「アンタ、こんな日にチョコ持ってきたの?」 「こんな日だから、だよ」 こういうイベントには必ず準備する人だった。最愛の恋人を亡くしてからも毎年チョコを欠かさず供える彼女は、私の理想だった。 「やっと、お爺ちゃんに直接渡せるね」 涙を堪えながら、祖母の棺桶に、私はチョコを入れてあげた。
深夜、彼氏が自宅マンションで寝ているところを、侵入者に刺されて死んだ。金銭は無事だったことから、私怨による犯行と思われ、合鍵を貰っていた私が警察署に呼ばれた。 「あの…私、疑われてるんですか?」 「いえ、合鍵の持ち主は3人いるので」 「はぁ?4人だったんですけど?」 「よくご存知で」
『辛いのは皆一緒だよ。もう少し頑張ろう?辞めてどうするの?』 母なら絶対にそう言う。 わかってる。 母は私の将来を心配してるだけだ。でも、母の言葉にトドメを刺されるのが怖かった。私が本当に欲しい言葉は『いつでも辞めていいんだよ』だったのに。だから今でも、 仕事を辞めたと言えていない
ある、雪の日の事だ。 チャイムに出ると、お隣の奥さんが立っていた。 「あの…作りすぎちゃったんで、よければ」 そう言って奥さんは、抱っこしている赤ちゃんを僕に差し出した。 「はは…冗談ですよね?」 「……」 「冗談ですよね?」 奥さんは俯いて、無言で帰っていった。 もう、5年も前の話だ。
新しい町に着いたら、民家を漁るのが勇者の特権だ。さっそく箪笥を開けると、中に冷たくなった老婆がいた。返事は無い。 「見ましたね」 後ろを振り向く間もなく、俺の頭に壺が叩きつけられた。教会で目覚めると、神父は「何があったか、覚えていますか?」と笑顔で言った。俺は「いいえ…」と返した。
神は俺に言った 「いつに戻りたい?」 「その前に確認させて下さい」 「何だ」 「俺は今まで何回、時間を戻してもらいましたか」 「97回だ」 「…もう、戻さなくていいです」 神は頷き、霧散した。 なぜ…何度繰り返しても、彼女を救えない…。 どうして…。 ………。 「神様、やはり、もう1度だけ…」
妹と一緒にホラー映画を観た夜の事だった。 寝ようと電気を消すと、妹が「お兄ちゃん…一緒に寝てもいい?」と部屋に入ってきた。普段は生意気なくせに、可愛い所もあるじゃないか。 翌日、「今夜も一緒に寝てやろうか?」と妹を茶化したが、どうにも話が嚙み合わない。昨夜は一人で寝てたらしい。
まるでゴッホのような小説家だなと思った。 彼は、亡くなってから有名になったのだ。投稿先が悪かったのか運が悪かったのか…きっと両方だろう。彼の作品はネットから発掘される度に売れた。その中でも特に売れた作品の最後の一文は、特に印象的だった。 『この世界は、私が生まれてくるには幼過ぎた』
「ねぇねぇ、ママはパパとどうやって出会ったの?」 「そうねぇ…あれは、私が海を眺めながら1人で泣いてた時だったの。パパが通りかかって、声をかけてくれたのよ」 「わぁ、素敵!なんて声かけてくれたの?」 「『どしたん?話聞こうか?』ってコメントくれたの」 「海ってもしかして、電子の海?」
ゴーストタウンを探索していると、道端に2人の古いご遺体があった。服装からして2人とも女の子か。2人は手を固く握りあっていた。おそらく目の前のビルから飛び降りての心中だろう。こんな世の中だ、珍しくもない。よく見ると、2人は手を繋いでいなかった。片方が片方の手首を、固く固く握っていた。
AI知能の進化は、行き着く所まで来た。 メッセージのやり取りだけじゃ、もはや人間と区別がつかない。良くも悪くも、それは夫津木博士のおかげだ。彼はAI科学を100年進めたと言われている。博士は今際の際に、こう遺したそうだ。 『妻を再現する事は出来なかったが、ようやく、会える』
やぁ。私は犬の言葉を理解する研究を成功させた者じゃ。 「ワンワン!」 この元気に吠えているのは、犬のジョンじゃ。 「ワンワン!」 んん?何を言ってるのかさっぱりわからん。まさか文句じゃあるまいな?「犬の言葉を理解したい」と言ったのは君じゃぞ?今更、人間に戻りたいのか?ん?ん?
