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結論から言うと、たしかに風向きは変わったように見えます。ただ、当初「量刑が重すぎる」と同情的であった人々が、控訴と同時に「それはおかしい」と一斉に批判に転じた、とも思えません。論理的には、もし量刑が重すぎるならば、控訴は妥当だからです。では、風向きはどう変わったのか。
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地裁判決を報じたあるメディアのツイート(12/16)には、直接のリプライが約100件ついていました。そのうち「量刑が重すぎる」として明確に減刑・執行猶予を望む声は約50件、「量刑は妥当・軽すぎる」という声は約30件(飯間基準で集計)。6対4で同情の声が強いものの、当初から批判もあったわけです。
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一方、弁護人による控訴の時点(12/25)で、メディアのツイートにはさほどリプライはつかず、反応は静かでした。ところが、やがて控訴を批判するインフルエンサーの発言が現れ、リプライが100を超えることもありました。それを見ると、1対9ぐらいで控訴を批判する意見が多くなっています。
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つまり、当初、同情的な人々の陰で沈黙していた人々が、批判的なインフルエンサーに呼応して批判を強めたということでしょう。同一の人々が、短期間に意見を変えたわけではないと考えます。ただ、ちょっとしたきっかけで、発言する人々と黙る人々が入れ替わるんですね。ネット世論の恐ろしい部分です。
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以上は「世の人々は簡単に意見を変えるのか」ということに疑問を持って調べた、きわめて雑な調査です。かく言う私は、この裁判の量刑に関しては「よく分からない」というのが本心です。事件の背景は複雑らしいけど、報道で分かることはあまりに少ない。判決が確定するのを待ちたいと思います。
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著書『知っておくと役立つ街の変な日本語』で、「そば」の仮名に言及した部分です。要は「そば屋さんのこの字、読めませんね」というだけの話です。ただ、先日「せんべい」の変体仮名を使う地域が偏っている、という話もありました。「そば」も注目しなければと思いました。twitter.com/IIMA_Hiroaki/s…
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今年もNHK「#紅白歌合戦」を見ながら、国語辞典の材料となることばを求めて「用例採集」(実際の使用例の採集)を行うつもりです。手近の資料ですぐ分かる範囲で、なるべく参考情報なども添えます。やむをえない離席、居眠りなどもあるかもしれません。あらかじめご容赦ください。
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Foorin「パプリカ」で「心遊ばせあなたにとどけ」と歌われる「心を遊ばせる」は、国語辞典も見落としていますが、「空想の世界に心を遊ばせる」のように昔から使われている慣用句です。「心を解き放ち、自由に羽ばたかせる」といったところか。この歌では、心を飛翔させてあなたに届けたいわけですね。
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アスリートとの殺陣入りで郷ひろみさんの歌う「2億4千万の瞳」。「億千万」が何度もリフレインされますが、「栄花物語」では灯火の多い様子を「億千万灯」と表現するなど、膨大な数を表す伝統的なことばです。「億千万劫(ごう)」(無限に長い時間)というスケールの大きいことばもあります。
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日向坂46の歌の「キュン」という擬態語は、少し前までは「胸が緊張感にキュンとひきしまる」など、胸が締めつけられる様子を広く指しました。今では特に好きな人や可愛いものに対する気持ちを表し、「萌え」に近い用法も。一方、この歌では、胸が締めつけられる切ない意味合いで使われていますね。
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「なんで最後の人を『トリ』と言うか」について「みんなの出演料をまとめて取る」からと、チコちゃんの解説。これは暉峻康隆『すらんぐ』にある説とのようです(当夜の収入を全部取り、芸人たちに分けていたところから)。ファクトチェックの暇はないけど、とりあえずお知らせしておきます。
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Hey! Say! JUMP「上を向いて歩こう」。言わずと知れた名曲ですが、歌詞をよく見ると「一人ぼっち」でなく「一人ぽっち」(半濁点)です。現在「ぼっちカラオケ」「ぼっち飯」と言うし、「ぼ」が多数派でしょうが、「ぽ」とも言います。この歌を歌うときの注意点ですね。なお、語源は「法師」から。
