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母のアルバムには星空の写真ばかり入っている。日付は二十年前。独身時代に撮ったようだ。「お父さんと星を見に行ってたの?」母は首を横に振った。「実は違うのよ」「まさか元カレ?」私の質問に母は笑った。「お父さんとは遠距離恋愛でね。夜のベランダで電話してたから、綺麗な星をよく見つけたの」
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余命わずかの僕はコールドスリープを勧められた。低温で眠ったまま、医療の発達を待つのだ。皆にさよならを言って眠った。目を覚ますと、そこは病室だった。そばには見知らぬおばあさんがいた。看護師さんかと聞いたが、違うという。病室を出たきり見ることはなかった。初めての恋人に、少し似ていた。
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三年付き合った人と友達に戻った。ふしぎ、昔より仲良くなった気がする。しばらくしていなかった映画の話、漫画の話、今日流れてきたニュースのこと。トーク履歴が踊るようにぽんぽん増えていく。だけど夏がくる頃、君からの連絡はぴったりやんだ。淡い痛みが胸を刺す。きっと、新しい恋をしたんだね。
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僕ら魔法使いは一般人から恐れられている。本当は皆優しいのに。村外れで迷子になっていた子供を両親のもとへ送り届けると「親切な魔法使いがいるとは」と驚かれた。僕は「当然です」とひらひら手を振って去った。魔法使いは皆、心に余裕があって優しい。何かあれば一般人なんて簡単に消せるのだから。
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僕の好きな子は香水集めが趣味らしい。話を広げたいが、正直香水の類は苦手だ。けれどある日、珍しく好みの香りが漂ってきたことがあった。「新しい香水買っちゃった」その笑顔を見てつい「この香り好きだな」と口に出してしまった。だから近頃すれ違うたびにどきっとする。いつもあの香りがするから。
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昔読んだ本に書いてあった。人は息を引き取る時、向こうの世界に一つだけ好きなものを持っていけるらしい。祖母の着物や叔父さんのカメラが見つからなくなったのもそのせいだろうか。恋人の写真を見ながらそんなことを考える。なら僕を選ばなかった君はやっぱり優しい。あんなに寂しがりやだったのに。
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「親友が結婚するんだ」今週末、友人は久々に帰省するらしい。地元で結婚式に参加するために。「嬉しそうだね」そう指摘すると、友人はカフェのテーブルに肘をついてふにゃりと笑った。「うん。唯一の親友だからね」あまりに幸せそうで寂しいとは言えなかった。私はあなたのこと、親友だって思ってた。
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彼女は面倒な人だった。僕と付き合う気はないくせに寂しがりやで、時々向こうから手を繋いできたりした。けれど彼女に恋人ができた夏、そんな関係も終わった。未だにLINEだけは来るが。そんな面倒なやつ忘れな、と友人は肩を叩く。そう簡単じゃない。あんなに面倒なのに、それでも好きだったんだから。
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愛は目に見えないなんてきっと嘘だ。「このマフラー、せっかく貰ったんだけどほつれちゃった。捨ててもいい?」彼女は白いマフラーを手にそう言った。確かに端の方が少しほつれている。いいよと答えた。それ以外言えなかった。僕だけなのだ。プレゼントが入っていた箱ですらまだ捨てられずにいるのは。
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「好き」は貴方にあげたけど、人生まではあげられない。右手薬指のペアリングを外した。愛されないって泣くのは今日まで。冷たいのも、雑な扱いも、別にいいや。ただの友達に戻るから。『次付き合う子は大切にしてね』最後のメッセージを送信した。長い春が終わる。私は少し、私のことが好きになった。
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好きな人からデートに誘われた。午後二時、駅前に集合。当日は舞い上がりすぎた。何度も着替えたり髪型を変えたりしていたら五分ほど遅くなってしまった。改札を出ると、遠くに君の横顔が見えた。それだけで胸がいっぱいになる。落ち着かない様子で前髪を整えている君が、家を出る前の自分に似ていて。
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年をとっても手を繋いで歩こう。そう約束して結婚した。けれど目尻のシワも増えた今、恥ずかしくて手なんて繋げない。久々に手を差し出されたのは事故で足を怪我した後だった。まだ不安定な私の体を支えてくれた。事故から半年、今日も夕方の散歩道で手を繋ぐ。お互い怪我は治ったと知っているけれど。
