226
「俺、彼女出来た」
「マジ!?」
昔ついた嘘を嘘と言えず、架空の彼女との関係は順調だと親友に3年間、報告し続けた。そして、遂に結婚する所まで来た。もはや嘘も限界だ。
「ごめん…彼女なんて実はいないんだ」
「…架空は、彼女だけか?」
「え?」
顔を上げると、親友の姿は何処にも無かった。
227
「お友達 帰ったの?」
「うん。兄貴の事、カッコイイって言ってたよ」
「おっ…ふ…」
自信がついたのか、それ以来 兄は変わった。オシャレに気を使い 体も鍛え 勉強も頑張った。大企業に内定をもらい、彼女も出来たらしい。私は言葉の重さを痛感していた。たった1つの嘘が、1人の人生をも変えるんだ
228
道端に財布が落ちていた。
俺の中の悪魔が囁く。
「貰っちまえよ…!」
次に天使が囁く。
「無理しないでいいの…貴方は頑張ってる。これは神様からのご褒美なの。だから、貰っていいのよ」
隣の娘が囁く。
「パパ、どうしたの?」
俺は笑顔で答える。
「なんでもないよ。さ、警察に届けに行こう」
229
「1024円か…キリの悪い数字ですね」
「いえ、2の10乗ですので、とてもキリの良い数字です」
「では、343は?」
「7×7×7。7は神秘的な数字です」
ふと気になったので、聞いてみる事にした。
「博士の1番好きな数字は何ですか?」
「1029です」
「どんな計算なのです?」
「私と妻が出会った日です」
230
父の訃報が届いた。
俺が歌手を目指して家を飛び出したその日から、俺は勘当されてると言うのに、今更どの面下げて葬式に出ろって言うんだ。
出棺される父を見送る。話によると、出棺の際に流す曲は、予め指定できるらしい。それは、父の遺言の1つだったそうだ。流れたのは、俺のデビュー曲だった。
231
「失礼、警察です。貴女の恋人に殺人容疑がかかっておりまして…」
「え?」
「逃走中の彼について、お話しを聞かせていただきたく…」
ショックで茫然とする私を見かねて、刑事達は質問もそこそこに帰っていった。
彼が…殺人鬼だったなんて……探されちゃう…彼をもっと遠くに…埋め直さないと……。
232
僕の友人は紛れもない天才俳優だ。
役に没入するあまり、日常生活の中ですらその役になりきってしまう程だ。そんな友人と飲んでいた僕は、つい愚痴を漏らした。「僕も君みたいに、何か才能があればなぁ…」
「何言ってんだ、お前は天才だろ。役作りは順調か?確か今度は『天才俳優の友人』役だっけ?」
233
「チッ 雨かよ…」
俺は傘立てから適当なビニール傘を選び盗る。ビニール傘はシェアするものなのだ。傘を開くと、内側にこう書いてあった。
『お父さん、誕生日おめでとう』
俺は泣いた。泣きながら傘立てにその傘を戻した。そして濡れながら帰った。
「誕プレ、コンビニのビニール傘かぁ…」
234
「この度は弊社がご迷惑をおかけしてしまい…申し訳ありません…」
「誠意が感じられんなぁ…」
「誠意…?」
「日本にはあるだろう?両手と頭を地面につける、伝統的な謝罪方法がさぁ…」
悔しさに歯を食いしばりながらも、俺は従った。
「申し訳ありませんでした!」
「うん、三点倒立じゃなくてね」
235
なぜ〝休日〟なんて呼び方するんだ?
まるで仕事への充電時間じゃないか。休日こそ本来の人生の時間なのに。オフなんかではない、休日こそオンなのだ。休日を休日と呼んでる限り、労働のための人生は無くならない。来世では、休日が無くなってますように。
破り捨てられた遺書には、そう書いてあった
236
小・中学校では、運動が出来る奴がモテると知り、俺は必死に体を鍛えた。
高校・大学では、勉強が出来る奴がモテると知り、俺は必死に勉強した。
社会では、金を持ってる奴がモテると知り、俺は必死に稼いだ。
あの世では、生前の徳を積んだ奴がモテると知ったが、もう手遅れだった。
237
「この部屋だけ家賃が高いのはなぜですか?」
「この部屋は、幽霊がいると評判なので」
「じゃあ普通、安くなりません?」
「例えば、TVが勝手についたり、流行りの曲が流れ始めたり、エアコンが適温で作動したり、明日7時に起こしてと言うと、ラップ音で起こしてくれるそうです」
「アレ○サかな?」
238
母校で、旧友たちとタイムカプセルを掘り出し、皆で開いた。
「聡君は何入れてたの?」
「昔、君に渡せなかった物だよ」
聡はカプセルの中から小箱を拾い上げる。開くと、手作りの拙い指輪が入っていた。
「僕と結婚して下さい」
「ふふ…もう1度、式も挙げる?」
彼からの、2度目のプロポーズだった。
239
34歳になった日の朝、男は唐突に予感する。
「あ…俺、近々死ぬかも」
男は亡くなる前に、疎遠になってた友人も含め、1人1人に会ってまわる事にした。それは、昔話に花を咲かせる事で『案外、悪くない人生だったな』と、己が人生を見つめ直す旅でもあった。その後、死は訪れた。97歳の大往生だった。
240
「N〇K受信料の集金です」
「ウチ TV無いんで」
「嘘。一緒に住んでたんだからわかるよ」
「君が出てってから、捨てちゃったんだよ」
「どうして?」
「…このTVで一緒に映画とか見てたなぁ…って思い出すの、辛くて」
「…また一緒に、映画見よ?」
後日 一緒にTVを買いに行った。
受信料は払わされた
241
Q1:小学生の頃どんな技を練習しましたか?
