肉抜き第5回(昨日のタクミニナを4として)。本日は「電子レンジ国際論争勃発篇」。我々がベルギーでの発表を終え、翌2008年に論文を刊行して以来、世界各国の研究者も肉抜きを試し、様々な報告中に niku-nuki の語が踊るようになりましたが、6年後の2014年、突然奇妙な表題の論文が世に出されました。
この記事、事実誤認だらけというか、記者に分類学の基礎知識が皆無なことだけが明らかで、酷い。原著を読んだら 𝘋𝘪𝘧𝘧𝘭𝘶𝘨𝘪𝘢 𝘣𝘪𝘸𝘢𝘦 Kawamura, 1918 のネオタイプを指定して再記載したとあり、新種ではない。それに新種は「登録」でなく「記載」するものです。 mainichi.jp/articles/20210…
肉抜き第6(最終)回。肉抜きは電子レンジから原発まで様々な事象に思いがけず関連してしまい、今後も何が起こるか予測できませんが、根本はやはり貝類の多様性を理解するためによい標本を得ることです。また、ベルギーでの我々の発表は「微小」貝類の研究方法のシンポでなされたことをもう一度強調…
肉抜き話へ戴いたコメントのうち、ミニ四駆と並び最も多かったのがRTと同様の趣旨。しかしサザエは日本・韓国の固有種です。近縁な別種は他国にもいますが、国民の大半が食材として認識してる種は他にない。皆さんご存知ないと思いますが私ゃサザエにはちとうるさいよ。その話は近々、稿を改めて。... twitter.com/_k4se_tabg2t/s…
エスカルゴは私が知る限り、力任せに肉をブチ切ってます。食卓では常に前半分しかなく、全体が揃ったものを見た試しがありません。内臓塊はどうせ食わんから要らん、という合理主義でしょうか。日本では内臓を食べない場合でも綺麗に抜くのと対照的です。こういうのをお国柄というのかもしれません。..
要するに、巻貝を食す際にわざわざ完璧に抜こうとするのは日本人ぐらいです。ただし西欧でも、貝人(貝殻蒐集家)だけは昔から肉抜きをしていました。殻の奥に肉が少しでも残るのを嫌うからです。私は肉抜き論文の原稿作成段階ではこれを知らず「肉抜きは日本独自の技法」と書いて投稿したところ、...
両者間の溝が深まりつつある反映で、嘆かわしい」とも書き添えてありました。「溝の深まり」は原文では「growing gulf」(英語では溝ではなく湾なのですね)で、かっこいいのでありがたく修正稿で使用させて戴きました。結局、近年の西洋で主に肉抜きをしていたのは、貝類を食材や研究対象と見る人々..
何と、当時大英博物館にいた貝類分類学の超大物研究者が査読者となり、「我々も茹でたら抜けることぐらい知っている。西欧の貝人をなめるな」との指摘が届いてしまいました。ただ同時に「最近の、DNAからこの世界に入るような若手は肉抜きを知らない。このことは研究者とアマチュアの交流が減り、...
抜くのは難しいと思うけど、どう?」と質問してくれました。壇上でそれを聞いた私は、ツブはあまり得意でないので困って隣の芳賀君に「どう答える?」と聞いたら(その間も会場からは「あいつら何か相談してるぞ」と笑いが起きてました)、彼は「大丈夫ですよ、抜けますよ」と囁き、私も英語で細かく..
ではなく、貝殻を集めて愛でる人だけだったことになります。ちなみに、上記の辛口査読コメントをくれた人は私も面識があり、対面では常に素晴らしく社交的で親切なことで世界中に知られています。ベルギーでの我々の発表の時もその場にいて、質疑応答の際に「僕の経験では新腹足類(バイ、ツブ等)を..
