覆面バンドのギターを担当していた。出した曲は売れに売れた。けれど人気絶頂の中、まさかの余命宣告を受けた。今は別のギタリストが僕の仮面を被って演奏している。ファンは誰一人気づかなかった。静かすぎる病室でスマホを眺める夜。しつこかったアンチの一人が、弾き方が違うとネットに書いていた。
「別れたい時は一ヶ月以上前に報告してね」「会社かよ」変な彼女だ。心の準備が要るらしい。笑い飛ばしていたのに、他に好きな人ができてしまった。二年目の冬。別れようと言ってから、僕らは懐かしい場所を巡った。大切な話もした。一ヶ月後、彼女はさよならと手を振った。僕とは違い吹っ切れた顔で。
初デートでファミレスに行ったら振られた。金銭感覚が合うか試したかったが、やはり駄目か。「はあ。結局カネか」僕の呟きに、職場の後輩はムッとしていた。「人によりますよ。試しに私とデートしてみますか?」疑う僕は再びファミレスに連れていった。後輩は言った。「普通に話がつまんなかったです」
同棲中の彼はほとんど家事をしない。ありがとうと一言伝えてくれるならまだしも、それすらない。脱ぎっぱなしの服を見てため息が出た。離れるべきか。そんな時、偶然SNSで彼の裏アカを見つけた。「いつも彼女が家事やってくれてて感謝」それを見て私は決心した。別れよう。私に言わなきゃ意味がない。
たばこはやめたんだ、と君は飲み会の席で言った。新しい彼女の影響らしい。私や友人達が何度禁煙を勧めても駄目だったけれど、ようやく重い腰を上げたようだ。「やるじゃん」と褒める私に君は「ごめんね」と小声で言った。その声の温度で、このままやめないなら別れると泣いた夜を思い出してしまった。
今夜別れようと告げるから、夕飯はいつもより時間をかけて作った。最後に感謝の気持ちを形にしたくて。玄関のチャイムが鳴る。靴を脱ぎネクタイを緩めた彼は「俺の好物ばっかりじゃん」と目を輝かせた。「そうなの。それでね」何も言えていないのに涙で前が見えなくなった。もっと上手に別れたかった。
「絶対開けないでね」彼女は僕に封筒を渡して言った。「私のどこが好きか分からなくなるまで」春、彼女は地元を離れた。お互い初めての遠距離恋愛。新鮮だった夜の通話は、すぐ物足りなくなった。僕は冬が来る前にあの封筒を開けた。中のカードにはこう書かれていた。『最後は会ってさよならをしよう』
ラブレターの代筆をした。手紙で告白したいが文章に自信がないという友人のため、便箋三枚を文字で埋めた。本当は代筆なんて良くないかもしれない。けれど家族と同じくらい大切な友人だから断れなかった。告白は成功。「一途な思いが伝わった」と言われたらしい。当然だ、私も同じ人を想っているから。
彼氏と別れてスッキリした。何度も泣いて喧嘩をして、けれど最後は離れる覚悟を決めた。彼好みの長い髪を切って一人旅へ。旅立ちの朝、昔のように濃いメイクをしようとして、手が止まった。ナチュラルな色のコスメしかない。使い慣れた桜色のリップを伸ばす。鏡に映る私は、まだ彼の色に染まっていた。
『あと少しで家に着く』彼からのLINEを受け取り、私は料理の手を止めた。今日はスイーツが欲しい気分だ。『プリン買ってきて。かための』そうメッセージを送ると、すぐに返事が来た。『もう玄関の前だわ。付き合いたての頃なら、戻って買ってたかも笑』帰宅した彼はプリンが入ったレジ袋を持っていた。
最近彼が冷たい。いつも私に隠れるようにスマホを見ているのが、気になって仕方なかった。雨音の聞こえる夜。気がつくと、彼が置き忘れたスマホに手を伸ばしていた。検索履歴には「彼女が喜ぶ旅行」の文字が。外出から帰ってきた彼は、私を抱きしめながら言った。「そういえば、来週友達と旅行なんだ」
好きだけど別れることになった。いつものカフェで、いつもの料理を頼んで、お互いにプレゼントを返した。君からは鍵を。僕からは腕時計を。最後に君が渡したのは、ボロボロの紙切れだった。貧乏な頃に作った、何でも願いを叶える券。「友達に戻ろう」君をそんな風に泣かせるための券じゃなかったのに。
