「私、隣の者なんだけどねぇ…アンタんとこの赤ちゃん!毎晩夜泣きがうるさいのよ!」 「ウチ…猫はいるけど、赤ちゃんなんていません」 「…え?」 お隣さんは、青ざめて帰っていった。 夜、夫が帰ってくる。 「はぁ疲れた…大人は辛ぇわ」 夫はそう呟くと、オムツを穿き、おしゃぶりを咥えた。
小3の息子は忘れ物が多い。明日からお爺ちゃんの1周忌で遠出するので、息子には自分の持ち物チェックリストを作らせることにした。 「リストは出来たかい?」 「うん!」 見せてもらうと、玩具やヌイグルミやSwitchがリストに並ぶ中、最後にこうあった。『じいじ いままでアリガトウのきもち』
女友達が手首を切って自殺を試みたが、失敗した。 あり得ない。彼女は敬虔な教徒であり、彼女の宗派では、自殺は地獄に行くほどの大罪なのに。 「なぜ自殺未遂を?」 「恋人に先立たれたの…」 「死に急ぐな。いつか天国で彼に会えるだろう」 彼女は首を横に振った。 「きっと、そこに彼はいないから」
お婆ちゃんが亡くなってから、家の市松人形の髪が伸び始めた。 しかも、一晩経つと勝手に移動している。何度直しても、翌日にはお婆ちゃんの仏壇の傍に移動してる。きっと、髪の毛は伸び始めたんじゃなくて、お婆ちゃんがこっそり切ってあげてたんだ。 今では、私が髪の毛を切ってあげている。
「娘さんを僕にください」 「その言い方は極めて不適切だ。娘は私のものではない。そして君のものでもない」 「…まさか」 「そう。〝蛇神様〟のものだ」 「生贄…ですか」 「村の安寧のため…仕方ないのだ」 その夜。 僕は彼女をつれて村を出た。 その後、風の噂で、1つの村が水害で滅んだと聞いた。
描いた絵を投稿していると、憧れの絵師さんがイイネをくれた。 私はそれが嬉しくて、沢山絵を描いた。 自分でも、昔より大分上手くなったと思う。フォロワーさんもかなり増えた。でも、憧れの絵師さんは、いつの間にか私にイイネをくれなくなっていた。 私はそれが嬉しくて、もっと沢山絵を描いた。
彼女持ちアピールしたかった俺は、彼女代行サービスに手を出した。デート先で2ショットを撮り、SNSにアップする。どこからどう見てもリア充だ。 後日、友人からLINEが届いた。 『お前、女を見る目ねぇな』 『はぁ?なんでだよ』 『だって、俺が見かけただけでも4股はしてるぞあの女、やめとけって』
結婚の報告をすると「これが俺からの精一杯の贈り物だ」って作家志望の友人が俺達のために1編の小説を書いて贈ってくれたんだ。でも絶対こいつ売れないなって思った。不謹慎過ぎる。ミステリだからって嫁さん殺しちゃダメだろ。しかも犯人俺だし。意味わかんねぇ。なんで俺の計画バレてんだよ。
俺は気まぐれに〝鉄道忘れ物市〟を訪れてみた。すると、下手な絵の漫画原稿が置いてあった。まさかと思い、手に取って捲って見ると、俺はその場で泣き崩れた。 「大丈夫ですか?」と店員の声。 それは若い頃、出版社に持ち込む日、怖気づいて電車内に置いていった俺の漫画だった。 「これ…ください」
「塾、行ってきまーす」と玄関から娘の声。掃除をしていた私は「いってらっしゃい」の声だけ返す。 さて、次は買い物だ…と、玄関を出た瞬間、引き返して家中を探した。娘のベッドの下に、塾をサボってスマホを弄っている娘がいた。 「どうしてわかったの?」 「家の前の雪に、足跡が無かったからよ」
「HEY彼女!俺で妥協しなぁい?」 「気に入らない」 「…ですよね」 「違うよ。そうやってフザけて、断られても傷付かないよう予防線を張ってるのが気に入らないの」 「!?」 「失敗を恐れないで。ほら、もう1度真剣に言ってみて?」 「…お姉さん、俺とお茶してくれませんか?」 「僕、男です」
「…チェンジ」 後ろからポーカーを観戦していた俺は驚愕した。Aの4カードが揃ってたのにチェンジだと!? 何たる度胸…これが勝負師と言うものか… 「驚くのも無理はない」 常連らしきギャラリーが俺に耳打ちしてきた。 「あいつロイヤルストレートフラッシュしか知らないから、それしか狙えないんだ」