という質問に、様々な解答が寄せられました。
波紋・かめはめ波・霊丸・二重の極み・螺旋丸・ギア2・月牙天衝・領域展開・水の呼吸…
しかし
Q2:それは習得できましたか?
という質問に97%もの人がNOと答えました
つまり、挫折は決して恥じでは無いのです
242
「変だな…味がしない…」
コロナを確信した俺は内心歓喜していた。これで仕事を休める。
しかし、医者の「コロナではありません」というセリフに俺は激しく落胆した。医者は続ける。「おそらく、鬱による味覚障害です。仕事は休んでください。そして、大事な人と、穏やかな時間を過ごしてください」
243
戦友の戦死報告を受けても、彼は眉1つ動かさなかった。
「お前、何も思わないのか?」
「当然だ。もう慣れたよ」
そんな彼だが、死んだはずの戦友と再会できた時、別人のように泣いていた。
「安心したよ。お前も人の子だったんだな」
「…生還してくれる事には、まだ慣れてないだけさ」
244
なぜ〝休日〟なんて呼び方するんだ?
まるで仕事への充電時間じゃないか。休日こそ本来の人生の時間なのに。オフなんかではない、休日こそオンなのだ。休日を休日と呼んでる限り、労働のための人生は無くならない。来世では、休日が無くなってますように。
破り捨てられた遺書には、そう書いてあった
245
ある、雪の日の事だ。
チャイムに出ると、お隣の奥さんが立っていた。
「あの…作りすぎちゃったんで、よければ」
そう言って奥さんは、抱っこしている赤ちゃんを僕に差し出した。
「はは…冗談ですよね?」
「……」
「冗談ですよね?」
奥さんは俯いて、無言で帰っていった。
もう、5年も前の話だ。
246
お爺さんはある日 罠にかかっている鶴を助けた。別の夜 お爺さんの家に白い着物姿の若い娘がやって来た。娘は裾をまくって足を見せると、そこには酷い傷跡があった。娘は氷のような目で問う。
「あの罠を仕掛けたのは誰か、ご存知ですか?」
爺さんは滝汗をかき、答えた。
「ワ、ワシじゃないぞ…?」
247
弟は時速5kmで家を出ました。その30分後、弟の忘れ物に気付いた兄は時速15kmで追いかけました。兄が弟に追いつくと、弟は兄の彼女とキスしていました。兄は物陰で茫然と立ち尽くした後、弟の忘れ物をゴミ箱に捨て、時速1kmで家に帰りました。弟と兄の心の距離が縮まるには、何年かかるのでしょうか。
248
「あ~あ…やっちまった」
足元に缶珈琲をこぼしてしまった。ふと『珈琲は飲むよりこぼした方が目が覚める』というネタを思い出し、1人で笑った。また2人で笑える日は来るだろうか。病室のベッドで横になる妻に目を向ける。すると、妻はその目をゆっくりと開いた。2年ぶりに、妻は目を覚ましてくれた。
249
「素敵なお写真ですね。可愛らしい女の子だ。お孫さんですか?」
「いや、妻だよ」
「…失礼。今、なんと?」
「笑ってくれたまえ。私はね、『君のお嫁さんになりたい』と言ってくれた幼馴染の言葉を、未だに守っているのだよ。私の方が、ずっとずっと年上になってしまった、今になってもね」
250
今日のリモート会議は空気がピリついてる。
ここは1つ、軽いトークを挟んで落ち着かせるか。
「そういえば課長のお子さん、今日は静かですね。いつも元気な声が聞こえるのに」
「……」
「課長?聞こえてます?」
「…つい先日、嫁と一緒に出ていかれたからな」
落ち着け。
まだ慌てる時間じゃない。