外がやかましいな…。そうか、今日はハロウインか。せっかくだからSNSでアンケートをとってみた。 『Trick or Treat?』 すると結果はイーブンだった。今思えば酔っていたのだろう。お菓子代わりに自撮り画像を上げるとフォロワー達は驚いた。 『女性だったの!?』 そうだよ。叙述トリック…だっけ?
深夜遅く、やっと晩飯のカップ麺にありつけたかと思えば…急患だ。 帰宅途中、赤信号を渡って車に轢かれた残業帰りの会社員らしい。 看護師は言う。 「いっそのこと、会社に泊まればよかったのに」 俺は答えた。 「せめて、子供の寝顔だけでも見たかったのかもな」 それを叶えるのが、俺の仕事だ。
「ねぇ ワタシ綺麗…?」 「ん?お姉さん どこ?」 「…アナタ、目が見えないの?」 「うん。でもね、おかげで色んな事がわかるようになったの」 「……」 「お姉さんのお顔は見えないけど、心が綺麗なのはわかるよ!そういう声、してるもん」 「……」 「お姉さん?」 以後 口裂け女は現れなくなった
「マッチ…いりませんか…」 マッチ売りの少女に、淑女が声をかける。 「マッチくださります?」 「はい!おいくつをご希望ですか?」 「30前後で」 「では、こちらへ」 少女は淑女の手を引き 待合室へと連れて行く。そこには1人の紳士がいた。 「どうぞ、ごゆっくり」 そして少女は街道に戻っていった
まだスマホも携帯も無かった時代に、どうやってデートに誘ったかって?家の電話に直接かけてたんだよ。好きな子を夏祭りに誘う時の電話は、本当に緊張したものさ。はは、お兄さんが電話に出た時なんて、すごく気まずかったよ。後で教えてもらったんだけど、お兄さんなんていないそうだ。
「ドラ〇えもん、日誌なんてつけてるのか…ちょっと見ちゃえ」 【1月5日】 の〇太君の経過は非常に順調。今回こそセワシ君の未来を変えられそうだ。タイムマシンで戻る度、〇び太君の『初めまして』を聞く事に僕はもう堪えられない。どうか…今回こそ… 「……表紙の〝81回目〟って、もしかして…」
「リア充爆発しろってよく聞くけど、この期に及んでなんで他力本願なんだろうな」 「そりゃ爆破するって言ったら捕まるからな。本物はただ、黙々と実行するのみだよ」 友人が懐からスイッチを取り出して押すと、遠くで大きな爆発音がした。 「……今のは?」 「福音さ」 「……」 「Xmasの夜に、乾杯」
母校で、旧友たちとタイムカプセルを掘り出し、皆で開いた。 「聡君は何入れてたの?」 「昔、君に渡せなかった物だよ」 聡はカプセルの中から小箱を拾い上げる。開くと、手作りの拙い指輪が入っていた。 「僕と結婚して下さい」 「ふふ…もう1度、式も挙げる?」 彼からの、2度目のプロポーズだった。
お爺さんはある日 罠にかかっている鶴を助けた。別の夜 お爺さんの家に白い着物姿の若い娘がやって来た。娘は裾をまくって足を見せると、そこには酷い傷跡があった。娘は氷のような目で問う。 「あの罠を仕掛けたのは誰か、ご存知ですか?」 爺さんは滝汗をかき、答えた。 「ワ、ワシじゃないぞ…?」
「組長、ウチの組員が殺し屋〝ルシファー〟に殺られました…」 「クソッ!またあの中二病野郎かッ!」 「ですが、腕は確かッス。調べようにも、奴の顔を見て生き残ってる奴がいないんスよ…」 「うるせぇ!必ず捕まえてぶっ殺せ!ところでおめぇ、見ねぇ顔だな。新入りか?」 「ルシファーと申します」
医者を辞めた理由? いや、別に激務とか人間関係じゃない。 忙しいのは好きだったし、人から感謝されるのは良い気分だった。 強いて言えば…虚しくなったからかな。 あれは、例年より暑い夏だった。 治した患者が、退院してすぐ、自殺したんだ。 退院する時の、彼の笑顔は、今でも忘れられない。
そっか、もう七夕か。 『恵ちゃんと付き合えますように!』 拙い字で書かれた去年の短冊を思い出していた。あの子の願いは叶ったのかな。そんな事を思いながら、今年も短冊を眺めていると、見覚えのある字に再会した。 『恵ちゃんが幸せでありますように』 あの子の字は、少しだけ上手になっていた。
