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「ご苦労さまでした」にしろ「お疲れさまでした」にしろ、「俺は苦労も疲れもしとらん」「目下から言われたくない」と思う人は当然います。そういう人への配慮はあっていい。でも、一般的には、目上に「お疲れさまでした」と言ったとしても問題ない。集中的に批判されるようなことではありません。
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関ジャニ∞「Re:LIVE」の〈変わり採(ど)る夢、時代に 君は未来持ってんだ〉は難しいフレーズです。「変わり採る」は辞書を調べても出てきませんが、〈悲しみを終わりにして また笑顔取り戻して〉から類推すると、「これまでとは変わって新しく採る夢」ということかな。貴重な用例です。
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男性は『三省堂国語辞典』を検討し終え、もう一冊の辞書の検討に移る。検討は微に入り細にわたり、私としては目が離せなくなった。もう一冊の辞書もよくできているし、選ばれるのはそっちかな、と諦めに似た心境。ところが最終的に、男性は『三国』を選び、レジに向かいました。心の中でガッツポーズ。
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日向坂46「君しか勝たん」の「~しか勝たん」は「~が最高だ」などの意味ですが、私が初めて見たのは2019年のことでした。『現代用語の基礎知識』では2021年版(2020年発行)から載っています。こうして「紅白」で歌われると、全国的定着までもう一歩。坂道シリーズの歌は現代語観察では欠かせません。
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Official髭男dism「Pretender」で「君とのロマンスは人生柄 続きはしないことを知った」。「人生柄」はあまり耳にしませんが、「人生というものの性質から言って」というほどの意味でしょうか。「仕事柄、飲む機会が多い」のような「~柄」の拡張用法で、面白い用例です。
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子どもの時、本心でない、きれいごとの作文を書くことに罪悪感を持ったという人がいます。でも、きれいごとが矛盾なく書けたということは、そのきれいごとの論理を理解したということで、悪いことではありません。自分の考えと異なる考え方を理解するトレーニングになっています。
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「○○について調べてみました!」式のまとめサイト、無内容な上に長文で、調べ物のじゃまになるので、何とかならないかと思います。私についての記事もあるんですが、内容が見事なほど間違ってるし、「誤用に厳しい人のようです」などと、私の普段の主張と真逆のことを書かれたりして、やれやれです。
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「お前が打たなきゃ誰が打つ」の文言が不適切で中日の応援歌が自粛とのこと。日本語では「お前」はもとより「あなた」も面と向かっては失礼な場合がある。名前の呼び捨てはもちろん失礼。「高橋さん、高橋さん、今お打ちにならないなら、どなたがお打ちになるのでしょう」なら許可されるかな。
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若い著者の文章で、全体としては自由なことばの使い方をしているのに、いわゆる「誤用」として有名な語句だけ、妙にマニュアルどおりに使っていることがあります。「ならば問題ないだろう」と言われそうですが、ラフなことば遣いの兄さんが、時々急に敬語になるような不思議な感じがあります。〔続く〕
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森会長の発言について「自分は女性だが、そのとおりとしか思えない」「そんなに女性蔑視かなと、女性の自分は思う」との意見があります。「友人の女性たちは、みんな長話をする」と個人が発言したのなら、必ずしも問題になりません。でも、決定権のある立場の人がこれを言うと、差別発言なんです。
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文章に標題をつけるときは、文章中の最も言いたい部分を抜き出し、要約してつけるのが基本です。「漢字の筆順について」など「~ついて」を使うのは曖昧でよくない。「漢字の筆順は厳密に教えるべきか」など問題提起の形にするか、「漢字の筆順は気にするな」など結論の形にするか、どっちかです。
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ある表現が「辞書に載っていない」という理由で使えないならば、私たちの言語生活はきわめて狭いものになります。現実には3つも4つも言い方があるのに、辞書が1つしか載せていないからといって、それだけで通すとなると、とても不自由です。辞書はあくまで、現実のことばを後追いする存在なのです。
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差別発言を陳謝するとき、「不愉快な思いをさせて申し訳ない」と言うことがあります。相手を不愉快にさせてはならないのは当然ですが、ポイントはそこでない。差別発言の本質は、不当に人の可能性や自由を奪ったり、奪う可能性を生じたりすることにあります。そのことについての責任を表明すべきです。
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「忙しいという字は心を亡くす(から余裕を持て)」という教えはありますが、これは「信じる者は儲かる」などと同様の民間字源説で、忌みことばとは微妙に違います。ところが、それがトンデモルール化され、テレビで「喪主挨拶で、お忙しい・ご多忙はNG」などと放送されるに至ったということでしょう。
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倉持益子さんの研究では、1990年代に「上司には『ご苦労さま』より『お疲れさま』がふさわしい」と言われるようになった模様。平成17(2005)年度の国語世論調査では、上司をねぎらう場合に7割近くが「お疲れさま」を選んでいます。「お疲れさまでした」は目上への挨拶の新スタンダードだったのです。
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Aに遅刻を批判されたBが「Aこそよく忘れ物するじゃないか」「Cだってドタキャンしたよ」と責任逃れするのを whataboutism と言う。“What about...”(じゃあ…はどうなんだ)と話をすり替える論法だからです。ネットでは冷戦期に生まれたことばとされていますが、普及は2010年代後半と考えられます。
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>RT
「チコちゃん」の放送は見ていませんでしたが、「湯船」が実は平安時代からあるというのは疑いようがないですね。「諸説あると注意書きしてるのでセーフ」という反応もありますが、こういうのは「諸説」では逃げられない。ていうか、「諸説あります」を逃げるために使ってはいかん。
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「令和」の作り方(構成法)は「昭和」などに似ています。「昭和」は「書経」の「百姓昭明、協和万邦」の「昭明」「協和」から上と下を取って組み合わせたもの。今回の「令和」もそうですね。「平成」は、「内平外成」または「地平天成」という一種の四字熟語から作ったものでした。
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なお『三省堂国語辞典』の「眉をひそめる」を見ると〈①いやそうな顔をする。眉をしかめる。 ②心配そうな顔をする〉で、カバーする範囲は広いです。また、辞書には文字どおりの意味(「窓から手を出す」の「手を出す」など)はありません。「眉をひそめる」は単に眉にしわを寄せるときにも使います。