最後のページを捲り、溜息をついた。何度読んでも面白い。でもネットで感想を漁ると、解釈違いばかりだった。 『最後、主人公はサブヒロインとくっついたでしょ?』と指摘する度に『どう読んだらそうなる?』『国語、苦手でした?』『読解力が地獄』『半年ROMれ』と言われて凹んだ。作者、私なのに。
すれ違い様に、俺は男の尻ポケットから財布を抜き取る。楽勝だ。 盗んだ財布を懐に入れた瞬間、異変に気付いた。俺の尻から財布が無くなっている。 「しまった…奴は同業者だったか!」 戦利品である財布を開くと、たった542円しか入っていなかった。よし、勝った。121円、俺は得をしたのだから。
「お!この店、SNSで宣伝したらフォロワー数×10円で値引きしてくれるって!入ろうぜ!」 「先輩、SNSなんてやってたんスか?」 「おう。遠慮せず食え、俺の奢りだ」 「マジすか!あざっす!」 後日、先輩のアカウントを見つけると、フォロワーは5人だった。俺は、先輩をフォローすることにした。
先輩は私の憧れだ。 物怖じせず上司に意見するし、堂々と定時で帰るし、飲み会も「気分じゃない」と断れる。 「私も先輩みたいになりたいです」 「ふーん…じゃあ私の師匠を紹介してあげるよ」 後日 公園に案内された。 「この方が私の師匠」 そこには、1匹の猫が気持ちよさそうに寝転がっていた。
「やべ 終電無いわ。お前ん家泊めてくんね?」 「いいけど…引くなよ?」 友人の部屋に上がると、壁という壁に知らないアイドルのポスターが貼られていた。 「おぉ…」 「実は俺 このアイドルと付き合ってるんだ」 「…お前の妄想じゃなくて?」 「俺はまともだ。このポスター貼ったのも、その子だし」
同棲する際に、俺のペットであるトカゲを妻は心底嫌がった。危うく別居婚になりかけた程だ。絶対にケージから出さない事を条件に、妻は渋々承諾してくれた。 ある日、大きな地震が起きた。 風呂に入ってた俺は揺れが収まってから居間に飛び出した。すると、机の下には、ケージを胸に抱えた妻がいた。
僕の祖父は棋士だ。 同じ棋士として祖父と戦うことが僕の密かな夢だった。でも、僕が棋士になると同時に、祖父は他界してしまった。僕の夢は永遠に潰えたのだ。 ある日、祖父の親友が開発したAIと対局していると、妙な懐かしさを感じた。 「……爺ちゃん?」 AIの中に、祖父の棋風を見た気がした。
「見てごらん、この美しい夜景を」 50Fのレストランから見える街並みは、闇に包まれていた。 「…これのどこが美しいの?」 「この景色に至るまでに、どれだけの人が辛酸をなめてきたか…。僕は、この真っ黒な夜景を誇りに思う」 「だから、どうして?」 「わからないか?誰も残業していないんだ」
「素敵なお写真ですね。可愛らしい女の子だ。お孫さんですか?」 「いや、妻だよ」 「…失礼。今、なんと?」 「笑ってくれたまえ。私はね、『君のお嫁さんになりたい』と言ってくれた幼馴染の言葉を、未だに守っているのだよ。私の方が、ずっとずっと年上になってしまった、今になってもね」
女のフリしてオッサンとLINEするだけで良いなんて、チョロい仕事だ。だけど、長いことLINEしてると、流石に情が湧いてきた。どうせもう辞める仕事だ。情けで、最後に暴露してやる事にした。 『ごめん、実は俺、男なんだ』 すぐ返信が来た。 『知ってたよ。それでも、相手してくれて嬉しかったんだ』
天国にも酒場ってあるんだな。 フラリと立ち寄ってみると、常連っぽい中年が声をかけてきた。 「見ない顔だな。天国へようこそ」 「ども」 「生前は何やってたんだ?」 「しょぼいコソ泥さ」 「おいおい、それでよく天国に来れたな」 「駅に置いてあった鞄を盗んだんだが、中身が爆弾だったんだ」
深夜、コンビニのレジで、店員さんが「今日も夜遅くまでご苦労様です、サービスです!」と言って、缶珈琲をくれた。彼女のその気遣いで、俺の心がどれだけ救われたのか、彼女は知る由も無いだろう。 お釣りを貰う時、彼女の左薬指に、指輪が見えた。 貰った缶珈琲は微糖だが、少し、苦かった。
私には尊敬する作家さんがいる。彼の作品はどれも★2.0を切っており、レビューは酷評の嵐だ。なのに、彼は世間の評判を気にせず、息をするように作品を出し続けている。その尊敬すべき鋼の精神はどうやって培われたのか、本人にメールで聞いてみると、返信があった。『伝えないで欲しかった……』
