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Instaでめっちゃ可愛い女の子のアカウントを見つけた。『可愛く撮れた♪』と上げられた写真は今日もめちゃ可愛い。
出会い目的と悟られないよう、慎重に交流を重ね、ついにリアルで会う事になった。緊張する。が、現れたのはオッサンだった。
「これ詐欺だろ…」
「いえ…僕、カメラマンなんですが」
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「ねぇパパ、地球は時速1700kmで自転してるのよね?」
「君は物知りだね」
「じゃあ、どうして飛行機は、お空に浮いてて地球において行かれないの?」
「よく気付いたね。君には私の〝地動説否定教〟に入る資格があるようだ」
「…遂に、尻尾を出したわね」
私は涙を堪え、実の父に銃を向けた。
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「お前、逆突き以外も使えよ」
空手部でそう言われ続けて2年。それでも俺は逆突きを磨き続けた。毎日1000回の逆突きを欠かした事は1度も無い。いつしか俺の逆突きは神速の域に達し、他校からも〝逆突きの池田〟と恐れられた。そして迎えた決勝戦、あり得ないほど美しく、俺の回し蹴りがキマった。
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あれ?俺は今、車にはねられたはずじゃ…?
振り返ると、地面に倒れてる俺の姿が見えた。そうか…今の俺は霊体ってやつか。俺の身体の周りには人が集まり、AEDで心肺蘇生を試みてくれている。
頼む!助けてくれ…!お、やった!俺が息を吹き返した!意識も回復したみたいだ!…じゃあ俺はなんだ?
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上司に呼び出された。
「なぜ呼び出されたか、わかるな?」
「いえ全く」
「君 仕事中に小説書いてるだろ」
「!?」
「社内の共有フォルダで見つけたんだ」
(ヤバイ、保存先間違えてたのか…)
「続きは?」
「え?」
「続きはないのか?」
筆を折るつもりだったが、もう少しだけ続けることにした。
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「Youtuberで食べていけてるのかね?」
「はい、一応…」
「だが、収入に安定も保証も無いのだろう?」
「そうですね…」
「不安は無いのか?」
「もう慣れました…」
「話にならんな。もっと将来を見据え、危機感を持ったらどうだね?」
「すみません…」
「貯金はどの程度なんだ?」
「2億です」
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「~以上が、御社を志望した理由です」
よし、練習通り言えたぞ。面接官は満面の笑顔だし、手応えアリだ!憧れの大企業に入れるかもしれない。ただ、面接官がずっと指で机を叩いているのが気になるな。
トン・トーン・トン……
これはまさか…モールス信号?
『ニゲロ ココ ハ ブラック キギョウ ダ』
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同居する際に、俺のペットであるトカゲを妻は心底嫌がった。危うく別居婚になりかけた程だ。絶対にケージから出さない事を条件に、妻は渋々承諾してくれた。
ある日、大きな地震が起きた。
揺れが収まってから居間に飛び出すと、机の下には、家族を守るように、ケージを胸に抱えた妻がいた。
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泥棒をしていると、玄関で音がした。
まずい!
見つかる前に、俺は身を隠す。
「……いるんだろ?出てこいよ」と 家主の声。
バレている…だと!?
俺は観念し、家主の前に姿を現した。
「え!?」と驚愕する家主。
「え…?」と困惑する俺。
パトカーの中で、俺は考える。
え、毎日あのセリフ言ってたの?
