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中原中也の詩『サーカス』の「茶色い戦争」はなぜ「茶色」なのか。音楽評論家の吉田秀和は、「セピア色」ではなく「中原の頭のなかにあったのは中国の大地や砂塵でした。本人から聞いたから間違いない」と(小池民男『時の墓碑銘』)。ちなみに中也は、生後半年で父親(軍医)の赴任地中国に行っています。
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谷崎潤一郎は弟精二と絶縁状態にあった時、彼の妻の告別式に参列し、手紙の往復が復活しました。「他人でも、兄弟でも、喧嘩をしたらまづ目上の方から折れて出るものです。君もよく覚えておきなさい。」精二の早稲田大学での上司吉江喬松の言葉です。喧嘩の理由にもよるけれど、よい言葉だと思います。
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太宰治が芥川賞候補となったのは1回だけ(第1回)です。佐藤春夫との応酬が有名なので、第3回も候補だったと誤解している方が結構いますが、予選候補にすら入っていません。それにしても、72年前には太宰の遺体がまだ発見されていなかった今日、お孫さんが芥川賞候補と発表されたことに宿命を感じます。
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今日は宮沢賢治の誕生日です。紫式部が亡くなってから千年近く経ちますが、千年後、もし日本や世界が滅亡していなければ、近代文学の代表とされている作家は誰なのでしょうか。漱石?谷崎?芥川?太宰?三島?もちろん正解を知ることはできませんが、賢治は最有力候補の一人だと思います。
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室生犀星は早くに太宰治を評価していた作家の一人でした。『虚構の春』について「人を莫迦にした作品だといふ人もゐたが」「萩原朔太郎氏の初期の詩も北原白秋氏の『邪宗門』もともに当時にあつて変梃子な風変わりなものであつた」と。昭和11年になっても朔太郎と白秋を例に挙げるところが犀星ですね。
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芥川龍之介は、もし生まれ変わるとするならば「もう少し、頭が良くて、肉体が丈夫で、男振りが好い人間に生まれかはりたい」と語っています。肉体はよいとしても、残りの二つは「それは贅沢ですよ、芥川先生」と言いたくなりますね。
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芥川龍之介の若手研究者のフォロワーさんが素晴らしい仕事をされました。「漱石や芥川、太宰などは研究され尽くしている」などという言葉がいかに妄言であるか明らかです。
芥川龍之介の取材手帳を復元 1921年、大阪毎日新聞の特派員時代 | 毎日新聞 mainichi.jp/articles/20220…
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72年前の今日、『朝日新聞』朝刊に「太宰治氏家出か」という記事が掲載され大騒ぎに。ただ太宰の「自殺未遂歴」を知る多くの人は、彼が死んだとは思っていませんでした。しかし美知子夫人は16日朝、「今度だけは本当に死ぬような気がする」と河盛好蔵に話しています。感じるものがあったのでしょうか。
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谷崎潤一郎の命日にあたり、彼の言葉をいくつか紹介しましょう。谷崎の心の奥底が垣間見られる気がします。
「たとへ神に見放されても私は私自身を信じる」
「我といふ 人の心は たゞひとり われより外に 知る人はなし」
「僕は親子兄弟と云ふ血縁の関係にある者に対しても打ち解ける事が出来ない」
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芥川龍之介は与謝野晶子に「奥さん、私は平凡な女の最初の良人になるより、秀れた女の十一人目の恋人になる事を望みます」と語りました。なぜ「十一人目」なのかは不明です。『みだれ髪』の大歌人を「奥さん」と呼ぶのは違和感を覚えますが、夏目漱石も手紙で「与謝野の細君」と。そういう時代でした。
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墓の名前を書いた人(前編)
芥川龍之介→小穴隆一、石川啄木→宮崎郁雨、泉鏡花→笹川臨風、岩野泡鳴→本人、上田敏→岡田正美、尾崎紅葉→巌谷一六、梶井基次郎→中谷孝雄、川端康成→東山魁夷、国木田独歩→田山花袋、斎藤茂吉→本人、志賀直哉→上司海雲、島崎藤村→有島生馬、田山花袋→島崎藤村
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今日は中原中也の誕生日です。昭和2年4月29日の中也の日記には「幼時より、私は色んなことを考へた。けれどもそれは私自身をだけ養ったことで、それが他人にとっては何にもならないことを今知ってる。あゝ歌がある、歌がある!進め。」と。或いは二十歳になった中也の決意表明だったのかもしれません。
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芥川龍之介はヘビースモーカーで、最もお気に入りの銘柄は、中原中也や太宰治も好んだゴールデンバット。箱に印刷されたSWEET & MILDから「吸うと参るぞ」とダジャレも。妻によれば 「煙草がなければよい考も出ない」と語っていたそうです。愛煙家が肩身の狭い現代に生まれなくてよかったと思います。
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森鷗外「渋江抽斎」自筆原稿の一部見つかる sankei.com/article/202207… @Sankei_newsより
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高齢の初版本コレクターがお亡くなりになって、遺言により処分を任されました。本には1冊ずつ購入した金額を書いたメモが挟まっていて、それを見た遺族の期待値はマックスまで高まり、先日は相続税の心配を。「今の売却価格の相場は買値の十分の一以下です」とはとても言い出せない雰囲気でした。