276
「先生!いい加減〆切やばいです!最悪、ネームでいいので下さい!」
「はぁ…仕方ない…本気を出すか…」
先生はそう呟き、リストバンドを外して落とすと、床にめり込んだ。
「!?」
「30分、待ってな」
そう言って先生は部屋に籠った。
30分後、部屋に入ると、窓が開いてて先生の姿は無かった。
277
「僕と結婚して下さい」
「嬉しい…夢みたい…」
「頬っぺたでも抓ってみるかい?」
抓ってみると、目が覚めた。
え、本当に夢?
嘘でしょ…?
抓らなければよかった…。
「起きて~!朝ご飯できたぞ~」
リビングから、夫の声がする。
もう少しあの時の幸せに浸っていたかったけど、まぁ、いいか。
278
和装に身を包み、背筋の伸びた義祖父は、老齢ながらも実に凛々しい。
「僕も義祖父さんのように、良い歳の取り方をしたいものです」
義祖父は首を振り、自室に戻ると、グラサンにパーカー姿で出て来た。
「良い歳の取り方とは、人生を楽しむ心を、忘れない事じゃろ?」
最近HIP-HOPにハマったそうだ。
279
昔の事だから言うわ。
性欲ピークだった大学時代、講義サボってバイトして初風俗行ったんよ。んで、ピロートーク中、嬢はこう言ったんよ「私、大学行きたくてお金貯めてるんです」
俺は俺が無性に恥ずかしくなった。講義は卒業まで2度とサボらなかった。嬢のパネル写真は、いつの間にか無くなってた。
280
「お前、逆突き以外も使えよ」
空手部でそう言われ続けて2年。それでも俺は逆突きだけを磨き続けた。毎日1000回の逆突きを欠かした事は1度も無い。いつしか俺の逆突きは神速の域に達し、他校からも〝逆突きの池田〟と恐れられた。そして迎えた決勝戦、あり得ないほど美しく、俺の回し蹴りがキマった。
281
彼氏がウチに遊びに来た時の事だった。
「なんでトイレの便座上がってんの?」
浮気を疑う彼氏に「掃除した時に上げたままにしちゃっただけ!」って伝えると、彼は渋々納得してくれた。でも、私は罪悪感で押しつぶされそうだった。嘘をつくのにも、もう疲れた。いつ正直に伝えよう?私は男だって。
282
「この部屋だけ家賃が高いのはなぜですか?」
「この部屋は、幽霊がいると評判なので」
「じゃあ普通、安くなりません?」
「例えば、TVが勝手についたり、流行りの曲が流れ始めたり、エアコンが適温で作動したり、明日7時に起こしてと言うと、ラップ音で起こしてくれるそうです」
「アレ○サかな?」
283
転売用にPS VR2の抽選列に並んでると、隣で親子連れがこんな会話をしてた。
「楽しみだな」
「楽しみ~♪」
が、親子は抽選にハズレたようで、意気消沈してた。
「おい」
「…何でしょう」
「これ持ってけ」
俺はアタリ抽選くじを親に渡した。俺もヤキがまわったな…。後日 別の会場にその親子はいた
284
イイネが欲しい。
どうすればもっとイイネが貰える?
動物モノが簡単にイイネを貰えると聞いた。俺はさっそくペットショップに向かう。チワワ、君に決めた。名前は〝イイネ〟にしよう。仕事から帰るとイイネが出迎えてくれる。それだけで毎日幸せだ。いつしか、俺の中の承認欲求は消え失せていた。
285
夏休みが終わるなり、僕とA君は職員室に呼び出された。
「お前ら読書感想文見せ合ったろ?」
そんな事はしてない。でも、僕達の感想文は何故か、一字一句一緒だった。
あぁ そうか。
僕達は同じ感想ブログを真似てしまったんだ。
でも、怒られたのは僕だけだった。
それは、A君のブログだったから。
286
なぜ〝休日〟なんて呼び方するんだ?
まるで仕事への充電時間じゃないか。休日こそ本来の人生の時間なのに。オフなんかではない、休日こそオンなのだ。休日を休日と呼んでる限り、労働のための人生は無くならない。来世では、休日が無くなってますように。
破り捨てられた遺書には、そう書いてあった
287
「やべ 終電無いわ。お前ん家泊めてくんね?」
「いいけど…引くなよ?」
友人の部屋に上がると、壁という壁に知らないアイドルのポスターが貼られていた。
「おぉ…」
「実は俺 このアイドルと付き合ってるんだ」
「…お前の妄想じゃなくて?」
「俺はまともだ。このポスター貼ったのも、その子だし」
288
「母さん?オレオレ」
「え、この声…ツヨシ?」
「そうそう、ツヨシ」
「そんな…どうして…ちゃんと産め…!」
「は?」
「…そんなハズない。アンタ、詐欺でしょ?」
「チッ」
そこで俺は電話を切った。
さっさと次行こ。
だが、向こうの言いかけた言葉が気になった。
産め……
……………埋め?