説明するのが面倒だったので、「我々は抜けます!」と言い切ったら、また場内全体に特大の爆笑が起こり、質問者も満面の笑みで、親指を真上に向けた腕をまっすぐ我々の方へ掲げてくれたのを今も鮮明に思い出します。 以上、肉抜き話あとがきでした(短く終わるつもりがまた長くなってしまった)。
ヒミツナメクジ科は俗にいうカタツムリやナメクジ等を含む汎有肺類に属し、いわゆるウミウシとは一線を画すので、「陸ウミウシ」という呼称は不適切で混乱を招くだけです。ヒミツナメクジも私はうるさいよ、だって第一発見者&記載者(共著ですが)だもん。その発見の経緯もいずれここに書こうかな。 twitter.com/reraku/status/…
今日はサザエのお話を書こうかと思ってましたが、一昨日のヒミツナメクジを「なにこれかわいい」とお絵描きして下さった方もおられ、マンボウ博士に至っては #ヒミツナメクジチャレンジ なんて妙なタグまで作ってくれて、折角なのでその発見の経緯などご披露します。時は29年前の1992年まで遡ります。
謎のまま、闇から闇へと消え去ってしまうかもしれません。ヒミツナメクジはとても愛らしい、小さなお化けの子どもみたいな外見を呈するものの、同時に、触れようとするとふっとかき消えてしまいそうな、言い知れぬ儚さを私は感じずにいられないのです。
このところ、当アカウントが「公式」であるにも関わらず、中の人(福田)の主張が目立つ、とのご意見が内外から伝わってきていますので、昨日(7日)、当会では会長以下役員会で今後の対応を協議・検討しました。この結果、①プロフィール欄の表記を実情に即して変更する、②分類学上の情報などは…
サザエの話、いきます。4年前、「日本のサザエは新種」と報道されたことをご記憶の方もおられると思います。しかし、その話の元になった論文が、当会が発行に参画しているMRへ掲載されたことはあまり知られていないので、まずその宣伝を。 doi.org/10.1080/132358… 今日は、活字では未公表の(大学の..
文献をいじった後、20時55分頃帰宅しました。時間を正確に覚えているのは、そのタイミングこそがサザエと私の運命を変えた要因の一つだからです。私はいつも通り、自室の灯りに続けてテレビを点けました。朝視ていた、テレ朝系のままになっていて、画面に映画「日本のいちばん長い日」この後すぐ!と..
講義等では話していますが)、サザエが新種だと私が気づくに至った経緯をご披露します。これはまさに #新種発見のエピソード ですので、バブウンサイさん@Baboon_saiが考案されたこのタグを使用させていただきます。 2016年8月14日夜、文字通り盆も正月もない生活の私は、平常運転で研究室の標本や…
番宣が現れたので、私は「なら視るか」と横になりました。始まった映画は、1945年春から8月15日の終戦まで、太平洋戦争末期の日本の軍部・政府そして昭和天皇の状況を史実に基づいて描いたものでした。私は作品の完成度の高さに引き込まれ、退屈せずに視続けました。.. eiga.com/movie/81487/
物語の背景は画像に示した通り、日本人なら誰もが知る歴史です。映画では中盤で、連合国に降伏を迫られて極限状況に追い込まれた日本の首脳の描写がなされ、やがて8月9〜10日未明にかけての御前会議で、天皇がポツダム宣言受諾を決意する光景が現れます。その翌11日、その決定を不服として、…
東条英機陸軍大将が、天皇に降伏を翻意させるべく宮中に単身乗り込み、反対意見を奏上します。その場面で東條が放った台詞は「陛下のお好きな生物学に喩えて言えば、軍はサザエの殻と申し上げてもいいのであります。殻を失ったサザエは、その中身も、死なないわけには参りませぬ!」でした。それまで..
すっかりリラックスしていた私は「何?今サザエって言ったか?」と感覚のギアが俄かに上がり(職業病です)、本木雅弘が熱演する天皇が何と答えるか集中しました。ところが天皇の返答は、作中の東條にも私にとっても、想像の遥か斜め上をいく予測不能なものでした。天皇は激怒してこう言うのです。...
「サザエは学名をトゥルボ・コーニュトゥスといい、18世紀に英国のジョン・ライトフット尊師が命名したのだ。お前はチャーチル首相がサザエを食す姿を想像できるか。スターリン元帥もトルーマン大統領も、サザエは殻ごと捨てるだろう!」何と、サザエの学名と、それをいつ、どこの誰が命名したかと..
映画の通りなら、太平洋戦争を終結させて戦後日本への最後の扉を開いた鍵は、サザエの学名とその命名者を巡る議論だったとの解釈も可能です。一国の運命を左右するギリギリの局面で皇帝と軍のトップが、よりによって貝の学名の議論をしていたなど、世界史上でも類例のないことでしょう。少なくとも..
いう、普通なら貝類分類学者しかしないような発言が飛び出たのです。叱られた東條は「しまった!」とばかり顔を顰めて「不適切でございました!」と詫び、退散します。映画では東條はこのせいで天皇の翻意に失敗し、日本の降伏への最後の大きな障壁の一つがクリアされたかのごとく展開します。つまり..