ジャンルのごった煮感が狙いか無自覚か謎だしインドネシアの土着性を感じる"復讐の女神"的キャラクターまで現れるし全体的になんか…凄い。けれど性的コンプレックスの反動で強さを求める男とそんな彼を愛する更に強い女が、強さと愛を得てなお人としての弱さゆえ悩み傷つき翻弄されるドラマは唯一無二
恋人と共に裏社会から足を洗うため最後の取引を計画した男。弟分が盗まれたドラッグ満載のバンを探しつつ、手を引くと言い出した買い手を説得しつつ、一秒でも返済が滞れば命すら取る金貸しの影を警戒する。この究極のマルチタスク・クライムムービーを観始めたら、次にあなたが一息つけるのは94分後。
落ちぶれちゃった父と一緒に貧乏暮らしなんだけど武家の生まれのおきくさんが、長屋の共同厠から肥やしを買い取ってく下肥買いさんにちょいとホの字になっちゃう映画を上映します。世の中のいちばん下(シモ)から庶民の暮らしと想いの豊かさ厳しさ哀しさ滑稽さを描き出す、観たことないタイプの時代劇。
普段なら交流しない見知らぬ人との出会い、車窓を流れるどこかの土地の風景、かりそめのような贅沢なような食堂車の食事、出発地に置いてきた心残り……旅に、とりわけ列車での一人旅に特有の、あの浮き立つような物悲しいような雰囲気をたたえながら、物語と列車は北へと、終着点へと向かいます。
ヒエラルヒーが転覆して、持つ者が持たざる者に、持たざる者が持つ者に。『フレンチアルプスで起きたこと』や『ザ・スクエア 思いやりの聖域』でも現代社会の規範や基盤がちょっとしたことで壊れたり反転したりする様をシニカルに描写してきた、カンヌ常連の鬼才リューベン・オストルンドの新作です。
建物をル・コルビュジエがイメージした創建時に近づけるため国立西洋美術館が長期休館するというので、その隙に普通だったら入れない裏側やスタッフの本音を撮りまくった映画を上映します。訪れる者なき静謐に沈む絵画たちも、両腕複雑骨折したみたいになってる「考える人」も、ここでしか見れない。
そもそも『ぼくのエリ 200歳の少女』と『裏切りのサーカス』が同じ監督というのが意外という人もいるでしょうが、今回はさらにジャンルを変えておとぼけ窃盗団のゆるくて小洒落た犯罪コメディ。日本でいうルパン三世みたいにスウェーデンで国民的人気だったシリーズの映画化『ギャング・カルテット』。
たった1本の映画だけを自分の監督/脚本/主演で撮って、その1本が人々の、とりわけ映画の作り手たちの心の中にとくべつな位置を占めることになった女性がいます。彼女の名はバーバラ・ローデン。伝説のデビュー作にして遺作、"小さな宝石"と称され愛され続けている『WANDA/ワンダ』を今夏上映します。
スリルもなく失望もなく、10年の刑期で得たポーカーのスキルで細々と生計を立てている男が、投獄の発端となった元上官と再会したことで仄暗い復讐のゲームから降りられなくなっていく映画を上映します。自分の罪は永遠に消えない。奴を許すことはできない。贖罪と復讐、配られたカード2枚が心を壊す。
靴をはいた小さな貝、今はこの家にマルセルとおばあちゃんだけ。実は大家族が失踪していて、それがマルセルの心の傷です。でもおばあちゃんと友達のディーン(この映像↓を撮ってる同居人)に後押しされて、外は未知だし見つからなかったら悲しいけど、勇気を出して探すことに
部屋の中、端正な顔立ちの男が別れの手紙をしたためている…んだけど、ペンもインクも便箋も切手も壊れて漏れて破れて剥がれて、全然、もうほんと情けないくらい全っ然手紙が書けない短編、とか。フランスの才人ピエール・エテックスの映画がどれも洒落てて可笑しくてセンス抜群なので特集上映します。
ブタのことしか考えられないこちらが11/11(fri)から twitter.com/Sarnathhall/st…
その非言語的なドラマを成立させているのが娘役の井上真央と母親役の石田えり。この2人の凄さは「駅でお互いを見つける」という、ただそれだけのセリフなしの30秒の演技でお分かりいただけるのではないでしょうか。凄い… 『わたしのお母さん』11/25(fri)より上映します。
