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芥川龍之介の亡き後、菊池寛が文壇で最も信頼していたのは横光利一です。横光の通夜で人目を避けて焼香を済ませた菊池は、物陰に身を隠し、眼鏡を外して涙をぬぐい、そそくさと立ち去りました。そして葬儀で弔辞を捧げた僅か2か月後に亡くなっています。それはまさに跡を追うかのような死でした。
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泉鏡花によれば、小説を初めて褒めてくれたのは樋口一葉で、作品は「夜行巡査」でした。人づてに「近頃にない大変面白いと思つて読みましたつて、お夏さんが賞めてましたよ」と言われ、「半分夢中で聞いた位、其時、嬉しかつたの何んの」と回想しています。「何んの」に実感がこもっていて可愛いです。
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89年前の今日、小林多喜二は特別高等警察の拷問により殺されました。遺体の様子はあまりにもむごたらしく、当時の証言、特に右手の人差し指が反対側に付くくらい骨折していたという記述は、読むたびに涙を抑えるのに苦労します。作家の右手ですから。『蟹工船』を生んだ右手ですから。
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坂口安吾と中原中也は酒場の同じ女給を好きになり、安吾によれば彼女は彼に好意を抱き、それを知った中也は「ヤイ、アンゴと叫んで、私にとびかゝつた」そうです。ところがこれが切っ掛けで二人は親密な中に。安吾は「彼は娘に惚れてゐたのではなく、私と友達になりたがつてゐた」と。本当でしょうか?
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太宰治の行方不明を報じる貴重なニュース映像です。サムネイルの全集第二巻は、彼の生前に唯一配本されました。『斜陽』などの初版本も登場。玉川上水での捜索活動や山崎富栄の父親なども出てきます。www2.nhk.or.jp/archives/tv60b…
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中学校で国語を教えている知人によると、最近は夏休みの宿題で課題図書の読書感想文を書かせる学校が減っているそうです。理由はネットで「模範例文」を簡単に検索できるからとのこと。何であれ、子どもに強制して本を読ませ、感想を人前に晒させる愚かな宿題が少なくなるのは大変結構だと思います。
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太宰治に師事した作家小野才八郎によれば、「太宰治が三島由紀夫を殴ったと、なんとかいう雑誌のゴシップ欄で読みましたけど、本当ですか」と尋ねたら、太宰は「ばか。おれが暴力を振うかい。ただ、こう言ってやったんだよ。『お前のパンツ汚いぞ』って」と答えたそうです。面白すぎて信じられません。
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今日は石川啄木と志賀直哉の誕生日です。志賀が三歳年上ですが、文壇デビューは啄木の方がずっと早く、明治38年に処女詩集『あこがれ』を刊行した時、志賀はまだ学習院高等科の生徒でした。そして大正2年、志賀の第一小説集『留女』が出た時、既に啄木はこの世の人ではなかったのです。
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今日は夏目漱石の命日です。漱石は教職を辞め作家活動に専念する少し前に、「百年の後百の博士は土と化し千の教授も泥と変ずべし。余は吾文を以て百代の後に伝へんと欲するの野心家なり」と森田草平に書いています。そして土や泥はともかくとして、百年の時を経て彼の野心は確かに実現したのでした。
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高校入試で面接試験があり、「最近読んだ本は?」という質問に「菊池ヒロシの『恩讐の彼方に』です」と答えたら、面接委員が「ヒロシではなくカンだよ」と鬼の首を取ったかのように。そこで「いえ、本名はヒロシです」と言ったらむっとされました。幸い合格しましたが、決してマネをしないでください。
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世の中でコミュニケーション能力や対人関係能力が大切なのは確かですが、それを強調するあまり、他人になかなか心を開けない性格の人が息苦しさを感じる社会になってはいけないと思います。「僕は親子兄弟と云ふ血縁の関係にある者に対しても打ち解ける事が出来ない。」谷崎潤一郎の言葉です。
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今日は萩原朔太郎の命日です。昭和17年当時、北原白秋は病床にあり、名札を付けた花籠が朔太郎の祭壇横に置かれました。そして彼もまた同年11月に死去。しかし翌年の『萩原朔太郎全集』監修者には「故北原白秋」の名が。室生犀星が白秋の生前に依頼したものでした。泉下の朔太郎も喜んだことでしょう。
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芥川龍之介は酸味のない果物を好み、特に無花果が一番の好物で、嫌いな筆頭格は蜜柑だと語っています。その蜜柑を題材にしてあの珠玉の名作を書いたのだから、やはり凄い作家です。ちなみに当初『蜜柑』は「私の出遇つた事」の総題の下で書かれ、菊池寛は芥川から口頭でこの話の粗筋を聴いたそうです。
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かつて高校国語教科書に採録されたことがある、ちょっと(かなり?)意外な近代文学作品
①萩原朔太郎「殺人事件」(よくぞこれを)
②芥川龍之介「藪の中」(あのストーリーなのに)
③江戸川乱歩「押絵と旅する男」(遺憾ながら教員の評判は悪かったそうです)
④太宰治「人間失格」(なんとなく採録ゼロかと)
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今日は芥川龍之介の命日ですが、ここでは谷崎潤一郎の生誕135年を祝います。近代文豪数多くあれど、「豪華絢爛」という言葉が谷崎ほど相応しい作家はいないでしょう。「谷崎潤一郎氏は現代の群作家が誰一人持つてゐない特種の素質と技能とを完全に具備してゐる作家なのである。」永井荷風の言葉です。