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「若者がよく使う『間違い敬語』の解説をしてください」といった依頼をよく受けます。この時点で私は「協力できるかな?」と疑問を持ちます。取り上げられる「間違い敬語」が、そうとは決めつけにくいものであることが多く、また、「若者がよく使う」かどうか断定しがたいことも多いからです。
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「とんでもございません」は「とんでもないことです」が正しいと言われます。でも、文化審議会の「敬語の指針」(2007)では、「とんでもないことです」は「許し難い」の意味、「とんでもございません」は謙遜の意味で、用法が違うとされ、後者でも〈問題がないと考えられる〉と記されています。
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リアルな若い世代では、そもそもどちらも言わず、「とんでもないです」と言う人が多いと思います。「暑いです」「面白いです」と同じく「とんでもない」に「です」をつけるのは簡単な敬語で、若い世代はもう「とんでもございません問題」をクリアしているともいえます。
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「なるほどですね」は「おっしゃる通りですね」が正しいと言う人がいます。でも、「おっしゃる通り」が失礼な場合もあります。応仁の乱の原因を説明されて「おっしゃる通りですね」と答えると、自分の知識のほうが上みたい。むしろ「なるほど」と感嘆し、丁寧に「ですね」をつけるのは合理的です。
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「大変参考になりました」はだめで「勉強になりました」が正しいとの主張があります。前者は「あなたの話は参考に止める」ことになってだめだと言うのですが、べつに全部あなたの話に従わなくたっていい。「先生のお話は、とても参考になります」(森博嗣『εに誓って』)のように普通に使われます。
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「ご一緒します」は「お供させていただきます」と言うべきだという主張もありますが、べつに自分は家来じゃないですからね。謙遜の程度は後者が大きいけど、前者も「間違い敬語」ではありません。ただ、乃木大将の殉死に夫人が付き合う場合は「お供」がいいそうです(丸谷才一『日本語のために』)。
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「させていただく」は長く嫌われてきたことばです。私は、ほどほどに使えばとても効果的なことばだと考え、愛用しています。なぜこうも使われるのか、本書を読めば分かります。ガチな研究書ですが、読みやすい所からでもどうぞ。▽椎名美智『「させていただく」の語用論』yomiuri.co.jp/culture/book/r…
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乃木坂46の鈴木絢音さんとの「国語辞典対談」が公開されました(前半)。鈴木さんは、つとに知られる国語辞典ファン。じっくりと心置きなくオタク話ができて、とても楽しいひとときでした。先日『小説幻冬』5月号に採録されたのとは別の部分が紹介されています。▽幻冬舎plus gentosha.jp/article/18714/
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読書案内。ディズニーの内部で、女性アニメーターたちが、屈辱に耐えつつ作品に貢献してきた様子が分かります。読書中、参考に昔のアニメを見たり、当時の写真を眺めたりしていたので、昔のアメリカにしばし幽体離脱したような錯覚を覚えました。▽アニメーションの女王たち bookbang.jp/review/article…
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事後報告ですみませんが、けさ(5/24)のNHK「#あさイチ」の夫婦の関係性特集で、配偶者の呼び方についてコメントしました。リモート出演だったので、スタジオとのやりとりが不安でしたが、ウェルカムな雰囲気で助かりました。スタッフの皆さんにも助けられ、とても感謝しています。
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番組では、昔と今の『三省堂国語辞典』の語釈を示し、男女の説明が変わってきたことを示しました。昔はイメージを浮かびやすくしようとするあまり、多様性に考えが及ばなかった。当時としてはやむをえなかったと思います。この話、詳しくは以前ツイートしました。#あさイチ twitter.com/IIMA_Hiroaki/s…
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配偶者の呼称問題、もし時間があれば言おうと思っていたこと――「この呼び名はマルかバツか」ではなく、今話している相手が嫌な気持ちにならないか、自分は嫌な気持ちにならないか、それが大事な観点のひとつです。当事者がべつに違和感もなく納得していれば、何も問題はないわけです。#あさイチ
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鈴木絢音さんとの辞書対談の後半です。「文章で伝わらないことが多くて悩む」という鈴木さん。私も偉そうなことを言いつつ、実は同じ悩みを持っています。▽乃木坂46・鈴木絢音がファンにも伝えたい辞書の魅力 幻冬舎plus gentosha.jp/article/18725/
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コロナ禍で増えたカタカナ語について、インタビューに答えました。カタカナ語は必ずしも悪くないというのが私の考えです。漢語だって、「実効再生産数」とか、分かりにくいことばは多い。もっとも「リコンファメーション」はさすがにまずかったとは思います。▽NHKニュース www3.nhk.or.jp/news/html/2021…
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春斗「『深酒』の前にあることばって何だったと思います?」
三省堂国語辞典「『深さ』かな」
明鏡・岩波・日本国語大辞典「『深さ』だ」
広辞苑・大辞林・大辞泉「いや、『深作欣二』だろう」
春斗「……」
※ドラマのとおり「不可抗力」なのは、新明解国語辞典・新選国語辞典です。#コントが始まる
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ドラマに出てくる国語辞典と言えば、5月20日のフジテレビ「木曜劇場 #レンアイ漫画家」に辞書の一ページが映りました。どの国語辞典だろう、と手近のものを見たが分からない。どうやら、主な国語辞典の説明を組み合わせ、架空の辞書を作ったらしい。小道具さんのこだわりに脱帽します。
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「文春オンライン」に久しぶりに文章を書きました。読点の打ち方に世代差はあるか、伝わりやすい読点の打ち方とは、についての考察です。文章を書き慣れた人にとっては今さら感があるかもしれませんが、お時間のある時にご覧ください。 bunshun.jp/articles/-/465…
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筆者案の標題は「伝わる読点(テン)の打ち方とは?」でした。地味なので、編集部と相談して「おじさん構文」を前面に出した標題となりました。おじさんが読点を多用するように見える理由にも触れているので、まあいいかと思いましたが、「標題がずれている」という反応も多い。申し訳ないことです。
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文章に標題をつけるときは、文章中の最も言いたい部分を抜き出し、要約してつけるのが基本です。「漢字の筆順について」など「~ついて」を使うのは曖昧でよくない。「漢字の筆順は厳密に教えるべきか」など問題提起の形にするか、「漢字の筆順は気にするな」など結論の形にするか、どっちかです。
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この標題のつけかたは、作文やレポートの場合に最も適します。私も多くはこの要領で標題をつけています。でも、本の標題とか、ウェブで発表する文章の標題とかは、これだけでは魅力に乏しいようです。ではどうつければいいのか、経験不足でよく分からないのが正直なところで、毎回困っています。
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パートナーの呼び方について、「日経xwoman」の取材に答えました。このテーマについてはこれまでも発言していますが、多少考えが深まったところもあり、また、一方で舌足らずになったところもあり、です。ご参考になれば。 woman.nikkei.com/atcl/column/21…
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「中抜き」は「中間業者を飛ばす」が本来で「中の者が中間マージンを取る」は誤用だという議論がSNSで盛り上がっていますが、2000年の時点での朝日・読売・毎日の記事を見ると、どちらもあります。「スリが財布の中身を中抜きする」の意味もあり、「昔からいろいろあった」と考えておきます。 twitter.com/IIMA_Hiroaki/s…
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流通の報道では「中間業者を飛ばす」意味の「中抜き」がよく使われます。一方、〈住専返済で1億数千万円「中抜き」、不動産会社元社長らを書類送検へ〉(毎日2000.3.14 西部)など社会面では「差額をだまし取る」意味で使われます。別分野で使われていたことばが、それぞれ一般化したのでしょう。