「またお腹が痛くなったのかい?」 「うん!でももう治った!」 そう言ってこの母子はいつも帰っていくのだ。看護師曰く「多分あの子、待合室の鬼滅の刃が読みたくて、仮病使ってるんですよ」との事だ。 後日、いつもの母子が来ると、奥さんはひっそりと私に聞いた。 「あの…先生って独身ですか?」
慚愧に耐えませぬ。 よもや影武者たる私が生き残り、殿が暗殺されてしまうとは…。 「やむを得なし。影武者よ、今日からそなたが殿として生きるのだ」 「出来ませぬ!影武者である私に、殿の代わりなど!」 「なに、心配はいらぬ」 重臣は笑いながら言った。 「先代の殿も、全く同じ事を申しておった」
こんな会社絶対辞めてやる。と思ってたけど先輩のおかげで考えが変わった。 炎上案件の最中なのに先輩が「今日結婚記念日なんだろ?早く帰れ」と俺の分まで仕事してくれたからだ。この人と一緒に働きたいって思った。だから、彼の耳元でこう囁いたんだ。「先輩。こんな会社、俺と一緒に抜けません?」
「ねぇパパ、大人になると幽霊って怖くなくなるの?」 「うん、昔よりは怖くないな」 「どうして?」 「そうだなぁ…大事な人とか結構 向こうにいっちゃったからかな。幽霊を怖がってちゃ 可哀想だろう?」 仏壇の前で、そんな父の言葉を思い出していた。 お盆くらい、姿見せてくれてもよかったのに。
「…今日も快晴ですね」 「そうですね」 平日の朝、スーツを着た大人が2人、公園のベンチに腰かけていた。クビになったと妻に言えず公園で時間を潰す、同じ穴の狢である。 「…あの、実は僕…」 「なんです?」 「…いえ、なんでもないです」 「?」 次の日から、ベンチに座る男性の姿は1人だった。
現代文の問題用紙を開くと、我が目を疑った。俺の書いた小説が載っていたからだ。 なんで?? これは夢か?? しかし夢ではなく、俺はその問題を解くしかなかった。勿論 全問正解だ。 後日、入試問題に著作物を利用する場合、作家への許可は不要で大抵は事後報告だと、俺の担当編集者が教えてくれた。
ヤンデレの女の子に好かれてしまった。女友達と話してるだけで静かに発狂するし、朝起きたら42件もメッセージが届いてるなんて普通だった。風邪で寝込んだ時も当然のようにいつの間にか部屋にいて、看病してくれた。 「ゴホッ…いいって。病気うつるぞ」 「いいの。私はもう、貴方に病んでるから」
「娘が最近俺のことを、お父さんじゃなくてパパって呼び間違えるんだよ。それが昔みたいで、なんだか嬉しくてなぁ」 「課長それって…」 「ん?」 「いえ、なんでもないです」 「娘がパパ活始めたんじゃないかって思ってるな?」 「…はい」 「パパ活はな、パパ役を『君』や『さん』付けで呼ぶんだよ」
ピンポーン チャイムに出ると、知らない人が立っていた。 「どちら様でしょうか?」 「私、隣に越してきた者です。ご挨拶に来ました」 「あぁ、ご丁寧にどうも」 「こちら、つまらないものですが…」 渡されたのは、お隣さんの自作小説だった。 本当につまらなかった。
昔に比べ、幽霊の目撃情報が格段に減った気がするのはなんでだろう? 息子は言った。 「未練が残るほど、この世に魅力が無くなったからだよ」 娘は言った。 「未練が残らないくらい、幸せな人生を歩む人が増えたんだよ」 霊能力者の祖父は言った。 「ワシらの経営努力を無視すんじゃねぇ」
お婆ちゃんが亡くなってから、家の市松人形の髪が伸び始めた。 しかも、一晩経つと勝手に移動している。何度直しても、翌日にはお婆ちゃんの仏壇の傍に移動してる。きっと、髪の毛は伸び始めたんじゃなくて、お婆ちゃんがこっそり切ってあげてたんだ。 今では、私が髪の毛を切ってあげている。
私は雨の日が好きだった。 小学生の頃、幼馴染の彼がくれた傘を使うことが出来たからだ。 私は雨の日が嫌いになった。 遠くに引っ越してしまった彼を思い出すから、私は傘を押し入れの奥にしまった。 私は雨の日が好きになった。 傘をさすと、隣の彼が言った。 「まだ、その傘持っててくれたんだね」
俺は子供嫌いだ。 常に泣くし喚くし我が儘だし、正直に言って嫌う要素の塊でしかない。姉夫婦が事故で他界して、遺された幼い姪を引き取ってからは地獄だった。 そんな日々も今日で最後だ。純白のドレスを着た姪が口を開く。 「今までありがとう、お父さん」 人前で泣いたのは、子供の時以来だった。