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松任谷由実「ノーサイド」の「歓声よりも長く 興奮よりも速く 走ろうとしていた あなたを」というのは深い詞ですね。人々の歓声や興奮から離れた場所でも、もっと上を目指して挑戦を続けたあなた、と解釈しました。そう的外れでもないのでは。
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嵐「カイト」は洋凧のカイトを歌ったものですね。そのカイトを「思い出よりとても古く 小さい姿でいた」と描写します。カイトを擬人化して「小さい姿でそこにあった」でなく「いた」を使ったのでしょう。「駅前にタクシーがいる」のように乗り物に使うこともありますが、これともまた微妙に違います。
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菅田将暉「まちがいさがし」で「正しくありたい あれない 寂しさが」の部分は「ある」の可能形の否定という珍しい例です。「ある」の可能が「あれる」、その否定で「あれない」。辞書編纂者の見坊豪紀は「国家権力に完全に無関心であれる」という例を採集していますが、珍しいのは確かなようです。
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RADWIMPS「大丈夫」の「僕にだけは見えて 泣き出しそうでいると」は、口頭語なら「泣き出しそうになっていると」などと長くなるところですが、音数の関係でこうしたのでしょう。「君の『大丈夫』になりたい」と「大丈夫」を名詞で使うところも自由さがあって、いい感じです。
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石川さゆり「津軽海峡・冬景色」は、小説のように場所、時代を克明に描写した歌の白眉ですね。今や青函連絡船の記憶がない人のほうが多数派のはずだけど、歌を聴いていると、その場所と時代が浮かび上がるのには驚嘆します。
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ビートたけし「浅草キッド」は、たけしさん自身の芸人らしいことば遣いが反映されていて興味深いです。「くじら屋」はクジラ料理屋、「ちょうたい」は蝶ネクタイですね。しみじみと聴き入りました。
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星野源「Same Thing」は全編英語詞なので日本語の用例採集はできませんが、「Anywho why don't we just karaoke?」の anywho は見たことないな、と思い、英和辞書で見ましたが、出ていません。ネット情報では anyhow(とにかく)の俗語とか。字幕では「とりあえず」と訳していましたね。
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乃木坂46の「シンクロニシティ」は「共時性」という意味で、歌詞の中では「共鳴」と表現されています。元の心理学用語の意味はともかく、ここでは離れた相手と行動や思考内容がぴったり一致することを言うのでしょう。「インフルエンサー」もそうですが、乃木坂が使うと、難しい用語も一般化するかも。
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椎名林檎「人生は夢だらけ」は、「だらけ」を新しい語感で使う例です。従来「泥だらけ」「傷だらけ」など、よくないものに使うことが多かった。ところが、最近は「幸せだらけ」のように言い場合に使う場合も一般化しています。「もういやになるほどいっぱいあって、幸せ」という語感でしょうか。
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King & Princeのメドレーを必死で追いかけ、「koi-wazurai」の歌詞の「キミと何万回もLove勝負(ゲーム)」「正解(こたえ)はKissで」という2つの当て字をゲットしました。「正解(こたえ)」は嵐「GUTS!」でも採集しています。ジャニーズ用語、ではないでしょうけど。
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欅坂46「不協和音」は、2年前にも書いたとおり、周囲からの同調圧力を恐れないという歌だと解釈しています。この「同調圧力」は、その後辞書に載るようになりました。今年秋に出た『大辞林』第4版では「集団での意思決定の際に、多数派の意見と同調させるように作用する暗黙の圧力」としています。
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「Pretender」ではまた「もっと違う関係で出会える世界線 選べたらよかった」と「世界線」ということばが使われている。ゲーム用語ですね。「歴史の進む路線」とでも説明すればいいでしょうか(雑ですみません)。こうして歌詞に出てくるということは、一般語に近くなっているのかもしれません。
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Official髭男dism「Pretender」で「君とのロマンスは人生柄 続きはしないことを知った」。「人生柄」はあまり耳にしませんが、「人生というものの性質から言って」というほどの意味でしょうか。「仕事柄、飲む機会が多い」のような「~柄」の拡張用法で、面白い用例です。