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彼と喧嘩して家を飛び出した。真夜中、財布とスマホだけを持ってどかどかと歩く。些細なことが原因だった。振り向いてみるが、誰もいない。彼はこういう時、絶対に追いかけてこない人だ。待ってと言って抱きしめてくれれば、私だってすぐに許したのに。今夜もまた、近くのコンビニに先回りされていた。
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「夜中でも会いたくなるくらい好き」なんじゃなくて「夜中でも会いたくなるくらい不安」なのかもしれなかった。
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彼と別れてから過去の写真を山ほど消した。消すだけで一晩かかって、空が白む頃には涙も枯れた。彼の影響でダウンロードした曲は聴かないと決めた。二人でよく話し込んだ大好きなカフェにだってもう行かない。何もかも遠ざけたのに、真冬の月が美しいだけで誰もいない隣を見上げてしまう弱い私だった。
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もう会えない君が夢に出てきた。「いつまで泣いてるの」と笑う君に「いつまでもさ」と返事をした。胸が苦しくなる。僕とは違い、君だけは若いままだった。君は困った顔で「約束を守ってよ」と呟く。目が覚めると同時に昔のことを思い出した。付き合う時、確かに僕は「君の全てを受け入れる」と誓った。
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夜の公園から秋の匂いがした。「告白の言葉が何だったか覚えてる?」散歩中、君は私の質問にすまし顔で答えた。「俺んとこ来いよ、だろ。懐かしいな」「あはは。嘘ばっかり」隣を歩く君は呆れるほどの自信家だ。だから忘れてあげない。一年前の君が「恋人になってください」と震える声で言ったことを。
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彼が前の恋人に送った言葉が目に入ってしまった。「今が人生で一番幸せ」送信日は二年前。添えられた写真の中の海は宝石のように輝いていた。私はたまらず聞いた。「ねえ、人生で一番幸せだったのって、いつ?」本を読んでいた彼は答えた。「さあ。いつかな」私は悟った。彼の目は今、過去を見ている。
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君と別れてから、人に褒められるくらい可愛くなった。朝、雨空の下を走る電車に揺られ都心へ向かう。ふいに視線を感じた。顔を上げると、斜め前には懐かしい君。けれどすぐ電車を降りていった。半年前と同じ、冴えない後ろ姿で。なぜか負けた気がした。私と別れたくらいじゃ何も変わらないんだ、君は。
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好きなことを仕事にした。生活は苦しい。好きだったことがどんどん嫌いになって、自分を見失いそうで。あの頃の自分に戻りたくて仕事を辞めた。そうだ、また趣味として楽しめばいい。けれど何を見てもちっとも面白くない。ああ、だったら嫌いなまま「好きだったこと」を続けていれば良かっただろうか。
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「おじいちゃん、おばあちゃんになっても一緒にいようね」僕は泣かないように空を見上げながら「うん」と頷いた。病弱な彼女が将来の話をするのは初めて。そっと抱きしめたあの日から随分経った。あの約束は果たされていない。もう皺が増えたのに「おばあさん」と呼ぶと「まだおばさんよ」と怒るのだ。
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大好きな彼女に振られた。不器用な自分なりに大切にしていたのに。長い髪を揺らしながら遠ざかる後ろ姿に「どうして」と問いかけた。涙で潤んだ目が僕を真っ直ぐに見る。「あなたは優しくて、しっかり者で、欠点がなくて」「だったらなんで」曇り空から雨粒が落ちた。「だから疲れちゃった。ごめんね」
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「先輩、今度映画に」「めんどい」デートの誘いを断られ続けて数ヶ月。根負けしたのか、ある日ついにOKが出た。やっとだ。このチャンス、絶対活かしてみせる。けれど当日、準備に手間取り大幅に遅刻してしまった。駅前で思わず泣きそうになる。先輩は遅すぎ、とため息をついた。「次は遅れないでよ」
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先輩、好きな人がいるんだって。一目惚れなんだってさ。そんな噂を聞いてから部活中ずっとそわそわしてしまう。「きっと美人なんでしょうね!その好きな人とやらは」二人きりの廊下で思わずそう言ってしまった。不機嫌なのを隠す余裕もなく。先輩はフッと笑う。「そんなに気になるなら鏡見てくれば?」