289
AI知能の進化は、行き着く所まで来た。
メッセージのやり取りだけじゃ、もはや人間と区別がつかない。良くも悪くも、それは夫津木博士のおかげだ。彼はAI科学を100年進めたと言われている。博士は今際の際に、こう遺したそうだ。
『妻を再現する事は出来なかったが、ようやく、会える』
290
天国にも酒場ってあるんだな。
フラリと立ち寄ってみると、常連っぽい中年が声をかけてきた。
「見ない顔だな。天国へようこそ」
「ども」
「生前は何やってたんだ?」
「しょぼいコソ泥さ」
「おいおい、それでよく天国に来れたな」
「駅に置いてあった鞄を盗んだんだが、中身が爆弾だったんだ」
291
娘の誕生日に、赤ちゃんの人形をプレゼントした。電池で動いてバブバブ言うやつだ。
「バブバブ!」
人形の可愛らしい声に娘は満足しているようだ。「よしよし」と言って娘は人形を夢中であやしている。パパにも抱っこさせてもらうと、なぜか動かない。電池切れか?確認すると、電池は入って無かった。
292
「博士。進化したポケモンを、元に戻す事は出来ませんか?」
「残念じゃが、それは不可能じゃ。なぜそんな事を聞く?」
「…ヒトカゲからリザードンって、大分、大きくなりますよね」
「そうじゃな」
「ピカチュウを抱っこしていると、リザードンが時々、羨ましそうな目でこっちを見ているんです」
293
どうしよう…私の小説 誰も読んでくれない。
「きっと掲載場所が悪いんだ」
私は服を脱いでお腹に小説を書き、それを映してアップしたら、恐ろしい程バズった。いつしか収益化もされ 小説で食べていく夢は叶った。
「…そうじゃない」
私は握っていた筆を折り、服を着て、キーボードの前に座った。
294
「お爺様、お婆様、ただいま戻りました」
「おぉ、桃太郎…!鬼は退治できたかい?」
「…お爺様。鬼がどのように産まれるか、ご存知ですか?」
「?」
「鬼ヶ島には、大きな大きな桃の木が1本、ございました」
「……」
「…最後の鬼を、成敗致します」
そう言って、桃太郎は己の首に、刀を添えた。
295
父は寡黙で照れ屋だから、大事な言葉はいつもお酒の力を借りて言う。
でも、酔った勢いで褒められても、心がこもって無いみたいで、少し嫌だった。
私が志望校に合格した日、父からビール片手に「よく頑張ったな」と言われた時も同じ気分だった。その手に持っていたのが、ノンアルだと気付くまでは。
296
「ねぇねぇ、ママはパパとどうやって出会ったの?」
「そうねぇ…あれは、私が海を眺めながら1人で泣いてた時だったの。パパが通りかかって、声をかけてくれたのよ」
「わぁ、素敵!なんて声かけてくれたの?」
「『どしたん?話聞こうか?』ってコメントくれたの」
「海ってもしかして、電子の海?」
297
最近の世の中は、映画も音楽も服も、果てはExcelまでなんでもサブスクだなぁ。俺はサブスクが苦手だ。課金をやめたら手元に何も残らないって点が、なんだか虚しいからだ。
なけなしの金で買ったパンを見つめ、気付いてしまった。
「あぁ…そもそも、命がサブスクだった」
貯金はもう、残り少なかった。
298
小学校で、給食の時間、女子が転んでカレーを僕にブチまけた。
女子は泣きそうになってる。泣きたいのは僕の方だけど、我慢してこう言った。「ごめんね、僕のTシャツがカレー食べちゃった」
その日以来、僕のあだ名はスモーカー大佐になった。でも1つ気になる事があるんだ。スモーカー大佐って誰?
299
奇妙な新連載がスタートした。
第1話目のはずなのに、第100話と表記されてるのだ。最初は印刷ミスかと思ったが、翌週は99話と記載されてた。なるほど、そうか。この物語は、過去に遡っていく話なのか。真の1話目には何が仕組まれているのかと、俺は毎週楽しみに読んだ。76話目で打ち切りになった。
300
深夜、コンビニのレジで、店員さんが「今日も夜遅くまでご苦労様です、サービスです!」と言って、缶珈琲をくれた。彼女のその気遣いで、俺の心がどれだけ救われたのか、彼女は知る由も無いだろう。
お釣りを貰う時、彼女の左薬指に、指輪が見えた。
貰った缶珈琲は微糖だが、少し、苦かった。