手紙が届いた。 小学校のころに埋めたタイムカプセルが開かれたらしい。そうだ、思い出した。手紙のテーマは『将来の自分へ』だった。でも何を書いたのか、もう思い出せないのだ。手紙にはこう書かれていた。 『将来の僕へ。お医者さんにはなれましたか?』 独房の中で、俺は声を押し殺して泣いた。
女友達のマンションで、3Fから落下して大怪我をした男性が出た。男の手は、なぜか油でヌルヌルだった。 女友達は語る。 「女の一人暮らしって、色々怖いのね」 「そうだな」 「私の部屋、3Fだけどまだ安心できなくて…。ベランダの手すりに油を塗ってみたの。そしたら、こんな事になるなんて…」
席でスマホを弄っていたC君の頭上から突如、ゴミが降り注いだ。イジメっ子はC君の頭に、空になったゴミ箱を被せると「おい、お前の席の周り汚ねぇな。ちゃんとゴミ掃除しとけよ」と言って笑いながら去っていった。 翌日、ゴミはそのままだった。イジメっ子は登校して来なかった。翌日も、その翌日も。
曰く付きの物件だったが、結婚を諦めてる俺としては幽霊は歓迎だった。これで、孤独が少しは紛れるかもしれない。が、不思議な現象は全く起きず、ガッカリしていた。 ある日呼吸が苦しくなり、自室で倒れた。 目が覚めると、俺は病室にいた。 スマホにはなぜか、覚えの無い119番の履歴が残っていた。
「…今日も快晴ですね」 「そうですね」 平日の朝、スーツを着た大人が2人、公園のベンチに腰かけていた。クビになったと妻に言えず公園で時間を潰す、同じ穴の狢である。 「…あの、実は僕…」 「なんです?」 「…いえ、なんでもないです」 「?」 次の日から、ベンチに座る男性の姿は1人だった。
女のフリしてオッサンとLINEするだけで良いなんて、チョロい仕事だ。だけど、長いことLINEしてると、流石に情が湧いてきた。どうせもう辞める仕事だ。情けで、最後に暴露してやる事にした。 『ごめん、実は俺、男なんだ』 すぐ返信が来た。 『知ってたよ。それでも、相手してくれて嬉しかったんだ』
「お前、目のクマひどいな」 「最近眠れてなくて」 「なんで?」 「『あなたを誹謗中傷で訴える』ってDM来てさ…脅しだと思うんだけど」 「SNSでそういう事するからだろ」 「ちょっとストレス溜まってて…」 「…DM届いたの、3日前の19時32分?」 「え?なんで知ってんの?」 「お前だったのか」
「クラスに付き合ってる人いる?」 「いるよ」 「え~!誰?」 皆で次々と男子の名前を挙げたけど、結局、全員の名前を言っても「違う」と返された。 「嘘は無しだよ!」 「ううん、嘘はついてないよ」 (あ、女子かな…?) チャイムが鳴りHRが始まる。彼女の蕩けた視線の先には、担任の姿があった。
大学からの帰り道、オジさんに話しかけられた。 「やっと見つけた…」 「え?」 「誓ったじゃないか。来世でまた一緒になろうねって」 「はぁ?」 ヤバい人だ。めっちゃ怖い。最終的に警察につれていかれる時オジさんは必死に何かを叫んでいた。あぁ怖かった。私の前世の相手は、あんな醜男じゃない。
「チッ 腹減ったなぁ」 ノック音が聞こえる。 「おっせぇんだよババア!」 ドアを開けるといつも通り飯が床に置かれていた。今日は紙切れが2つ添えてあった。 1つは『お願いだから、働いて』と震えた字で書かれていた。もう1つは、幼い俺の字でこう書かれていた。 『なんでもママのいうことをきく券』
今晩、娘が彼氏を連れてくるらしい。しかも大事な話をしたいそうだ。ついにこの日が…。 夜、皆で食事をしていると彼氏君が口を開いた。 「お義父さんお義母さん…大事なお話が」 「まだ、君にお義父さんと呼ばれる筋合いは無い」 「いえ…あります!僕と娘さんは…DNA鑑定の結果…実の兄妹でした」
なんだか教室が騒がしい。集合写真に幽霊が写り込んだとかで、盛り上がってるみたいだ。 「見ろよこの陰気な目。間違いなく、生前は陰キャだったね」 なんて声が聞こえてきて笑えた。 「陰キャは、自分から写真に入ったりしないよ」 そう呟いたが、誰にも聞こえてないようで、僕は窓から教室を出た。
