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「嘘つきは泥棒の始まりよ」それが母の口癖だった。素直でいるといつも褒めてくれて。そうやって生きていく、はずだったのに。「御社が第一志望です」「志望動機は……」「今朝はバスが遅れて」ついた嘘の数はもう数え切れず、スーツの下の心臓が重い。この世界で、どうすれば綺麗に生きられただろう。
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恋とは可能性のことだ。「遠距離は絶対に無理」と断言した自分が、随分と変わった。自室の窓を開け、春の月を眺める。その白い輪郭はじわじわと滲む。触れられない恋などありえないと思っていた。なのに記憶の中から優しい声を探してしまう。もう涙を拭ってはくれない、星になった君を想い続けている。
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結婚なんかいいや。付き合うとかも面倒。仕事が楽しくて恋からは遠ざかっていた。朝、通勤中にスマホを触ると、地元の友達が二人目を出産したことを知った。コメントはせずにいいねだけ。画面を更新すると、別の友達が離婚していた。今度は頑張れと一言。ふと顔を上げると、電車は目的地を過ぎていた。
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「うちの学年、誰が一番可愛いと思う?」休み時間、廊下から声が聞こえた。隣のクラスの人だった。そうだなぁ、と悩んでいるのは内緒で付き合っている彼。私は耳を澄ます。嘘がつけない人だから、私の名前を挙げるのではとドキドキした。「一番は……秘密かな」なるほど賢い答え方だ。私は三番だった。
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「親友が結婚するんだ」今週末、友人は久々に帰省するらしい。地元で結婚式に参加するために。「嬉しそうだね」そう指摘すると、友人はカフェのテーブルに肘をついてふにゃりと笑った。「うん。唯一の親友だからね」あまりに幸せそうで寂しいとは言えなかった。私はあなたのこと、親友だって思ってた。
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もう何日も彼から返信がない。それに既読すらつかない。朝から視界がじわりと滲んだ。最後のやり取りも素っ気なかった。今日会えないの?と責める私に、仕事が忙しくてと返す彼。あの日は二人の記念日だった。深夜、彼は事故で亡くなった。私は自分を恨んだ。彼の横でケーキの箱が潰れていたと聞いた。
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恋愛未満のまま一年経った。近くても触れはしない同級生。夜、一人の部屋で着信の音が鳴る、それだけで嬉しいけれど。「何してるかなと思って」君の声が耳に優しい。今週二度目の通話だった。「最近よく電話くれるね。暇になった?」「いや、忙しいけど……」ねえお願い。今日はその続きが聞きたいよ。
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私達はいつから間違い探しを始めたんだろう。たぶん近すぎたんだ。「ねえ、靴下出しっぱなし」「うるさいなあ。今は疲れてんの」こんなやりとりをもう何度も。逃げ場のないワンルームはため息で満ちていた。いつどうしてこんな生き方に変わってしまったのか。最初は確かに幸せを探していたはずだった。
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僕は世界一孤独な小学生だった。テレパシーが使えるせいで家族の裏の顔まで知ってしまう上、相談相手もいなくて。だがある日、僕より多くの超能力を持つ人に出会った。僕に似たその人と話すだけで救われた。あれから十年。僕は大人になり家庭を持った。今年生まれた息子はどこか懐かしい顔をしている。
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死にたいと先生に伝えると、寿命移植のことを教えてくれた。余命わずかの人に対し、使わない寿命を移せるらしい。生きたい人の分も、なんて言葉は古いわけだ。翌日、私は受付センターへ足を運んだ。早朝でも長い列ができている。静かだった。何時間待たされても、途中で列を抜ける人は誰もいなかった。
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想い人から飲みに誘われた。普段より酔っているせいか雰囲気も甘い。互いの視線が絡み合い、やがて向こうが目を逸らした。「告白されるかと思った」冗談めかして言ったのに「しないよ」と真面目に返事をされた。「どんな計算だってできそうなくらい頭が冴えている時の君に、イエスって言われたいから」
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「かわいいって言って。嘘でいいから」朝、鏡の前で何度も服を変えた。アイラインは三度も引き直した。私の誕生日、君に褒められたくて。「なんで。思った時に言わなきゃ意味ないだろ」斜め前を歩く君に、怒りのような悲しみが湧いた。嘘でいいの、嘘でいいから。だって君は一度も言ったことないもの。