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Little Glee Monster「ECHO」は「駆け抜けた証を掴み取りたいのだから」と応援する歌。今回の「紅白」では「この時代のチャンピオンさぁ 掴めNo.1」(キスマイ)、「震える手は掴みたいものがある」(LiSA)と、目標をつかもうとする歌が印象的です。五輪を控えていることとは関係なさそうですね。
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福山雅治「零」の「真実はいつもひとつ」「正義は そう 涙の数だけ…」というのはことばの違いの説明として秀逸ですね。数か国が戦争をするときも、それぞれの国に都合のいい正義がある。それから、「事実」と「真実」もまた別のもの。違いをじっくり考えてみたい。
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King Gnu「白日」は、犯した罪をつぐない、「青天白日」の身として生きたい気持ちを歌ったものでしょうか。「真っ新に生まれ変わって」「忙しない日常の中で」はルビもなく使っていますが、難読ですね。それぞれ「まっさら」「せわしない」です。辞書には載っている漢字です。
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三浦大知「Blizzard」の「期待を詰め込む圧が乱反射」というのは、周囲からの期待の「圧」(圧力、重圧)ということでしょうか。「圧」は最近、「顔の圧がすごい」などと、インパクトの意味でも使われます。このあたりも、辞書の説明は物足りないかも。
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AKB48の歌のおかげで、「フォーチュンクッキー」は誰もが知ることばになりました。ところが、主要な国語辞典にはまだ載ってない。日常的に実物に接する機会が少ないからでしょう。1978年の「刑事コロンボ」では、中華料理店で「クッキーの辻占(つじうら)」という名称で出てきました。
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Kis-My-Ft2「Everybody Go」は、これでもかと意識的に口頭語を盛った歌詞。「ヤバイ時代」「超盛って」もそうだし、「上がってGO GO!」も「アガって行こう!」、つまり、気分を高めよう、アゲアゲで行こうということですよね。この用法の「あがる」は、現代語の辞書でも十分説明されてない気がします。
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おしりたんていの「ププッとフムッとかいけつダンス」は、「くさいセリフ」「におい」「スッキリ」「ご解決」「しつれいこかせて」と、軒並みお尻関係のことばになっているのですね。これを和歌用語で「縁語」と言う。古典もこうやって理解すれば簡単です。
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中村倫也&木下晴香「ホール・ニュー・ワールド」で「魔法のジュータン」。「絨毯」は漢語ですが、「ジュー」と棒を引っぱるのは面白い。「蝋燭(ろうそく)」を「ローソク」、紙飛行機を「紙ヒコーキ」、「琺瑯(ほうろう)」を「ホーロー」など、仲間はけっこうありますね。
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島津亜矢「糸」で「逢うべき糸に 出逢えることを/人は 仕合わせと呼びます」というのは語源的にも正しいんですね。もともと巡り合わせのことを「仕合わせ」と言い、巡り合わせがいいことを「仕合わせがいいなあ」、縮めて「仕合わせだなあ」、さらに漢字を当てて「幸せ」となった。考え抜かれた詞。
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Hey! Say! JUMP「上を向いて歩こう」。言わずと知れた名曲ですが、歌詞をよく見ると「一人ぼっち」でなく「一人ぽっち」(半濁点)です。現在「ぼっちカラオケ」「ぼっち飯」と言うし、「ぼ」が多数派でしょうが、「ぽ」とも言います。この歌を歌うときの注意点ですね。なお、語源は「法師」から。
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「なんで最後の人を『トリ』と言うか」について「みんなの出演料をまとめて取る」からと、チコちゃんの解説。これは暉峻康隆『すらんぐ』にある説とのようです(当夜の収入を全部取り、芸人たちに分けていたところから)。ファクトチェックの暇はないけど、とりあえずお知らせしておきます。
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日向坂46の歌の「キュン」という擬態語は、少し前までは「胸が緊張感にキュンとひきしまる」など、胸が締めつけられる様子を広く指しました。今では特に好きな人や可愛いものに対する気持ちを表し、「萌え」に近い用法も。一方、この歌では、胸が締めつけられる切ない意味合いで使われていますね。