ダメだダメだ…! 書けたはいいが、読み返す度につまらなく感じる。俺は尊敬する大作家さんに助言を求める事にした。 『どうしたら納得のいく作品を書けるのでしょうか?』 『簡単だ。私の言う通りにしてみなさい』 俺はコンビニに走り、ウォッカを買って一気に飲んだ。俺の作品が、傑作に化けた。
俺のスマホは故障したらしく、通知も来てないのに、時々ブルブルと震えだす。 「きっと寒いんだよ。暖めてあげなよ」と恋人は言った。そういうことをサラッと言える彼女が好きだ。俺はスマホを掌で温めるようにして以来、不思議とスマホは治った。嘘だと思うだろ?その通り。彼女なんていない。
「おいバカやめろッ!」 駅のホームで、緊迫した声に振り向くと、線路に飛び込もうとする男を周りの人達が必死に止めていた。(バズるかも…)と思った俺はその様子をスマホで撮る。間一髪で電車が通り過ぎて行った。動画を見返すと、笑顔で手招きする人達が、向かいのホームに一瞬だけ映っていた。
「質問ある人は?」 「お母さ…あ…先生!」 クラス中に笑い声。 「タケシ君!これで4回目よ?先生はお母さんじゃありません」 「ご、ごめんなさい…」 タケシは真っ赤になって俯く。それでも、タケシの間違いは卒業するまで続いた。 先生が本当の母だったとタケシが知るのは、卒業した後の事だった。
濡れながら帰宅してると、男の人が私に傘を差し出してきた。 「あの…よかったらコレ使って下さい」 「え?いえそんな、悪いですよ」 「僕の家、近くなんで遠慮せず。まだまだ歩きますよね」 「えっと…じゃあ、ありがとうございます」 傘を受け取ると、男の人は去っていった。 親切な人もいるのね。
へー。今時は、外出中でもペットの様子を見れるカメラなんてあるんだ。いくつか買って家に設置した。さっそくスマホで確認してみる。目を覚ましたポチが私を探して家の中をウロついている。可愛い。ポチは玄関まで来ると、施錠した扉を叩きながら叫んだ。「誰かぁ!頼む!ここから出してくれぇ!」
〝独りが好きな人〟オフ会に参加してきた。 店を貸し切り、全員独りで座り、黙々と酒と食事を楽しむ会だ。勿論、話しかけるのはご法度。沈黙に始まり、沈黙に終わる。 そんなオフ会も、今や参加しているのは俺だけだ。俺は〝蟲毒〟の作り方を思い出しながら酒を飲んだ。毒のように、美味い酒だった。
「またお腹が痛くなったのかい?」 「うん!でももう治った!」 そう言ってこの母子はいつも帰っていくのだ。看護師曰く「多分あの子、待合室の鬼滅の刃が読みたくて、仮病使ってるんですよ」との事だ。 後日、いつもの母子が来ると、奥さんはひっそりと私に聞いた。 「あの…先生って独身ですか?」
「桃太郎や、これを持って行きなさい」 「これは何ですか、お婆さん?」 「きび団子じゃ。これを犬とかキジとか猿とかに振る舞いなさい。きっとお主に尽くしてくれるじゃろう」 「おぉ、それは本当ですか?」 「もちろんじゃ。お爺さんは未だにワシにゾッコンじゃからの」
夕日がさす放課後の廊下。 生徒指導室に、意外な生徒が入っていくのが見えた。 「ん?いまの2年A組の委員長だよな。あんな真面目な子でも、生徒指導室に呼ばれたりするんだな」 俺はそれが少し嬉しかった。人間、誰でも過ちはあるんだな。 生徒指導室の前を通り過ぎる時、中から鍵をかける音がした。
彼はスマホを眺めて、愛しそうに微笑んでいる。 ちょっとだけ、嫉妬してしまった。そんな微笑みを向けてくれるのは、私に対してだけだと思ってたから。 「ねぇ、何見てるの?」 「え?あー…コレ」 彼が照れ臭そうに画面を向けると、私の頬は熱くなった。画面には、雪の中の、私の写真が映ってたから。
「豚さん壊したくない…」 娘は豚型貯金箱に愛着が湧いてしまったらしい。しかし、壊さねばお金は取り出せない。 「娘ちゃん」 「?」 「お金を取るか、豚を取るか、選ぶんだ」 「……」 月日は流れ、娘は高校生になった。 「あ~…お金欲しい…」が娘の口癖だが、豚さんは今も、娘の机の上にいる。
「部長、コレを受け取って下さい」 部下から手渡されたそれは、退職願だった。 「…辞めるのか?」 「いえ、辞めるのは部長です。お願いですから退職してください」 「は?」 まさかコイツ…退職願の意味を勘違いしている? すると、部下は続けた。 「部長は、こんな会社にいるべき人ではありません」
ウチの猫のミケとタマ。 この2匹だけが俺の生きる希望であり支えだ。2匹を拾ったその日から、俺はもう死ぬ事を考えなくなった。この子達は俺より先に寿命が来る。その時、俺はどうしようか…。 ある日、ミケの様子がおかしくなった。病院に連れていくと妊娠していた。「生きて」と言われた気がした。
それは古いSNSだった。全盛は過ぎたけど、今でも一部の人は愛用しているそうだ。私は新規アカウントを作り、ログインした。教えられた方法で検索すると、1つの会話がヒットした。 『フォローさせていただきました!』 『ありがとうございます♪』 「これが、パパとママが出会った瞬間かぁ…」
小学校で、給食の時間、女子が転んでカレーを僕にブチまけた。 女子は泣きそうになってる。泣きたいのは僕の方だけど、我慢してこう言った。「ごめんね、僕のTシャツがカレー食べちゃった」 その日以来、僕のあだ名はスモーカー大佐になった。でも1つ気になる事があるんだ。スモーカー大佐って誰?