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初めて彼氏の家に行ったらなぜか洗面台の鏡にキスマークがついてて、口紅も置いてあって「なんなのこれ?」って問い詰めたら慌て始めて、余計に怪しくて強く聞いたら「初キスで緊張しないよう、女装して鏡の自分と向かい合ってキス練してた」って白状されたんだけどキスは死ぬほど下手だった。
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デートで終電が無くなった私は、彼氏の家に初めてお泊まりする事になった。
そしたら、まさかの実家。
まぁいいか。
と思ってあがると、居間に服を着たマネキンが2体座ってた。顔にはクレヨンで笑顔が描かれている。額にはそれぞれ、父・母とあった。立ち尽くす私の後ろで、チェーンを閉める音がした。
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最近、家のwi-ifがやたら重い。もしやと思ってパスワードを変えたら軽くなった。おそらく、お隣さんがウチの電波を使って動画でも見てたんだろう。
後日また重くなった。もしやと思って問い詰めたら、お隣にパスワードを教えてるのは息子だった。wi-fi使用料として、月千円をお隣から貰ってたらしい。
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幼馴染と俺の中身が入れ替わって5日になる。いつになったらお互いの体に戻れるんだろう。
「お母さん。俺…あ、私 今日 晩ご飯いらないから」
「懐かしいわね」
「?」
「覚えてないわよね。アンタ小さい頃、1人称をよく間違える時期があったの」
もしかして…
今、俺達は入れ替わってるんじゃなくて…
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「変だな…味がしない…」
コロナを確信した俺は内心歓喜していた。これで仕事を休める。
しかし、医者の「コロナではありません」というセリフに俺は激しく落胆した。医者は続ける。「おそらく、鬱による味覚障害です。仕事は休んでください。そして、大事な人と、穏やかな時間を過ごしてください」
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『先輩~♪一緒に帰りましょ?』
『先輩って好きな人、います?』
『先輩ー!お弁当作ってきました!』
『今日…先輩の家行っていいですか?』
『嬉しいです…はい!私も、先輩が好きです!』
一見して普通の恋愛小説だったが、『先輩』はシーン毎に全て別人だと最後にわかった時、俺の脳は壊れた。
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僕は昔から人前で怒られるのが大の苦手だった。恥ずかしくって情けなくて何もかも嫌になる。だから仕事でも、決して全体メールや人前では後輩を叱らず裏で怒る事にしたんだ。そしたら〝二重人格〟と恐れられるようになった。でも僕の逆バージョンの上司は人気者だ。いつの間にか、上司は亡くなってた。
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ハンターハンターが連載再開されたと聞く度に、月曜日が待ち切れなくて、日曜の深夜、早くから陳列してるコンビニを友と一緒に探し回った。そして、朝まで2人で語りあった。それくらいあの漫画は魅力的だったのだ。今だからわかる。ハンター以上に、友とのそんな日々こそが、何よりの宝だったのだと。
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自分の顔がネット上に残るの嫌がる奴多いけど、別によくね?
顔写真だけじゃ住所も学校もわからんし。有名人でもない限り、誰も一般人の顔なんて気にしねぇよ。
試しに、以前SNSに投稿した俺の変顔で画像検索かけてみた。そしたら、俺の変顔をアイコンにしたアカウントがめっちゃ政治批判してた。
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「浮気なんて、バレなきゃいい話だよな」
「…ここに、拳銃があったとする」
「拳銃?」
「あぁ。低い確率…例えば1/100の確率で、弾が出る拳銃だ。お前はその引鉄を、彼女に向けてこっそり引けるか?」
「……」
「お前がやってるのは、そういう行為なんだよ。ちなみに俺は、既に2回撃たれている」
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「この部屋だけ家賃が高いのはなぜですか?」
「この部屋は、幽霊がいると評判なので」
「じゃあ普通、安くなりません?」
「例えば、TVが勝手についたり、流行りの曲が流れ始めたり、エアコンが適温で作動したり、明日7時に起こしてと言うと、ラップ音で起こしてくれるそうです」
「アレ○サかな?」
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曰く付きの物件だったが、結婚を諦めてる俺としては幽霊は歓迎だった。これで、孤独が少しは紛れるかもしれない。が、不思議な現象は全く起きず、ガッカリしていた。
ある日呼吸が苦しくなり、自室で倒れた。
目が覚めると、俺は病室にいた。
スマホにはなぜか、覚えの無い119番の履歴が残っていた。
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今晩、娘が彼氏を連れてくるらしい。しかも大事な話をしたいそうだ。ついにこの日が…。
夜、皆で食事をしていると彼氏君が口を開いた。
「お義父さんお義母さん…大事なお話が」
「まだ、君にお義父さんと呼ばれる筋合いは無い」
「いえ…あります!僕と娘さんは…DNA鑑定の結果…実の兄妹でした」
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父は寡黙で照れ屋だから、大事な言葉はいつもお酒の力を借りて言う。
でも、酔った勢いで褒められても、心がこもって無いみたいで、少し嫌だった。
私が志望校に合格した日、父からビール片手に「よく頑張ったね」と言われた時も同じ気分だった。その手に持っていたのが、ノンアルだと気付くまでは。
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「ママ 兎と亀の話は妙だよ」
「どうして?」
「そもそも亀はなぜ不利な勝負を仕掛けたんだろ?兎が寝たのも亀に都合が良すぎる。亀が仕組んでたんじゃ…」
「そうね。でもママはこう思うの」
「?」
「亀は万年だから…きっと、兎が生きてる内に遊びたかっただけなのよ。大事なのは、勝敗じゃないの」
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『俺と……………付き合ってくれない?』
『その前に、言いたい事が5つあるの。
1: LINEで告白はやめようね。
2: 3点リーダで溜め過ぎてなんかキモい。
3:先月失恋して凹んでたくせに立ち直り早いね。
4:彼女作る前に部屋は綺麗にした方がいいよ。
5:送り先は確認しようね。私はあなたの母です』