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島津亜矢「糸」で「逢うべき糸に 出逢えることを/人は 仕合わせと呼びます」というのは語源的にも正しいんですね。もともと巡り合わせのことを「仕合わせ」と言い、巡り合わせがいいことを「仕合わせがいいなあ」、縮めて「仕合わせだなあ」、さらに漢字を当てて「幸せ」となった。考え抜かれた詞。
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中村倫也&木下晴香「ホール・ニュー・ワールド」で「魔法のジュータン」。「絨毯」は漢語ですが、「ジュー」と棒を引っぱるのは面白い。「蝋燭(ろうそく)」を「ローソク」、紙飛行機を「紙ヒコーキ」、「琺瑯(ほうろう)」を「ホーロー」など、仲間はけっこうありますね。
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おしりたんていの「ププッとフムッとかいけつダンス」は、「くさいセリフ」「におい」「スッキリ」「ご解決」「しつれいこかせて」と、軒並みお尻関係のことばになっているのですね。これを和歌用語で「縁語」と言う。古典もこうやって理解すれば簡単です。
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Kis-My-Ft2「Everybody Go」は、これでもかと意識的に口頭語を盛った歌詞。「ヤバイ時代」「超盛って」もそうだし、「上がってGO GO!」も「アガって行こう!」、つまり、気分を高めよう、アゲアゲで行こうということですよね。この用法の「あがる」は、現代語の辞書でも十分説明されてない気がします。
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AKB48の歌のおかげで、「フォーチュンクッキー」は誰もが知ることばになりました。ところが、主要な国語辞典にはまだ載ってない。日常的に実物に接する機会が少ないからでしょう。1978年の「刑事コロンボ」では、中華料理店で「クッキーの辻占(つじうら)」という名称で出てきました。
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三浦大知「Blizzard」の「期待を詰め込む圧が乱反射」というのは、周囲からの期待の「圧」(圧力、重圧)ということでしょうか。「圧」は最近、「顔の圧がすごい」などと、インパクトの意味でも使われます。このあたりも、辞書の説明は物足りないかも。
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King Gnu「白日」は、犯した罪をつぐない、「青天白日」の身として生きたい気持ちを歌ったものでしょうか。「真っ新に生まれ変わって」「忙しない日常の中で」はルビもなく使っていますが、難読ですね。それぞれ「まっさら」「せわしない」です。辞書には載っている漢字です。
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福山雅治「零」の「真実はいつもひとつ」「正義は そう 涙の数だけ…」というのはことばの違いの説明として秀逸ですね。数か国が戦争をするときも、それぞれの国に都合のいい正義がある。それから、「事実」と「真実」もまた別のもの。違いをじっくり考えてみたい。
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Little Glee Monster「ECHO」は「駆け抜けた証を掴み取りたいのだから」と応援する歌。今回の「紅白」では「この時代のチャンピオンさぁ 掴めNo.1」(キスマイ)、「震える手は掴みたいものがある」(LiSA)と、目標をつかもうとする歌が印象的です。五輪を控えていることとは関係なさそうですね。
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Official髭男dism「Pretender」で「君とのロマンスは人生柄 続きはしないことを知った」。「人生柄」はあまり耳にしませんが、「人生というものの性質から言って」というほどの意味でしょうか。「仕事柄、飲む機会が多い」のような「~柄」の拡張用法で、面白い用例です。
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「Pretender」ではまた「もっと違う関係で出会える世界線 選べたらよかった」と「世界線」ということばが使われている。ゲーム用語ですね。「歴史の進む路線」とでも説明すればいいでしょうか(雑ですみません)。こうして歌詞に出てくるということは、一般語に近くなっているのかもしれません。
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欅坂46「不協和音」は、2年前にも書いたとおり、周囲からの同調圧力を恐れないという歌だと解釈しています。この「同調圧力」は、その後辞書に載るようになりました。今年秋に出た『大辞林』第4版では「集団での意思決定の際に、多数派の意見と同調させるように作用する暗黙の圧力」としています。