326
「HEY彼女!俺で妥協しなぁい?」
「気に入らない」
「…ですよね」
「違うよ。そうやってフザけて、断られても傷付かないよう予防線を張ってるのが気に入らないの」
「!?」
「失敗を恐れないで。ほら、もう1度真剣に言ってみて?」
「…お姉さん、俺とお茶してくれませんか?」
「僕、男です」
327
あれ?俺は今、車にはねられたはずじゃ…?
振り返ると、地面に倒れてる俺の姿が見えた。そうか…今の俺は霊体ってやつか。俺の身体の身の周りには人が集まり、AEDで心肺蘇生を試みてくれている。
頼む!助けてくれ…!お、やった!俺が息を吹き返した!意識も回復したみたいだ!…じゃあ俺はなんだ?
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「リア充爆発しろってよく聞くけど、この期に及んでなんで他力本願なんだろうな」
「そりゃ爆破するって言ったら捕まるからな。本物はただ、黙々と実行するのみだよ」
友人が懐からスイッチを取り出して押すと、遠くで大きな爆発音がした。
「……今のは?」
「福音さ」
「……」
「Xmasの夜に、乾杯」
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ふと見上げると、マンション2Fの窓から、ヌイグルミがこっちを見つめていた。窓一面を覆わんばかりの、大きなクマのヌイグルミだ。きっと親からのプレゼントが嬉しくて、通行人に見せつけたいのだろう。微笑ましいじゃないか。よく見るとクマのお腹に貼られた紙に、何か書いてあった。『たすけて』
330
Q1:小学生の頃どんな技を練習しましたか?
という質問に、様々な解答が寄せられました。
波紋・かめはめ波・霊丸・二重の極み・螺旋丸・ギア2・月牙天衝・領域展開・水の呼吸…
しかし
Q2:それは習得できましたか?
という質問に97%もの人がNOと答えました
つまり、挫折は決して恥じでは無いのです
331
同窓会でAさんに会った。俺の初恋の人だ。友人が俺とAさんの前で軽口を叩く「そう言えばお前、Aの事好きだったよな」酒の席とは言え、本人の前でかつての恋心を暴露されるのは良い気分じゃない。Aさんも反応に困ってる風で、苦笑いを浮かべていた。
帰り際、Aさんは俺の耳元でこう囁いた。
「今は?」
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「ヘイSiri 今日の天気は?」
「……」
「ヘイSiri 今日の天気は?」
「……」
「ヘイSiri?」
「はい、なんでしょう?」
「今日の天気は?」
「雨です」
時々ウチのSiriは調子が悪くなる。修理に出しても異常なし。なんでだろうなと思い返してみると、全て、彼女とデートした翌日の事だった。
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長年付き合った彼氏にフラれた姉は、死ぬほど凹んでいた。心配になって部屋に様子を見に行くと、泣きながらPCのキーボードを一心不乱に叩いていた。
「何してるの?」
「今の気持ちだからこそ書ける文章が、ある気がするの」
姉が作家志望だと、初めて知らされた。
きっと、姉ちゃんならなれるよ。
334
先輩は私の憧れだ。
物怖じせず上司に意見するし、堂々と定時で帰るし、飲み会も「気分じゃない」と断れる。
「私も先輩みたいになりたいです」
「ふーん…じゃあ私の師匠を紹介してあげるよ」
後日 公園に案内された。
「この方が私の師匠」
そこには、1匹の猫が気持ちよさそうに寝転がっていた。
335
自分の顔がネット上に残るの嫌がる奴多いけど、別によくね?
