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「あー疲れた。休まない?」サークルの仲間と旅行に行った。少し歩いた後でカフェを指差した君は、皆から運動不足じゃないのとからかわれている。結局、私達は近くのカフェで休憩をとることにした。コーヒーを飲む君は案外元気そうだ。いつ気づいたんだろう?さりげなく手渡された絆創膏を踵に貼った。
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この頃、君は急に可愛くなった。すっきりと切った栗色の髪に、揺れるたびにきらめくピアス。目が合うとすぐに逸らすその仕草が僕の心をくすぐった。「最近変わったよね」やっと二人になれた中庭で、君は真面目な顔で答えた。「好きな人ができたの」それが別れの言葉だと、理解した時にはもう遅すぎた。
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好きな人からラブレターをもらった。放課後、校舎裏で二人きり。「どうして僕に?」「優しくて、頼りになるから……」話すたび、彼女の頬はどんどん紅潮していく。嘘や冗談じゃない。本当に好きなんだ。ラブレターを鞄に入れ、僕は学校を出た。明日友達に会ったら一番に話そう。これ、お前のだよって。
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「好きだけど付き合えない」と君は言った。僕らはまだ学生だった。「貴方にはもっと素敵な人が現れると思う」その言葉通り、眩い人々に出会ってきた。群衆の目を引く美しい人。深く豊かな教養のある人。けれどあの言葉は半分不正解だった。振り返っても、欠点を知る君の隣ほど、愛しい場所はなかった。
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「本を読まない人は好きじゃないな」僕がそう言うと、セーラー服を着た君は分かりやすくむくれた。冷房が効いた放課後の図書室。じゃあ読む、と君は細い腕に山ほど本を抱えてきた。もうじき冬になる。この頃、僕以上の読書家になった君を避けている。読書量しか誇れない僕は、劣等感で潰れそうだった。
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「告白されたら誰とでも付き合うよ」学校帰り、君のそんな言葉を聞いてから、眠れぬ夜が続いた。もし他の子に告白されたら。そもそも、こんな軽い人と上手く付き合える自信もない。ついに君の親友に相談を持ちかけると、彼は驚いて言った。「え?あいつ、好きな子じゃないと嫌だって言ってたけど……」
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「晩ご飯?簡単なやつでいいよ」仕事から帰ってきた夫は、ソファにゴロリと横になった。私は二人の子供を相手しつつ、ご飯出してとスピーカーに話しかけた。すると壁際の食品ポストから四本のチューブが出てくる。ジェリータイプの完全栄養食だ。一本を夫に渡す。これがない時代はよく喧嘩したものだ。
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好きな人と友達が付き合い始めた。けれど私に悲しむ資格はない。友達の背中を押したのは、朝も夜も悩みを聞き続けてきたのは、他でもない私なのだから。「言われた通りにしてたら、本当に恋が実ったよ」当然でしょう。小さい頃からずっとあの人を見てたから。でも、貴方と違って傷つく勇気がなかった。
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彼はいつも返信が遅い。『生きてる?』二日間返事がなくて、追いLINEを送る。翌日『うん』と返ってきた。マイペースすぎ、と呆れる。けれどある時、急に返信の遅さが気にならなくなった。「最近喧嘩しないね」彼はすごく嬉しそうで。私はうんと頷いた。関心が薄れたのだ。友達に戻ってもいいくらいに。
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私も妻も年老いた。なのに妻は言う。「一度くらい海外に住んでみたいわ」私は即座に答えた。「何を言ってる、この歳になって」けれど妻は英会話を習い始めた。笑顔が増えた。時が経つほど若返っていくようだ。数年後、妻は旅立った。静かな部屋で今更気づいた。本当は、置いていくなと心が叫んでいた。
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彼女は昔、寒い時期は手を繋いでくれなかった。「手がすごく冷えてるから……」そんなの気にしないのに。僕の手まで冷えそうで嫌なのだという。けれど三年経つと色んなものが変わった。「温めお願いします!」彼女はニコニコしながら冷えた手を差し出した。雪の中を二人で進む。僕は今の関係が好きだ。
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「あんたは世界一可愛いよ」母は未だにこんな大嘘をつく。私はもう高校生なのに。「環奈ちゃんより?」「もちろん」台所の奥でそこまでか?という父の声が聞こえた。その通りだ。「こんな嘘つくのお母さんだけだよ」「そんなことないから!」春、初めての彼ができたとき、確かに嘘つきは二人に増えた。