子供の人形遊びは面白い。 多分、息子の中では何か設定かストーリーがあるんだろう。フィギュアをコップの水に沈め、冷凍庫で氷漬けにして遊んでいたのだ。「それは何してるの?」と聞くと「綺麗だから」と息子は答えた。 そんな息子も、大人になった。 巷では、氷漬けにされた遺体が発見された。
妻と付き合い始めた経緯ですか? 高校の頃、カンニング疑惑で呼び出されたんですね。テストで、間違った箇所が隣の女子とぴったり一致してたんです。勿論、カンニングなんてしてません。ですが、あまりに息がぴったりで、これは運命だと感じましたね。ええ、その時僕を叱ってた先生が、今の妻です。
私は小さい頃、ポケモンが大好きだった。将来の夢はポケモントレーナーになることだった。勿論、それは叶わなかったけど、私はポケモンから大事なことを学べた。おかげで今、ずっと好きだった人と付き合えているの。本当にゲットしたい時は、相手をとことん弱らせてから、手を差し伸べるのが大事。
私は雨の日が好きだった。 小学生の頃、幼馴染の彼がくれた傘を使うことが出来たからだ。 私は雨の日が嫌いになった。 遠くに引っ越してしまった彼を思い出すから、私は傘を押し入れの奥にしまった。 私は雨の日が好きになった。 傘をさすと、隣の彼が言った。 「まだ、その傘持っててくれたんだね」
闇鍋とは、鍋の中に何が入っているのかわからないからこそ闇鍋なのだ。しかし俺達は1つ上の次元に到達している。具だけでなく、この鍋を囲んでいる5人は各々が誰かもわかっていないのだから。マスクをしているせいで表情も読めない。今が何時でここが何処かもわからない。正直、凄く怖い。帰りたい。
面白い試みだな、と思った。 そのラブコメ漫画は、最後に主人公がどの子と結ばれるのか、読者の投票によって決める方式を採用したのだ。正直、どの子にも幸せになって欲しい。三日三晩悩み抜いた末、俺は幼馴染の子に投票した。 次週、最終回にて結果が出た。 主人公は幼馴染の男子とくっついた。
「そういえば、もうすぐクリスマスね」 「そうですね。A先輩はサンタさんに何頼むんですか?」 「え?」 「え?」 「B子ちゃん、社会人でサンタは流石に…」 「いえ、サンタはいますよ普通に。去年も来てくれましたし…」 「B子ちゃん、実家暮らし?」 「いえ、一人暮らしです」 「え?」 「え?」
「部長、コレを受け取って下さい」 部下から手渡されたそれは、退職願だった。 「…辞めるのか?」 「いえ、辞めるのは部長です。お願いですから退職してください」 「は?」 まさかコイツ…退職願の意味を勘違いしている? すると、部下は続けた。 「部長は、こんな会社にいるべき人ではありません」
「…なぁ、お前に言わなくちゃいけない事があるんだ」 「なんだよ、改まって」 「俺達も、長い付き合いだよな」 「そうだな。もう3年になるかな」 「今日こそ、ハッキリ言おうと思う」 「おう!」 「上司の俺にタメ口はやめような。友達じゃないんだから」 「……僕は…ずっと友達だと思ってました」
「リア充爆発しろってよく聞くけど、この期に及んでなんで他力本願なんだろうな」 「そりゃ爆破するって言ったら捕まるからな。本物はただ、黙々と実行するのみだよ」 友人が懐からスイッチを取り出して押すと、遠くで大きな爆発音がした。 「……今のは?」 「福音さ」 「……」 「Xmasの夜に、乾杯」
12/24は当然予定が無いので、オンラインゲームにログインすると、A君とBさんがいた。2人はリアルでカップルだ。 『あれ?2人はデートいかないの?』 『僕ら先月から同棲始めたんで、今日はお家でゲーム内デートなんです!』 俺は『ゲーム内もイルミ綺麗だもんね♪』と返し、ひっそりとログアウトした。
「課長…。12/25の休日出勤は、どうか勘弁してくれませんか」 「今、プロジェクトがどんな状況かわかってるだろ?皆、家族や恋人と過ごしたいのを我慢して出社するんだぞ」 「…娘に、サンタさんから欲しいものを聞いたら『パパとの時間』と言われたんです」 「…プレゼントだ。25日は来なくていい」
昔に比べ、幽霊の目撃情報が格段に減った気がするのはなんでだろう? 息子は言った。 「未練が残るほど、この世に魅力が無くなったからだよ」 娘は言った。 「未練が残らないくらい、幸せな人生を歩む人が増えたんだよ」 霊能力者の祖父は言った。 「ワシらの経営努力を無視すんじゃねぇ」