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ドラマみたいな出会いじゃなかった。絵になる二人の夕暮れもなかった。けれど誤解されやすい私を「真っ直ぐで素直な人だ」と言ってくれた君の横顔が心を射抜いてしまった。共通点は少なくてちぐはぐな私達。だけどいつの間にか私の言葉も君の心を揺らしたのかもしれない。だって君は今日もそばにいる。
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長年、陰湿な嫌がらせを受けている。相手は匿名。しがない画家である僕をなぜそこまで恨むのか。ついに耐えられなくなり、犯人探しを始めた。すると嫌がらせをしていたのはよく絵を買ってくれるファンだと分かった。理由を聞くと相手は微笑んだ。「大好きなんです。貴方が塞ぎ込んでいる時に描く絵が」
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パパには人に言えない趣味がある。15歳の夏、私は偶然その秘密を知った。タンスの奥、スラックスの下に隠されていたのは、フリル付きのワンピース。一体いつ着ているんだろう。試しに袖を通してみたある日、パパが急に帰ってきた。「マジかぁ」その目には涙が。生前、ママはよくこの服を着たらしい。
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君はいつもそばにいてくれる。雨に追われ、二人で佇む公園の屋根の下。「寒くない?大丈夫?」君はそう言ってパーカーを肩にかけてくれた。自分だって寒いはずなのに。君よりも優しくしてくれる人が、この世界のどこにいるだろう。伏せた睫毛が濡れる。どうして。こんなにも君を、好きになりたいのに。
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「人の心が理解できないロボットなんて古いですよ」科学者である彼女は僕の家でSF映画を見ながら笑った。「むしろ人間より上手く感情を汲みます」僕は思わずヒヤリとした。彼女が断言するのだから事実なのだろう。「だから困るんです。好意を向けられると」彼女は腕に挿していた充電ケーブルを抜いた。
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働き盛りの友は言う。「この頃、深夜にラジオを聴くのが好きだ」と。それを聞いて嬉しかった。忙しい友が新しい喜びを得たのだ。次に会ったらどの番組が好きか尋ねようと思っていたが、幾度電話をかけても出てはくれない。にわかに不安を覚えた。友はラジオを聴いたのではないか、夜明けまで眠れずに。
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彼氏の裏アカを見つけてしまった。真っ黒なアイコンに、プロフィール文には「泣いていいかな?」とある。彼にこんな繊細なところがあったとは。どれ私への愚痴でも書いていないかと探すと、さっそく今朝の投稿を見つけた。「全然会えない。寂しい」これは彼と話さなければ。私は寝室の扉をノックした。
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初めて作った曲を動画サイトに投稿した。誰かが気に入るかもと期待を込めて。『センスない』一週間後、そんなコメントがついただけだったけれど。「曲作りやめようかなぁ」つい弟に愚痴をこぼしてしまった。その夜新しいコメントがついた。『最高っすわ』偶然だな、身内にも同じ口癖のやつが一人いる。
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死んだように生きている。疲れては寝る、を繰り返すだけの日々。この生活をあと何十年続けるのだろう。気怠い夜、ある本のことを思い出した。「人生に迷ったら読みなさい」と恩師に手渡されたものだ。本棚を見てみようとしたが、睡魔に襲われ目を閉じる。今日も疲れた。また明日、気力があれば探そう。
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私は未来のことが分かる。天気も、夕飯のおかずも、何もかも。だから部室に響くトランペットの音を聞くだけで胸が苦しくなる。「頑張るね」私が声をかけると、友人は「最後のコンクールだからね」と頷いた。何が優しさなのか分からなくなって目を背けた。今年の大会は、開催直前で中止になってしまう。
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靴下を片付けろと何度も怒られた僕が、部屋を隅々まで綺麗にして玄関を出た。冷えきった冬の夜だった。歯ブラシもiPhoneのケーブルも、紙切れすら残さないと決めていた。家に帰った時、君はどう思うだろう。自分が情けなくて笑った。もう他人なのに我儘だな。今更、君の寂しさの理由になりたいなんて。