「HEY彼女!俺で妥協しなぁい?」 「気に入らない」 「…ですよね」 「違うよ。そうやってフザけて、断られても傷付かないよう予防線を張ってるのが気に入らないの」 「!?」 「失敗を恐れないで。ほら、もう1度真剣に言ってみて?」 「…お姉さん、俺とお茶してくれませんか?」 「僕、男です」
「おい囚人番号823番」 「なんだよ981番」 「お前、釈放目前だったのにまた問題起こして刑期が伸びたらしいな」 「あぁ」 「なぜ我慢しなかった」 「脱獄用の穴を完成させるためさ」 「バカか…本末転倒だろ」 823番はこう続けた。 「この監獄を出る時は、お前と一緒じゃねぇとな」 やはり、バカだ。
息子がonlineゲーム中毒になった。叱るよりも、まず子供の目線に立つべきかと、私も始めてみる事にした。 その甲斐あって、息子のオンゲー中毒は改善された。息子曰く「自分の姿を、客観的に見れたから」らしいが、今やそんな事はどうでもいい。向こうの世界で今日も、仲間達が私を待っているのだ。
2/14の朝 登校すると、親友は裸足だった。 「…お前もしかして、イジメられてんの?」 親友は首を横に振る。 「じゃあ上履きは?」 「下駄箱、見てないんだ」 「なんで?」 「俺が確認しない限り、チョコが在るのと無いの、2つの可能性が共存するだろう?」 なるほど。 確認したら、チョコは無かった。
父の訃報が届いた。 俺が歌手を目指して家を飛び出したその日から、俺は勘当されてると言うのに、今更どの面下げて葬式に出ろって言うんだ。 出棺される父を見送る。話によると、出棺の際に流す曲は、予め指定できるらしい。それは、父の遺言の1つだったそうだ。流れたのは、俺のデビュー曲だった。
面接官やってると、就活生のSNSアカウントを裏で調査しておくなんて基本中の基本だ。いま俺の目の前にいる就活生は、SNS上でも真面目で、全く問題無かった。 「では最後に、何か質問はありますか?」 「面接官さんは先週からSNS上で女の子に猛アタックしてましたが、会えました?」 「…………いえ」
「お前、逆突き以外も使えよ」 空手部でそう言われ続けて2年。それでも俺は逆突きだけを磨き続けた。毎日1000回の逆突きを欠かした事は1度も無い。いつしか俺の逆突きは神速の域に達し、他校からも〝逆突きの池田〟と恐れられた。そして迎えた決勝戦、あり得ないほど美しく、俺の回し蹴りがキマった。
新幹線で出張中 車内に緊急警報が流れた 『怪獣が出現しました。当車両は合体ロボになって応戦します。シートベルトをお締め下さい』 パニックに陥る車内 「マジかよ!?」「先に下ろしてくれ!」「俺達を巻き込むな!」「腕部だけは嫌だ!」「俺今月2度目」「脚部も嫌だ!」 結局 客先には遅刻した
「母さん?オレオレ」 「え、この声…ツヨシ?」 「そうそう、ツヨシ」 「そんな…どうして…ちゃんと産め…!」 「は?」 「…そんなハズない。アンタ、詐欺でしょ?」 「チッ」 そこで俺は電話を切った。 さっさと次行こ。 だが、向こうの言いかけた言葉が気になった。 産め…… ……………埋め?
「課長…。12/25の休日出勤は、どうか勘弁してくれませんか」 「今、プロジェクトがどんな状況かわかってるだろ?皆、家族や恋人と過ごしたいのを我慢して出社するんだぞ」 「…娘に、サンタさんから欲しいものを聞いたら『パパとの時間』と言われたんです」 「…プレゼントだ。25日は来なくていい」
俺は子供嫌いだ。 常に泣くし喚くし我が儘だし、正直に言って嫌う要素の塊でしかない。姉夫婦が事故で他界して、遺された幼い姪を引き取ってからは地獄だった。 そんな日々も今日で最後だ。純白のドレスを着た姪が口を開く。 「今までありがとう、お父さん」 人前で泣いたのは、子供の時以来だった。
最近、俺は幽霊に悩まされていた。 テレビが勝手についてたりするし、風呂場の曇りガラスの向こうに奴は立ってたりする。仕方なく霊媒師を呼んだら、怨念が強過ぎてどうしようも無いと言われた。今夜もラップ音で嫌がらせしてくる幽霊に俺はキレた。「うるせぇええええ!!もう1度殺されてぇのか!?」