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『三省堂国語辞典から 消えたことば辞典』の刊行を記念して、私と編著者の見坊行徳さんとで記念対談を行いました。全4回の連載になる予定。見坊さんのお祖父さまにあたる見坊豪紀先生の話に始まり、辞書から消えゆくことばなどについて、とても濃い話をすることができました。dictionary.sanseido-publ.co.jp/column/kietako…
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『三省堂国語辞典から 消えたことば辞典』(三省堂)が刊行されます。辞書マニアとして著名な校閲者・見坊行徳さんが、三省堂編修所とタッグを組み、『三国』からこれまでに削除された項目を徹底解説します。退場したことばたちを惜しんでくださる皆さま、ぜひお手元にどうぞ。dictionary.sanseido-publ.co.jp/dict/ssd36624
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ネットや雑学本には「ことばの誤用説」が頻出するので、それら全部に従っていると、ことばの自由はどんどん狭まります。ことばが窮屈になる現象も観察対象だと割り切って、介入しない方法もあります。一方、「その誤用説は絶対的なルールではない」と判断材料を示すことも意味があると思うのです。
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私が「○○は誤用とは言えない」とあえて書くのは、あることばが「誤用」と公に認定されているかのような主張が多いからです。人それぞれの頭の中に、ことばの「自然・不自然」の感覚があるのは事実ですが、本の著者などが、それを一般に通用する絶対的なルールのように書くのは実害が大きいです。
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ことばを「誤用」とする客観的な根拠がないのと同じく、実は「正用」とする根拠もありません。客観的には「間違ったことば」も「正しいことば」もないわけです。学問的に正誤に決着はつけられない。誤用と感じる人の割合を調査することはできますが、それによって誤用を認定するわけにもいきません。
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省略語のような(「乱れ」とされる)言語形式を、言語学者は叱ったりしません、という川原繁人さんの発言を読みました。全面同意です。言語研究にあたっては、言語現象すべてを大切で貴重な例として取り扱うのが基本のはずだからです。辞書を作る私も同じ姿勢です。ところが一方、(続く)
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後追いとは言っても、もちろん、なるべく現実のことばに近づこうと、辞書の作り手は努力しています。「今までの辞書に載ってなかったけど、こういう言い方、昔から普通にあるよね」ということばを発見したときは、ちょっとドキドキします。
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ある表現が「辞書に載っていない」という理由で使えないならば、私たちの言語生活はきわめて狭いものになります。現実には3つも4つも言い方があるのに、辞書が1つしか載せていないからといって、それだけで通すとなると、とても不自由です。辞書はあくまで、現実のことばを後追いする存在なのです。
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ちなみに、『三省堂国語辞典』は「微に入り細をうがつ」の項目に「微に入り細にわたる」「微に入り細に入る」も示しています。昔の辞書は表現のバリエーションを見落としていましたが、最近は複数の言い方を載せる辞書が多くなりました。誤用だったのを新たにOKにしたわけではないのです。
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「微に入り細を穿つ」は、べつに古い漢文などに典拠があるわけでもなさそうです(「入微」という漢語はありますが)。日本語で独自に生まれた表現で、ほかにも「微を闡(ひら)き細を明らかにし」など、いろんなバリエーションがあります。雑学本は、きわめて無責任に正誤を認定しているわけです。
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一部の雑学本でバツとされる「微に入り細にわたる」「微に入り細に入る」は、古い例があるだけでなく、意味も不自然なところはありません。「細を穿つ」が細かい点まで穿鑿(せんさく)することなのに対し、「細にわたる」は細かい点にまで及ぶこと、「細に入る」は文字どおり中まで入ることです。
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作家や漫画家がしばしばコメントして「ライブで観客と触れ合うミュージシャンと違い、作品の受け手のイメージが湧かない」と言います。辞書の作り手も、少しそういうところがあります。書店で実際に買い求めてくださった方の姿が見られたのはいい経験でした。いつも観察するわけにはいきませんが。
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男性は『三省堂国語辞典』を検討し終え、もう一冊の辞書の検討に移る。検討は微に入り細にわたり、私としては目が離せなくなった。もう一冊の辞書もよくできているし、選ばれるのはそっちかな、と諦めに似た心境。ところが最終的に、男性は『三国』を選び、レジに向かいました。心の中でガッツポーズ。
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先日のことですが、書店の辞書売り場に行ったら、男性が小型辞典を真剣に読み比べていました。手にしているのは『三省堂国語辞典』第8版と、近年新版が出た別の国語辞典。どちらか一冊を買おうとしている様子。物陰からそれとなく見る私。こういうスリリングな経験、普通ないと思います。
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「こちらがカツ丼になります」の「なる」は「あたる。相当する」の意味だと『三省堂国語辞典』第8版には示しています。「むこうが正門になります」などと同じ文型を用いた婉曲表現という説明です。『三国』では「なる」の意味を10以上示しています。「変化する」以外にもいろいろあるわけです。
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「ご飯とか食べて」「カツ丼になります」という言い方についてコメントしました。どちらも特に1990~2000年代頃には批判がかまびすしかったのですが、今では定着が進んだのと、研究者などからも解釈が示されたのとで、議論は落ち着いてきた印象があります。▽J-CASTニュース j-cast.com/2023/02/254564…
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マナーの提唱者が「私たちの仲間は、この言い方を正しいことにします」と言う場合、根拠がいらないというのは賛成です。たとえば「ありがとう」と言うためには、「有ること難し」が語源かどうかは関係ありません。ただ、「そう言わないとダメ」と、他の人の言い方を否定するのは別問題です。 twitter.com/npong0811/stat…
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辞書の「嗜好品」の例から「タバコ」が消えつつあるという話。『三省堂国語辞典』は現在〈酒・タバコ・コーヒー〉を例示していますが、喫煙者はタバコを嗜好するのでなく、タバコにaddict(中毒)しているのだという説明も分かります。『三国』はどう対応すべきか。(続く)news.yahoo.co.jp/byline/ishidam…
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三省堂辞書スタンプはメディアでも話題に。売れ行きに驚愕する三省堂のコメントはこちらです。これからの辞書は、欲しい項目だけダウンロードしてもらうというのもアリかも。▽説明ウザい?辞書スタンプ話題に SNSで反響広がり販売急増...発売の三省堂「非常に驚いている」 j-cast.com/2023/02/064555…
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三省堂が『明解国語辞典』刊行80周年を記念して販売開始した三省堂国語辞典・新明解国語辞典のLINEスタンプですが、ウザい説明が受けているようですね。私もダウンロードしました。
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「その言い方は変だから使うな」と断定的に言うべきでないのは、各人の考える「変」がそれぞれ異なるからです。書き手は周囲の人やネット、辞書などの記述も参考にしつつ、最終的には自分の言語感覚に基づいて書く自由があるし、責任があります。