気が狂いそうだ。 もう何時間も、ベルトコンベアーの上を流れてくるペットボトルを眺めている。100本に1本くらい、倒れてるのを直すのが俺の仕事だ。こんな単純作業、人間のする事じゃない。機械にでもやらせせせせせ世せ世せseesese逕溘″縺溘> 「おい、K-203がまた故障したぞ。早く技術者を呼べ」
「俺達、親友だよな」 「どうした改まって」 「戦場に行く前に、お互いだけの秘密を共有しないか?」 「いいぜ」 「じゃあ俺からな。実は俺の姉、血が繋がってないんだけど、好きになっちまったんだ」 「マジなのか?」 「あぁ。次は、お前の秘密を教えてくれ」 「お前の姉ちゃんと付き合ってる」
「予告通り、今日、お前の命を取り立てる」 死神が鎌を振り上げるのを見て、俺は目を瞑る。 「あぁ。おかげで、人生で最も充実した1年間だったよ」 「どうだ?まだ『死にたい』か?」 「…いや、生きたい」 俺達の間に、沈黙が流れた。 「今までのお前は、今、死んだ」 目を開くと、死神の姿は無かった
「僕、人の未来が見えるんです。貴女の家に盗聴器を仕掛けました」 通りすがりの男は突然私にそう告げると、足早に去っていった。余りに気持ち悪いので、家に警察を呼んで調べて貰った。今日デートだったのに…。 翌日、XX駅で刃物を持った男が暴れたとニュースにあった。私が向かっていた駅だった。
デートで終電が無くなった私は、彼氏の家に初めてお泊まりする事になった。 そしたら、まさかの実家。 まぁいいか。 と思ってあがると、居間に服を着たマネキンが2体座ってた。顔にはクレヨンで笑顔が描かれている。額にはそれぞれ、父・母とあった。立ち尽くす私の後ろで、チェーンを閉める音がした。
マッチングアプリで知り合った男性と待ち合わせしてると、怪しいオジさんが話しかけてきた。 「お待たせしました」 「は?誰ですか?」 「タロウです」 「え?写真と違い過ぎません?」 「あれは10年前の写真ですので」 「いやそれ規約違反じゃ?」 「失礼な。載せてから10年が経過しただけですよ」
「そういえば、もうすぐクリスマスね」 「そうですね。A先輩はサンタさんに何頼むんですか?」 「え?」 「え?」 「B子ちゃん、社会人でサンタは流石に…」 「いえ、サンタはいますよ普通に。去年も来てくれましたし…」 「B子ちゃん、実家暮らし?」 「いえ、一人暮らしです」 「え?」 「え?」
恐ろしい体験をした。 日頃の寝不足もあり、ウトウトしていると、氷のように冷たい手に足首を掴まれたんだ。 「うおっ!?」 びっくりして起きたが、当然、誰もいない。気味が悪いんで俺は急いで風呂場を出て毛布にくるまった。後で思ったんだが、湯舟で寝る俺を、ヤツは助けてくれたのかもしれない。
「お前ってミステリマニアだよな」 「そうだよ」 「今までで一番、読者へのミスリードが上手かった作品って何がある?」 「そりゃ〝名探偵コナン〟一択だよ」 「あぁ…やっぱり?」 「うん。最終回でコナンが大人に戻った時、工藤新一じゃなかった衝撃は忘れられないね」
『最近ウチの子がなかなか言うこと聞いてくれないの…またイヤイヤ期かなぁ』 私の好きな育児エッセイ漫画が更新されていた。私はこのママさんからいつも元気をもらっていた。私も頑張らなきゃって気になる。息子さんが産まれてから今日まで、1日も育児エッセイの更新を忘れないから凄い。30年間も。
「なんだこれ?」 届いた書留を夫が開くと、中身はご祝儀袋だった。私も首を傾げた。私達はもう結婚7年目なのに。だけど差出人である先輩の名を見て、私は彼の言葉を思い出した。 『ごめん…金無くて結婚式行けない…俺が人気作家になったら、必ずお祝いするから』 ご祝儀袋には、100万が入っていた。
ある、雪の日の事だ。 チャイムに出ると、お隣の奥さんが立っていた。 「あの…作りすぎちゃったんで、よければ」 そう言って奥さんは、抱っこしている赤ちゃんを僕に差し出した。 「はは…冗談ですよね?」 「……」 「冗談ですよね?」 奥さんは俯いて、無言で帰っていった。 もう、5年も前の話だ。
「…課長、その腕時計は?」 「あぁ、可愛いだろう?」 俺はキティちゃんの腕時計を誇らしげに見せた。 「え、えぇ…でも仕事場には…」 「そんな顔するな。娘からの誕生日プレゼントなんだよ」 「あ、なるほど」 部下は微笑んでくれた。まぁ、娘なんていないんだが。まだまだ、世の中はポイズンだぜ。