顔写真だけじゃ住所も学校もわからんし。有名人でもない限り、誰も一般人の顔なんて気にしねぇよ。
試しに、以前SNSに投稿した俺の変顔で画像検索かけてみた。そしたら、俺の変顔をアイコンにしたアカウントがめっちゃ政治批判してた。
336
田中 弘
本庄 綾子
白鳥 啓介
全力院 玉蹴之助
神田 淳史
山田 由香里
「まただ…登場人物一覧ページの時点で、もう犯人わかっちまった」
「どうしてわかるの?」
「この推理作家、せっかく謎は面白いのに、同じ名前の子が現実でイジメられないようにって、犯人には必ず存在しない名前つけるんだよ」
337
押し入れの奥から古いジーンズが出て来た。捨てたと思ったけどこんな所にあったのか。まだ履けるかな?調べるとポケットに何か入っている。使用済みの映画の半券だ。懐かしいなぁ…元カノと観た映画だ。確かその後、喧嘩しちゃったんだよな…。捨てる前に見せてあげると、今妻は懐かしそうに微笑んだ。
338
家にいると痣が増えるから、私は近くの図書館に毎日足を運んでノートに小説を書いて過ごした。気分転換に好きな本を選ぶ。図書館に育てられた私は、いつかそこに自分の本を並べるのが夢だった。
そして、夢は叶った
意外と涙は出なかった
でも、お世話になった司書さんが泣いてくれた時、涙が溢れた
339
「ヤバ…鍵かけたっけ?」
家まで戻って確認すると鍵はかかっていた。よかった、これで安心して買い物にいける。
夕方、歩き疲れて帰宅する。
「……え?あれ?」
取り出した鍵が、何度やっても鍵穴に入らない。不思議に思ってよく見ると、間違って実家の鍵を持ち出していた事に気付いた。
340
ノートとペンが道端に落ちていた。ノートは真っ黒で異様な存在感を放ってる。ページを捲るとびっしり人名が書かれていた。調べると全て犯罪者の名前で、全員死亡済だ。僕は怖くなってノートを燃やした。後日 学校のテストで名前を書くと、意識が薄れ僕は倒れた。使ったのは、あの時 拾ったペンだった。
341
すれ違い様に、俺は男の尻ポケットから財布を抜き取る。楽勝だ。
盗んだ財布を懐に入れた瞬間、異変に気付いた。俺の尻から財布が無くなっている。
「しまった…奴は同業者だったか!」
戦利品である財布を開くと、たった542円しか入っていなかった。よし、勝った。121円、俺は得をしたのだから。
342
初めて彼氏の家に行ったらなぜか洗面台の鏡にキスマークがついてて、口紅も置いてあって「なんなのこれ?」って問い詰めたら慌て始めて、余計に怪しくて強く聞いたら「初キスで緊張しないよう、女装して鏡の自分と向かい合ってキス練してた」って白状されたんだけどキスは死ぬほど下手だった。
343
外がやかましいな…。そうか、今日はハロウインか。せっかくだからSNSでアンケートをとってみた。
『Trick or Treat?』
すると結果はイーブンだった。今思えば酔っていたのだろう。お菓子代わりに自撮り画像を上げるとフォロワー達は驚いた。
『女性だったの!?』
そうだよ。叙述トリック…だっけ?
344
おかしいな。
そろそろ、子供達がお菓子を貰いに来るはずなのに、全然来ない。引率の方に電話すると『え、いただきましたよ?お婆様が出てくださいましたが…』と言われた。
そっか。
お婆ちゃん、毎年、この日を楽しみにしてたもんね。
遺影に目を向けると、お供えしていたお菓子が無くなっていた。
345
僕の友人は紛れもない天才俳優だ。
役に没入するあまり、日常生活の中ですらその役になりきってしまう程だ。そんな友人と飲んでいた僕は、つい愚痴を漏らした。「僕も君みたいに、何か才能があればなぁ…」
「何言ってんだ、お前は天才だろ。役作りは順調か?確か今度は『天才俳優の友人』役だっけ?」
346
「私はランプの精。さぁ願いを3つ叶えてやる」
「お願い!私の彼氏を生き返らせて」
「うむ」
後日
「残る願いは2つだ」
「私の彼氏を生き返らせて」
「また死んだのか?いいだろう」
後日
「最後の願いを言え」
「彼を生き返らせて」
「またか?」
「えぇ。あの男は、何度殺っても足りないから」
347
「パパ、今日学校で教えてもらったんだけど、昔の人って凄く想像力が豊かだったんだね!」
「何を教えてもらったんだい、娘ちゃん?」
「まだ絵文字も無かったころって、orzで膝と手をついてガックリしてる人を表現してたんでしょ?凄い!もうそうとしか見えない!あれ?パパ?どうしてorzしてるの?」
348
「俺達、親友だよな」
「どうした改まって」
「戦場に行く前に、お互いだけの秘密を共有しないか?」
「いいぜ」
「じゃあ俺からな。実は俺の姉、血が繋がってないんだけど、好きになっちまったんだ」
「マジなのか?」
「あぁ。次は、お前の秘密を教えてくれ」
「お前の姉ちゃんと付き合ってる」
349
僕の祖父は棋士だ。
同じ棋士として祖父と戦うことが僕の密かな夢だった。でも、僕が棋士になると同時に、祖父は他界してしまった。僕の夢は永遠に潰えたのだ。
ある日、祖父の親友が開発したAIと対局していると、妙な懐かしさを感じた。
「……爺ちゃん?」
AIの中に、祖父の棋風を見た気がした。
350
アパートに帰ると、お隣の男子大学生が自室の前で体育座りしてた。
「鍵無くしたの?」
「いえ、終電逃した女友達を中に泊めてるので」
「それで君は外に?紳士過ぎない?」
「いえ、せめて床に寝せてって頼んだら『ダメ』って…」
「え、女の子に追い出されたの?」
「はい。そんな所に惚れたんです」