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中学生の頃好きだった漫画がネットでバカにされていた。確かに、大人になって読むと呆れるほど単純な展開に思える。だけど憂鬱だったあの頃、漫画の発売日だけが待ちきれないほど楽しみだった。『それでも僕はこの漫画に救われました』勇気を出して書いたコメントには、案外たくさんのいいねがついた。
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彼女が結婚式を挙げたがっている。反対だ、たった一日のために大金を払うなんて。年末年始、喧嘩したまま実家に戻った。話を聞いた祖母は仏壇の方を向いて言う。「挙げてもいいと思うけどね」世間体が、という話だろう。でも僕は気にしない。「私みたいに、一回の式を百回くらい思い返す人もいるから」
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彼はいつも余裕がある。不安を抱えがちな私と違い、心を病むということがまずない。私は彼が羨ましかった。初夏、彼は家に友人を呼んだ。扉の向こうから恋の話が聞こえてくる。「どうすればそんな風に穏やかに付き合えるんだ?」友人の問いに、彼は優しく答えた。「二番目に好きな子と付き合うんだよ」
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妻は恋愛小説家だ。けれど、彼女の本は少しも読んだことがなかった。私が死ぬ前には読んでね、と言われていたのに、彼女は先に亡くなってしまった。妻の死後、僕は初めて本を手にとり、そして泣いた。どの本にも僕と似た人物が頻繁に登場する。僕はいつも、愛よりも孤独を与える人として描かれていた。
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「いつかプロポーズするから」彼が約束してもう三年。静かな部屋で、私はついに本音を零した。「もう私とは結婚したくない?」彼はハッとした顔で答えた。「ううん、君が一生忘れないような、綺麗な言葉が思いつかなくて……」彼が言い終わる前に抱きしめた。ばかな人、これほど嬉しい言葉はないのに。
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「私のこと本当に好き?」なんとなく不安な夜、ソファで眠そうにしている彼に問いかけた。「彼女にしたいと思うくらいには」出た、いつもの答え。まあ素直な彼らしいけど。「たまには別のバージョンも欲しいんですが?」「また今度ね」今度とやらは二年経ってようやく来た。家族にしたくなったらしい。
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「二度目の恋は初恋の模倣だ」高校の先輩は時々そう呟いていた。「だから初恋と比べてしまうのさ」美術室の窓から外を見る先輩は、叶わぬ恋をしていた。ロマンチックで、現実的。そんなキャッチコピーが似合う人だった。春、私は大学生になって恋人ができた。スポーツ好きで素直な人だ、先輩と違って。
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金曜の夜は心が騒ぐ。愛する彼からデートに誘われないかと。家に帰り、動画を流しながら夕食をとる。まだ連絡はない。ついに日付が変わる。それでも通知は表示されない。深夜一時、私はいつものように『明日お出かけしよう』とLINEを送った。翌朝くる『いいよ』に心が曇る、どうしようもない恋だった。
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人間に化ける妖怪がいる。その事実は有名だが、長く化けていると元の姿へ戻れなくなることは案外知られていない。人の形をした妖怪の子は人の形を持って生まれる。妖怪である自覚もなく、本当の姿も知らないままで。だが多感な時期には「自分は人間のふりをしているだけだ」と感じることもあるそうだ。
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『夜九時に、その日あったことを送り合おう』遠い町で暮らす君との、たった一つの約束。退屈な日々を過ごす僕は書くことがない。けれど君は送り続けてくれた。読んだ本のこと。料理に失敗したこと。あの約束を懐かしく思う。今は代わりに声をかける。「今日さ」今度は僕が話そう、写真の中で笑う君へ。
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地獄に落としたい人がいる。同級生だった。地味だけど平穏な私の学校生活を軽い気持ちで壊した人。卒業式まで耐えた私を周りは褒めてくれた。「頑張ったね」「よく乗り越えたね」褒められても喜べなかった。大人になった今、傷だらけの心を抱えて思う。あれは、逃げたっていい試練だったんじゃないか。
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放課後、静かになった教室で友人と話す夕方が好きだった。「好きって言っていいのかな。先輩、彼女いるけど」叶わぬ恋に悩む私の隣で、いつも穏やかに頷いてくれる。「さあ。でも、告白以外にも好意を伝える方法はあると思うよ」例えば?と聞くと友人は窓の外を見て言った。「ずっとそばにいる、とか」