん?」 AIの中に、祖父の棋風を見た気がした。
面接官やってると、就活生のSNSアカウントを裏で調査しておくなんて基本中の基本だ。いま俺の目の前にいる就活生は、SNS上でも真面目で、全く問題無かった。 「では最後に、何か質問はありますか?」 「面接官さんは先週からSNS上で女の子に猛アタックしてましたが、会えました?」 「…………いえ」
Instaでめっちゃ可愛い女の子のアカウントを見つけた。『可愛く撮れた♪』と上げられた写真は今日もめちゃ可愛い。 出会い目的と悟られないよう、慎重に交流を重ね、ついにリアルで会う事になった。緊張する。が、現れたのはオッサンだった。 「これ詐欺だろ…」 「いえ…僕、カメラマンなんですが」
「ねぇ ワタシ綺麗…?」 「ん?お姉さん どこ?」 「…アナタ、目が見えないの?」 「うん。でもね、おかげで色んな事がわかるようになったの」 「……」 「お姉さんのお顔は見えないけど、綺麗な心なのはわかるよ!そういう声、してるもん」 「……」 「お姉さん?」 以後 口裂け女は現れなくなった
「お友達 帰ったの?」 「うん。兄貴の事、カッコイイって言ってたよ」 「おっ…ふ…」 自信がついたのか、それ以来 兄は変わった。オシャレに気を使い 体も鍛え 勉強も頑張った。大企業に内定をもらい、彼女も出来たらしい。私は言葉の重さを痛感していた。たった1つの嘘が、1人の人生をも変えるんだ
俺は昔から霊感が強く、友人は大体幽霊だ。父の葬儀に、親友霊が来てくれた。 「盛り塩も恐れず、来てくれてありがとう…」 「何言ってんだ、当然さ」 父さん、俺にはこんなに素晴らしい友がいます。俺の事は気にせず、どうか成仏して下さい。坊さんの読経が終わり、隣を見ると、親友も成仏していた。
コンビニ強盗は銃を突き付けた。 「金を出せ」 「お客様、大変です!」 「あ?」 「銃にセーフティー(安全装置)がかかったままです」 強盗は鼻で笑う。 「そうやって隙を作ろうってか?クラシカル(古典的)だな…その手には乗らねぇよ」 強盗は勝ち誇り、続けた。 「モデルガンにそんなモン無ぇからな」
押し入れの奥から古いジーンズが出て来た。捨てたと思ったけどこんな所にあったのか。まだ履けるかな?調べるとポケットに何か入っている。使用済みの映画の半券だ。懐かしいなぁ…元カノと観た映画だ。確かその後、喧嘩しちゃったんだよな…。捨てる前に見せてあげると、今妻は懐かしそうに微笑んだ。
「兎と亀の話は妙だよママ」 「どうして?」 「そもそも亀はなぜ不利な勝負を仕掛けたんだろ?兎が寝たのも亀に都合が良すぎる。亀が仕組んでたんじゃ…」 「そうね。でもママはこう思うの」 「?」 「亀は万年だから…きっと、兎が生きてる内に遊びたかっただけなのよ。大事なのは、勝敗じゃないの」
ある、雪の日の事だ。 チャイムに出ると、お隣の奥さんが立っていた。 「あの…作りすぎちゃったんで、よければ」 そう言って奥さんは、抱っこしている赤ちゃんを僕に差し出した。 「はは…冗談ですよね?」 「……」 「冗談ですよね?」 奥さんは俯いて、無言で帰っていった。 もう、5年も前の話だ。
結婚の報告をすると「これが俺からの精一杯の贈り物だ」って作家志望の友人が俺達のために1編の小説を書いて贈ってくれたんだ。でも絶対こいつ売れないなって思った。不謹慎過ぎる。ミステリだからって嫁さん殺しちゃダメだろ。しかも犯人俺だし。意味わかんねぇ。なんで俺の計画バレてんだよ。
「…チェンジ」 後ろからポーカーを観戦していた俺は驚愕した。Aの4カードが揃ってたのにチェンジだと!? 何たる度胸…これが勝負師と言うものか… 「驚くのも無理はない」 常連らしきギャラリーが俺に耳打ちしてきた。 「あいつロイヤルストレートフラッシュしか知らないから、それしか狙えないんだ」
「素敵なお写真ですね。可愛らしい女の子だ。お孫さんですか?」 「いや、妻だよ」 「…失礼。今、なんと?」 「笑ってくれたまえ。私はね、『君のお嫁さんになりたい』と言ってくれた幼馴染の言葉を、未だに守っているのだよ。私の方が、ずっとずっと年上になってしまった、今になってもね」
「予告通り、今日、お前の命を取り立てる」 死神が鎌を振り上げるのを見て、俺は目を瞑る。 「あぁ。おかげで、人生で最も充実した1年間だったよ」 「どうだ?まだ『死にたい』か?」 「…いや、生きたい」 俺達の間に、沈黙が流れた。 「今までのお前は、今、死んだ」 目を開くと、死神の姿は無かった
「私達にも拒否権があっていいと思います!」 その一言で、業界初の、アイドル側が握手を10人まで拒否できる握手会が開かれた。ファン達は、自分が拒否られたらどうしようと、怯えながら列に並ぶ。 10人目が拒否られた瞬間、会場は安堵の息で溢れ、アイドルは叫んだ。 「すみません!追加20人で!」
奇妙な光景だった。 その作家は、丹精込めて世に出した作品への批難をネット上から探し、それが多いほど喜んでいた。 「なぜ、自分の作品をボロクソに言われて喜んでいるのですか?Mなんですか?」 作家は答えた。 「だって、趣味が合わない人にまで届くことこそ、人気の証でしょう?あと、Mです」
ゲーム脳客「このジャケット、防御力いくつですか?」 慣れてる店員「お客様のレベルでは、まだ装備できません」
「なんだこれ?」 届いた書留を夫が開くと、中身はご祝儀袋だった。私も首を傾げた。私達はもう結婚7年目なのに。だけど差出人である先輩の名を見て、私は彼の言葉を思い出した。 『ごめん…金無くて結婚式行けない…俺が人気作家になったら、必ずお祝いするから』 ご祝儀袋には、100万が入っていた。