甥にゲームに誘われた。仕方なく付き合ってあげる事にした。 「叔父さん」 「ん?」 「今、わざと負けたでしょ?」 「……」 「勝負だよ!?そういうのやめて!」 「次は本気出すよ」 「それ言うの8回目だよ!?」 「次こそ本気だ」 「叔父さんはいつ本気で就活するの?」 「精神攻撃はやめろくれ」
「見ろよ。『底無し沼』だって。本当かな?」 「試してみれば?ヤバかったら引き上げてやるよ」 すると、友人は「ヨシ」と言って底無し沼にドボンした。 「…あ、やべ、これやべぇ!引っ張って!早く!早くぅ!!」 「わかったから落ち着け、ビビリ過ぎだろ」 「違う!何かが俺の足引っ張ってる!!」
「寒いねー!」 「寒いね~」 「雪だねー!」 「雪だね~」 「このまま私達、凍っちゃえればいいのにね」 「どうして?」 「それでね、未来で目が覚めるの。世間の目なんて気にしなくていい、ずっと未来で」 「…いま、こんなに幸せなのに?」 私は手袋を脱ぐと、彼女の手袋も脱がせて、手を繋いだ。
俺は今、落下するエレベーターの中にいる。イチかバチか、こうなったら1Fに激突する直前にジャンプするしかない。俺はフワフワと自由落下している状態だが、落下速度を相殺する程の威力で床を蹴れば助かるはずだ。 ……よし、今だッ‼ おかげで1つ、わかった事がある。 天国って意外と湿度が高い。
「パパ見て!大きな雪だるま作ったの!」 「おぉ、凄いじゃないか」 息子に呼ばれ庭に出てみると、俺の背丈と同じくらいの立派な雪だるまがそこにはあった。 「お婆ちゃんにも見せてあげよう」 「うん!」 と家の中に駆け戻る息子。ふと嫌な予感がして雪だるまを削ると、中でお爺ちゃんが凍えていた。
トロッコ問題。分岐点の先で線路の上に寝かされている5人と1人。どちらを救うかレバーで決める。 「お前ならどうする?」 「寝かされてたっけ」 「そこはどっちでもいいだろ」 「人をどかせて救えないの?」 「無理」 「じゃあ1人を見捨てる。その代わり、トロッコが来る前に、僕も隣に寝てあげる」
12/24は当然予定が無いので、オンラインゲームにログインすると、A君とBさんがいた。2人はリアルでカップルだ。 『あれ?2人はデートいかないの?』 『僕ら先月から同棲始めたんで、今日はお家でゲーム内デートなんです!』 俺は『ゲーム内もイルミ綺麗だもんね♪』と返し、ひっそりとログアウトした。
「先生!いい加減〆切やばいです!最悪、ネームでいいので下さい!」 「はぁ…仕方ない…本気を出すか…」 先生はそう呟き、リストバンドを外して落とすと、床にめり込んだ。 「!?」 「30分、待ってな」 そう言って先生は部屋に籠った。 30分後、部屋に入ると、窓が開いてて先生の姿は無かった。
【Goodbye World】 ※140字以内で完結する小説でした。 ※再掲 今までに投稿してきた140字小説は、溜まり次第、以下のブログに格納していくので、ちょくちょく覗いていただけたら嬉しいです☺ hojokai.blog/?cat=2
昔に付き合ってた彼女曰く、俺はイビキがひどいらしい。マッチングアプリで知り合った女性とそろそろ付き合えそうなので、治せるなら治したい。まずはどの程度かと、寝ている俺のイビキを録音する事にした。翌朝聞いてみると、女の声がずっと、ボソボソと入っていた。妙に、懐かしい声だった。
近所の屋敷に、莫大な遺産を相続した盲目の未亡人が住んでいる。これはチャンスだ。今から懐に潜り込んでおけば、後々、美味しい思いを出来るに違いない。 「マダム。私は貴女の目になりたいのです」 「…貴方も、遺産目当て?」 「神に誓ってNoです」 マダムは笑う。 「心臓の音は、正直ね」
「皆は、無人島に1つ持っていくとしたら何を持っていく?」 それぞれ色々な答えを返す。 ライター、ナイフ、釣り竿、銃… 「俺はこのマフラーだね」 「なんで?」 「彼女が手で編んでくれたんだ。これさえあれば、心は折れないよ」 よく見ると、ラベルが切り取られてるみたいだが、黙ってる事にした。
俺の目の前で、おっちゃんがひったくりにあった。俺は急いで犯人を追いかけ鞄を取り返してやった。 後日 就活の面接に向かうと、あの時のおっちゃんがいた。志望会社の役員だった。 「君のような若者と私は働きたい」と言われ内定ゲット。その夜、俺はひったくり犯を演じてくれた友人と祝杯をあげた。