彼は私とは正反対だ。林檎の皮を丁寧に剥く私の隣で、赤い皮にがぶりと齧りつく。彼の部屋では常に音楽が流れているけれど、私はわりと無音が好き。友人からは上手くいっているかとよく聞かれるが、心配無用だ。大切な話をする夜はそっと音を止めて、私が風邪を引けば林檎の皮を剥いてくれる人だから。
ゲームを起動すると、元カノのセーブデータが残っていた。僕がいない時に遊んでいたようだ。外は雨、暇潰しにロードしてみる。登場キャラに変な名前をつけるのがあの子らしい。パスタ、卵焼き。みんな料理名だ。視界が滲み、僕はそれ以上進めるのをやめた。どれもこれも、僕が褒めた料理の名前だった。
卒業式で告白しようと決めていた。三年間の片思いを終わらせたくて。けれど先生は言う。「卒業式は中止です」今日が最後だとすぐに気づいた。「待って」放課後、君の背を震える声で止めた。伝えよう。自信がなくても、友達でいられなくても。準備なんか要らない。私の恋を、無かったことにはできない。
夏までに恋人がほしいな、と友人は言った。「前に告白しようか悩んでた子はどう?」学校近くの喫茶店。私の質問に友人は俯いて答えた。「進展なし」「顔が好みって言ってた子は?」「つかず離れず」何も進んでいないのか。私は呆れて言った。「誰か一人に絞りなよ」友人は顔を上げた。「全部君だけど」
「付き合ってもいいけど一年だけね」告白に対する返事は予想外のものだった。死ぬほどモテる先輩の恋人になれたのは嬉しいけれど、まさか期限つきとは。一年はあっという間だった。このまま付き合っていても幸せそうなのに、やはり先輩は今日までと言った。早く結婚したいというのは本心だったらしい。
高校時代の通学路で、初恋の人と再会した。「最近地元に戻ってきたの」目を細めて笑う彼女は今でも眩しくて、真っ直ぐ見つめられない。お互いの近況を話していると、彼女は急に立ち止まって言った。「ね、名前で呼んでよ」僕は一瞬言葉に詰まった。彼女は続けて口を開く。「最近苗字が変わったからさ」
五年前に別れた人とお茶をした。また恋が始まったら、と想像しない訳ではなかった。「注文しておいたよ」喫茶店に遅れて入ると、君は奥の席にいた。相変わらず気が利く。運ばれたのは桃の紅茶とケーキだった。ふいに切なくなる。やはり私達は終わったのだ。あの頃は甘いものが好きだった、今と違って。
「今日で付き合って一年だね」私の言葉に彼は驚いた顔をした。「え、そうなの?ごめん。晩ごはん豪華だなとは思ってたけど」ベッドでスマホを触る彼は、私よりずっと恋愛経験が豊富だ。「いいよ。私も来年は忘れてるかもしれないし」笑って目を閉じた。本当は、初めて手を繋いだ日まで覚えているのに。
別れ代行サービスを始めた。モラハラ気質な恋人や、逆に付き合いが長すぎてさよならを言いにくい恋人などに、本人に代わり電話で別れを告げるサービスだ。話し合いが得意な自分には天職だと思っていた。一本の電話を受け取るまで。「あの、別れ代行を使いたくて」その声は、同棲中の恋人のものだった。
元彼に関する記憶を消した。泣き続け、八キロも痩せた夏の終わり。医師に相談すると、その日に当時の記憶を除去してくれた。「きっとすぐ新しい恋ができますよ」看護師さんに励まされて病院を出た。その言葉通り、一週間後には一目惚れをした。同じ学科の、見ているとなぜか懐かしい気持ちになる人だ。
📚140字の物語 こちらは140字ぴったりの創作です。
私は幸せ者だ。飲み会から帰った夜。ベッドに倒れこんだ私の代わりに、彼はクレンジングシートでそっと顔を拭いてくれた。「気が利くね」「でしょ?」自慢げに笑う彼は、ヒールでむくんだ足のマッサージまでやってくれた。彼は優しくていい人だ。だから、誰から教わったの、なんて聞かないのだ、絶対。
「昇進したんだって?」モニターの向こうから同期達がひょいと顔を出した。まあね、と頷けば皆悪戯っぽく笑う。「今夜は奢りな!」大して昇給しないというのに、ハイエナのような連中だ。夜、食べたいとせがまれたのは豪奢なフレンチ。支払いをしようとすると、スタッフは言った。「もうお済みですが」