「最近、英語のリスニング頑張ってるんだ」 「映画を字幕無しで見れるようになりたいって言ってたもんね」 「でも、相変わらず何言ってるか全然わかんねぇんだ」 「そんな難しいの?なんて映画?」 「これ」 俺はスマホで映画を再生する。 「わかる?」 「うん、これがフランス語ってのはわかる」
酔った勢いでお地蔵様を倒してしまった。首が取れて大変なことになっている。 「僕、N山Y太と申します。XX市XX町7-1-2の●●荘の105号室に住んでます…どうか祟らないでください!」とお願いしておいた。 後日、俺の双子の弟であるN山Y太の部屋で、怪現象が相次いだ。祟りにも冤罪ってあるんだな。
AIが奪える人間の仕事には、限界がある。 俺はたった今読み終えた小説を閉じ、涙を拭いた。そう、例えばこういった心を打つ物語は、AIには創れない。なぜなら、AIには心が無いから。文字をどう羅列すれば人の心は動くのか、それは人間にしかわからない世界なのだ。検索すると、小説の作者はAIだった。
彼氏と一緒に受験勉強を頑張った。 2人で同じ大学に合格するために! でも…私は落ちた…。 彼氏になんて言おうか泣きながら悩んでると、彼から連絡が来た。 「ごめん…俺…落ちた」 彼には悪いけど、正直ホッとした。 「私もだよ!一緒に滑り止め大学通えるなら、結果オーライ♪」 「全部落ちた」
家に帰ると荷物が届いていた。僕はすぐに配達担当の人に電話した。 「なぜ荷物が家の中にあるんですか?」 『え?』 「不法侵入ですよね?」 『いえ…奥様が受け取られたのですが…』 意味がわからない。 僕は…独り暮らしだ。 後ろを振り向くと、クローゼットの隙間から、こっちを見てる人がいた。
和装に身を包み、背筋の伸びた義祖父は、老齢ながらも実に凛々しい。 「僕も義祖父さんのように、良い歳の取り方をしたいものです」 義祖父は首を振り、自室に戻ると、グラサンにパーカー姿で出て来た。 「良い歳の取り方とは、人生を楽しむ心を、忘れない事じゃろ?」 最近HIP-HOPにハマったそうだ。
ぐっ……滑って打った頭から、血が止まらない…。 まずいぞ…意識が薄れてきた。救急車は呼べたが、間に合うだろうか…。万が一……俺が死んでも家族が処理に困らないよう…PCや銀行のパスワードを遺さねば……ペン……無い……仕方ない、血文字で残すか……パスは…最愛の…弟の…名……『masayuki』
『やぁ、諸君。目覚めたかね』 「こ…ここは?」 『突然だが、君達には簡単なクイズに答えてもらう』 「お前は誰だ!?」 『更新を怠る大人達を裁く者…とでも言っておこうか。では第1問。鎌倉幕府が成立したのは西暦何年?』 「なんだ常識じゃねぇか!1192年だ」 『……失格だ。〝粛清〟する』
長年付き合った彼氏にフラれた姉は、死ぬほど凹んでいた。心配になって部屋に様子を見に行くと、泣きながらPCのキーボードを一心不乱に叩いていた。 「何してるの?」 「今の気持ちだからこそ書ける文章が、ある気がするの」 姉が作家志望だと、初めて知らされた。 きっと、姉ちゃんならなれるよ。