パリの小さなアトリエで、絵は描けるけど物語が作れないイラストレーターの脳内にやんちゃな男子小学生のキャラが生まれたので、ストーリーならお手のものの親友作家と一緒になってその子の世界を拡張してみたら、フランス最高の児童書シリーズ「プチ・二コラ」が誕生してしまった映画を上映します。
ヤンの目を通して【体験】する自分たち4人家族の愛情と絆、そして何も知らなかったヤン自身のこと。庭の朝露のように、ゆっくりと淹れた中国茶のように、繊細で滋味深くて謎めいているこの映画は、たとえ世間のランキングには入らなくても自分の「好きな映画リスト」にそっと忍ばせたくなるはずです。
すでにベネチアとカンヌの映画祭で作品上映経験があり、本作がベルリン映画祭のコンペ部門に選出された中国の新世代監督ルー・ルイジュン。大作系しか追っていないと気づきにくいのですが、こういった規模の作品を細やかに丁寧に仕上げる中国新世代監督たちの仕事ぶりにはいつも驚嘆させられます。
新聞にぽつんと3行「茶飲友達、募集」の文字は高齢者専門売春クラブの広告で、運営の若者たち、在籍する老婦人たち、広告を見た人たちが、寂しさを埋め合うように、空白を持ち寄るように、今日もどこかで生きている映画を上映します。実際の事件が着想源、非常に幅広い世代でヒット中の特別な作品です
だって百万語を費やしても伝わらないことが、このわずか1分の予告編、その冒頭数秒のブレンダン・フレイザーのまなざしだけであまりにも完璧に理解できてしまいます。彼が今の自分、今までの自分をどう感じているのか。A24最新作『ザ・ホーエル』当館では5月頃上映予定です。
「今は何もない」と「元はそこに何かあった」の双極にじわじわ侵食される映画『宮松と山下』は、「ピタゴラスイッチ」でお馴染み佐藤雅彦と、関友太郎・平瀬謙太朗の3名による監督集団「5月」の長編デビュー作。香川照之、津田寛治、中越典子ら出演。12/23(fri)から上映です。
「愛という言葉を持ち出せば、すべてが許されるのだろうか」というキャッチコピーを、無人の荒野に取り残された痩せた牛のようにずっと、反芻しながら観ることになる映画を上映します。妻子ある作家と男女の仲になった作家の女。彼女は関係性の果てに、出家する。瀬戸内寂聴がモデルの傑作小説映画化。
アフガニスタンとパキスタンで35年に渡り活動を続け、2019年に凶弾に命を奪われた医師・中村哲さんのドキュメンタリーを上映します。干ばつの渇きと飢えに人々が苦しむ中、大河クナールから水を引く用水路を7年がかりで建設するという、医療を遥かに超えた地点にまで及んだ活動。その根底にある理念。
身につまされるのはこれが監督の実体験を元にした映画だということ。"これ"を全部くぐり抜けて海兵隊で映像記録担当になって、そして映画監督としてこの作品をつくったということ。二重三重に心を動かされます。 『インスペクション ここで生きる』9/1(金)より上映します。
例えばボブ・ディランが"Like a rolling stone"で「持たざる者には失う物もない/見られぬ者には隠すべき秘密もない/どんな気がする?/誰にも知られぬ/転がる石ころになるのは」と歌ってますが、もし空疎の中に一種奇妙な居心地の良さがあるのだとしたら、それが誰かに、元の自分に、突然埋められたら…
1968年に失恋でメンタルぼろぼろになってインドに行ったらちょうどビートルズの4人も同じ僧院に来ていて、彼らに一対一で愛や人生のアドバイスをもらったり名盤「ホワイト・アルバム」の曲が生まれる瞬間を目撃したりと奇跡のような8日間を過ごして人生が変わった青年のドキュメンタリーを上映します。
何かから逃げたり何かと戦ったりする映画よりも、何かを【受け入れてしまった者】の心の作用と行き着く先をじっと注視していく作品の方が、もしかしたらずっと怖い。北欧発、全米配給権をA24が獲得した『LAMB ラム』は10/28(fri)より上映です。SNSでの告知お待たせしました。